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暁のはじまり

 読みやすくしようと、大陸とか国の説明とか省こうとしてみましたが無駄でした。だんだんと情景描写が増えていきます。


 つまり努力むなしく元の作風に…。

 魔王は言った。


「ならば、世界などいらぬ」



****



 さんさんと太陽の光が降り注ぐ中、細長い道を歩く数名の男女がいた。両脇には草木が茂り、時折鳥の鳴き声が聞こえてくる。

前列を歩いていた盗賊の少年チックが、大きな欠伸を漏らした。


「ふあぁ~」

「…でかい欠伸だな」


 壮年の剣士バーリオが無表情で言った。チックが頭の後ろで、腕を組む。


「だって親っさん、こーんないい天気なんっすよ。ただでさえ眠いのに、次の町まで、まだまだなんて拷問っす!」

「もー、チーちゃんは文句ばっかなんだから!もうちょっと我慢しなさいっ」

「ミルンの言う通りよ。あなたいったい幾つなの」


 人差し指を立てて、「めっ」と叱っている幼女が僧侶のミルン、呆れているのが魔導士のセフィである。

 それを聞いたチックは、頬を膨らませてむくれた。


「う~、皆してオイラを責めやがって!なんとか言ってやって下さいっす、兄貴!!」


 そう叫んだ相手こそ、現在魔王討伐に向かうこのパーティーの勇者ことコウである。

 コウはチックの頭を掻き混ぜるようにしてなでると、にこりと笑った。


「我慢しなさい」

「そんなあ、兄貴の薄情者ー!!」

 

 チックの叫び声が、晴れ渡った空に吸い込まれていった。



***



 事の起こりは、半年前。それ以前から魔王は存在していたのだが、大抵は魔界にこもっており人間たちもそれほど警戒していなかった。

 ところがだ。

 突如魔王は地上に姿を現した。そして、恐れおののく人間たちに宣言した。


『一年やろう。その間に私を倒すことができなければ、人類は滅びると思え』


 王はすぐさま魔王討伐の人員を募る触れ書きを出した。そうして厳選な審査を経て選ばれたメンバーが、コウ、セフィ、チック、ミルン、バーリオの五人だった。

 国王の命令は簡潔だった。


『選ばれし者たちよ。北の果ての城に住まう魔王を倒して参れ』


 五人の目的は、道中の魔物を退治しながら最終的に魔王を打ち倒すこと。そして、人類滅亡を止めること。


 であるはずだったのだが…。



***



「平和よねえ」


 しみじみと呟いたセフィに、ミルンは同調した。


「平和だねえ」

「本当平和…ていうか、平和過ぎだろ!なんすかこののほほんとした空気は!」

「チック、お前にのりツッコミは十年早いぞ」

「いや兄貴。そういう問題じゃないんすけどね」

「…平和は尊い」

「いや、そういう問題でもないっすよ…」


 もういいっす、と溜め息を吐いたチックに、コウが宥めるように声をかけた。


「悪い悪い。つい、な」

「ひどいっす!」

「だから悪いって。まあ、確かにお前の言う通りだよ。魔王が現れてから既に半年、あまりにも兆候がなさすぎる」


 セフィが頷く。


「そうね。これまでの魔物だって雑魚ばかりだったしね」

「でもでも、油断は禁物だよぅ。そういう作戦かもしれないし。それに魔物が弱いんじゃなくて、皆が強すぎるんだと思うんだよ」

「…特にコウ殿が規格外だな」

「兄貴は最強っす!」


 飛びついてくるチックの頭を押さえ付けながら、コウは仲間たちに笑顔を向けた。


「皆がいるから強くなれるんだよ」


 そのまばゆいばかりの笑顔に、セフィがぽっと頬を赤らめた。ついでにチックも頬を赤らめた。


「コーちゃんったら、その男女ったらしの顔どうにかしなよ。チーちゃんが新しい世界に飛び込んじゃうよぅ」

「チックは一発殴っておけば、違う世界に飛び立つから大丈夫だよ」

「天国という名の世界だねぇ。コーちゃんって白いのか黒いのかわかんないよぅ」

「俺はミルンの年齢がわかんないけどね」


 二人の目線が一瞬鋭く交わるが、すぐに満面の笑みで帳消しにされた。


「兄貴の為なら、天国だろうと地獄だろうと!」

「チックはうるさい」


 しょんぼりと肩を落とすチックの頭を、バーリオが慰めるように叩く。

「…ところで黒と白とは何だ?コウ殿の髪は金色だが」

「親っさん、実はオレもわかんないんす」


 二人そろって首を傾げる様子は、まさしく親子のそれだった。セフィが苦笑する。


「わからなくていいと思うわ」


 一拍おいて顔を俯けた。もじもじと指を絡ませながら口を開く。


「そ、それにね。魔王のことは、やっぱり大丈夫だと思うの。どんな罠が待っていたってコ、コココウがいるもの。コウは強くて優しくて、皆が夢中になっちゃうわ。そうよ、きっと旅から帰ったら女の子に囲まれてハーレムでうはうは…」


 ぶつぶつと呟くセフィをスルーして、ミルンが唸った。


「確かにコーちゃんは優しすぎるよねぇ」

「兄貴はおっきな心の持ち主っすから!こないだも魔物を殺さず逃がしてましたよね」


 チックの言うとおり、コウはこれまでの旅路で魔物を殺したことは一度もなかった。せいぜい痛めつけて気絶させる程度だ。

 バーリオが重い口を開いて忠告する。


「…うむ。だが、いつまでも魔物を見逃していてはいずれ我が身を滅ぼすぞ」

「それはわかっているつもりですよ、バーリオさん。これからは手強い魔物も増えてくるだろうし」

「…ならば、よいのだが」

「心配して下さってありがとうございます。皆も、ありがとう」


 コウの言葉に四人はほっとした顔をした。


「さあ、次の町を目指そう」


 コウを先頭に、五人は先の長い道を歩いて行った。吹き抜けた一陣の風は清々しく、闇の気配を感じさせなかった。



***



 それから三日ほど野宿を繰り返しながら、5人はようやく次の町にたどり着いた。どうやらこの近辺には魔物は出没しないようなので、必需品を買い揃えてから次の目的地を決めることにする。治癒アイテムをミルンとバーリオが、食料をチックが、そして魔道アイテムをセフィとコウが買いに行くのがいつもの恒例だ。


「ごめんね、コウ。いつも買い物に付き合わせて」


 セフィが申し訳なさそうに言った。隣を歩くコウは、両手に袋を抱えている。


「気にしなくていいよ。それに、これは結局俺たちのためになるんだからさ」


 そのさりげない優しさに、セフィの胸が高鳴った。初めてパーティーメンバーと対面した時に一目ぼれして以来、コウへの好意は募るばかりだ。


(この旅が終わる前に伝えないと……)


 自分が魔法が得意でよかったと、あの時ほど思ったことはなかった。それは、もちろん現在も変わらない。コウの傍にいられるのなら、どんな努力でもしようと思った。


(チックも同じ思い、っていうのが気に食わないけど)


 あの少年の勇者への陶酔ぶりには、なかなか敵う者はいないだろう。目下のライバルが男ってどうよ、とセフィはため息を吐いた。


「どうしたの?」


 ため息に気付いたのか、心配そうにのぞきこんでくる。セフィは慌てて首を振った。


「だ、大丈夫よ」

「なら、いいけど」


 そこでセフィは、はっと思い立った。


(このチャンスに手を繋いじゃえばいいんだわ!「セフィの手って小さいんだな…」「いやだコウったら」みたいな展開になっちゃったりして!!)


 一歩前進(と乙女の妄想)のため、とセフィはコウに何気なしにといった体を装って話しかけた。

「ねえ、コウ。ここ人が多くてはぐれそうだから……、て、手をつなながない?!」


 しーん、と沈黙が下りた。あまりの恥ずかしさにセフィは顔を俯ける。


(噛みすぎでしょ、私!)


 穴があったら入りたい、とはこのことだろう。顔から火を噴きそうなセフィだったが、上から漏れ聞こえてきたコウの笑い声に顔を上げた。


「ふ、ははっ。わ、悪い悪い。おもしろくってさ」

「ひ、ひどいわ!」

「ごめんって」


 憤慨するセフィにコウは手を差し出した。


「お詫びにつなごうか」

「……!」


 無言でうなずいて、コウの方に手を差し出す。セフィの表情は、自然と緩みきったものになった。コウの顔も、穏やかな色を宿している。

 二つの手が重なり合おうとした、その時だった。


「はーはっは!女と色ぼけてるとは、大層な余裕だなあ勇者!!」


 高らかに声を張り上げて、地上に降り立った者がいた。それを見た町の人々が悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。


「貴様は…!」


 振り向いたコウは、すかさず荷物を脇に置き来襲に構えた。セフィも後ろで呪文を唱えてはじめている。


「オレは、魔王陛下直属部隊の第一隊長。いつものようにはいかないと思え!!」


 そこに立ちはだかっていたのは、虎の頭に人間の体を持つ巨大な魔物だった。手に持っていた槍を下すと、それだけで地響きがした。揺れに動じることもなく、コウはすっと目を細める。


「戦いの前に一つ、答えろ魔物。なぜこの町に現れた」


 魔物が現れるという情報は、事前にはなかった。それがパーティーが町に入った途端、現れた。どう考えても不可思議だ。


「なぜ?なぜって、そりゃあ……」


 それまで天晴なほどに堂々としていた魔物が、突然口ごもった。


「だからそりゃあ、お前がそこの女と……」

「ああー!!まさか貴方…!」


 そこでセフィが大きく叫んだ。

「まさか自分に彼女がいないのに、私とコウが仲良くしているのを見て逆恨みしたのね!」

「そうなのか?」


 絶対そうだと決めつけているセフィの態度に、魔物はズッコケそうになり、次いで言い返した。


「なわけある………………」


 か、と訂正しそうになって、はたと口を抑える。そして言いつくろった。


「なわけある……ぞ!そうだ、その通りだ。オレはこないだ失恋したんだよ!」


 魔物の態度を疑問符を浮かべるコウとは対照的に、セフィは怒りにぶるぶると震えた。


「なんて奴なの!馬に蹴られて死んでしまいなさい。まあ、その前に私が殺るけどね!!」

 そう言って放たれた特大の魔砲弾だったが、魔物に難なくかわされた。

「はっ、当たらなければ意味がないな!」

「そうだね」


 その声に、魔物はぎょっとして後ろを向く。魔導師に気をとられて、勇者の存在を忘れていた。間一髪で攻撃を避けるも、先程までいた地面が割れているのを見てぞっとする。勇者は、彼の得物である大斧(たいふ)を軽々と引き上げ、再度振りかぶった。なんとか避けて態勢の立て直しを図ろうと思ったが、いつの間にか周りに結界を張られていて身動きが取れない。


(つ、強い)


 内心勝てるだろうと踏んでいたのだが、大間違いだったらしい。これに残りの仲間三人が加わったらどうなるのか、考えるだに恐ろしかった。


「覚悟しろ!」


 コウは斧を持ったまま跳躍した。もちろん、これまで通り殺すつもりはなかった。魔物の顔の横に、皮一枚をはさんで刃を突き立てる。これで去っていかなければ、手足を傷つけるしかない。


「さ、さすが勇者といったところだな」

「わかったなら、さっさと去れ」

「ああ、そうするとしよう」


 魔物がゆっくりと立ち上がる。コウとセフィは、それを警戒しながら見つめていた。そこへ騒ぎを聞きつけた仲間たちが集まってくる。すぐさま戦闘に入れるように構えている五人を見ながら、魔物は咆哮した。


「勇者よ、お前は甘い!これまではそれで上手くいったかもしれんが、これからはそうもいかんだろう!!」

「何を言う」


 コウは目を眇めた。魔物は牙を見せて笑って見せる。


「次に待ち構えるのは、我が軍の将軍の一人。魔界三本柱に数えられるお方だ!」

「何だと!」


 パーティーがざわりと揺れた。


「この町を出て、最初の道を右に真っ直ぐ行った北東の屋敷で待ち構えていらっしゃる!」

「……そうか」


 チックが地図を取り出して、道を確認し始めた。


「回復アイテム五個と、水系魔力付加アイテムがなければ勝てんだろう!」

「………なるほど」


 ミルンとバーリオが先程買った品物の個数を確認する。


「ついでに、向かう途中の森に隠してある水剣アクアトルがあれば、更に勝率が上がるかもな!」

「…………それは、どうもご親切に」


 コウとセフィが、一応礼を言った。


「がはは、気にするな。それでは、さらばだ!」


 だんだんと白けていくパーティメンバーの視線に気づくことなく、魔物は去って行った。とても嬉しそうにスキップをしている。やはり人外のものは理解できない存在だ。

 しばらくの沈黙の後、ミルンが努めて明るく声をかけた。


「よ、よかったねぇ!コーちゃんとセーちゃんが怪我しなくって」

「そ、そうっすね。怪我がないのが何よりっす!」

「…うむ、遅くなってすまなかったな」


 三人の言葉に、セフィが戸惑いながらも頷いた。ついで何やら考え込んでいるコウに向かって言う。


「ねえ、コウ。私、今までの奴がやたらと次の行き先とか必要なアイテムとかに助言してくれるのは、雑魚だからだと思ってたの」

「…ああ、俺もだよ」

「でも、今の魔物って……」


 二人は魔物が高らかに叫んでいた台詞を思い返した。


『オレは、魔王陛下直属部隊の第一隊長だ!』


 隊長とは、曲がりなりにも偉い地位であるはずであり、決して雑魚ではない。もしかしたら、脳筋バカなだけかもしれないが、隊長ということは強いはずだ。

 コウは腕を組んだ。


(何か……、大事なことを見落としている?)


 しかし、それが分からない。落ち着かない雰囲気のまま、五人はとりあえず町の人たちに安全を伝えに行った。その途中、ミルンがふと空を見上げると、雲の量が増えていた。


「風が、変わったかなぁ」


 呟きは、さわやかとは言い難い風に流されていく。


 そして数時間後、空には灰色の雲が重く垂れこみ、雨が降り出した。激しい音を立てて屋根を打つ雨粒が、涙のように窓を伝って落ちて行った。





 ゴロゴロと雷が鳴り響く中、虎の首を持つ魔物が意気揚々と帰路についていた。敗北したにもかかわらず、鼻歌を歌っていた魔物は嬉しそうにつぶやいた。


「変わってねえなあ」





 チックは今後さらにギリギリになる予定←

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