ポケットの中には、
こんな夢をみた。
どのクラス、学年も帰りのHRを終え、此処教室棟は静まり返っていた。昼間、賑やかに響き渡っていた足音話し声などは今は一切なく、違う場所に迷いこんでしまったのではないかと疑いたくなる程……其れほどまでに静まり返っていた。
人の気配というものが感じられない教室棟。其所にある数多くの教室の一つに、四階の一番奥北東の方角に位置する教室に、二人の人間がいた。二人の他愛もない会話だけが、物音一つしない此処に響き渡っている。
突然、一人の人間が立ち上がって怒鳴り始めた。もう一人の人間は其に対し、大して驚きも慌てることもせず、只さっきと変わらずに相手の話を聞いている。
暫くすると、先程怒鳴っていた人間が携帯(折り畳み式の物のみを指す)を本来の向きとは反対に折り畳んだ。そしてそれを右手に持って、窓に向けておもいっきり投げた。
それは一直線に窓に向かって飛んでいき、窓に命中した。その勢いは窓に当たっても失わず、硝子の割れる独特の音ともに外へと飛び出した。
するともう片方の人間は重い腰を椅子からあげ、自分の荷物を手に教室のドアへと歩き始めた。それにもう片方も続いた。
物音一つしない廊下を二人の人間が行く。電気の点いていない其処の唯一の光源である陽も、暫くしたら山並みの向こうに沈んでしまうことだろう。
陽は辺りを紅に染め上げている。
校舎をあとにし、目的の場所に向かって歩き続ける。凹凸の激しいアスファルトの道路には、長い影が一つのびている。漆黒の其は膨張し、大きな球を造り上げた。そして地面からプツリと解離した。
暫しの間宙をさ迷った後、破裂した。飛び散った黒は、地面すれすれの所で跡形もなく消え失せた。
ふと先程までいた校舎は見ると、――燃えていた。時々揺れ動く紅蓮の其は、燃え上がる炎に酷似している。
後ろを向くと、東に青白い光が差してきていた。それを見て、終わりが来たことを悟った。
そして、再び体の向きを元に戻す。其所には灯りの消えた校舎があるだけだった。四階の一番奥、北東の方角に位置する教室を見た。目を凝らして見てみても、何処にも割れた窓はなかった。
時間を確認するため携帯を探すと、ポケットの中に小さな金属の球が見つけた。ポケットからその球を取りだし、目を近づけてよく見ると――――
月光の差す、誰もいない学校の教室棟の、ある教室に、携帯のバイブ音が響き渡っていた。