『くびれ鬼』に憑かれたけど、思ったのと違う(コメディ版)
「よう、どうしたんだトシオ。元気ないな」
「ワタルか。実はオレ、『くびれ鬼』に取り憑かれててさ」
「くびれ鬼? なにそれ」
──『くびれ鬼』とは、人に取り憑いて首を吊らせる妖怪といわれている。
「ほんとにそんなのいるのか?」
「じゃあ、家に見に来るか?」
「……え、家にいるの?」
──トシオの家
「おかえりー、トシオ♪」
くびれ鬼が出迎える。
「こ、これがくびれ鬼か!?」
ワタルは目を見張った。
──そこにいたのは、女の鬼だった。
頭には角があり、虎の皮を身にまとっているので、確かに鬼のようだ。
しかし、その虎の皮は、胸と腰の部分にしかまとっておらず、さながらビキニのようだった。
「ず、ずいぶんスタイルのいい女の鬼じゃないか、トシオ」
「だろだろ?」
トシオは、にやにやと笑っている。
「なんとも腰が……、いいくびれだなあ」
「そうよ♪ だからあたしはくびれ鬼なの」
「そのくびれかい!」
「でさ、ワタル。オレ、この『くびれ鬼』に取り憑かれてるんだよ~」
トシオの表情はゆるみきっている。
「トシオ、お前、顔がにやけてるぞ! うらやまし……いや、けしからん……」
トシオは『くびれ鬼』を飽きもせずに眺めている。
「なあ、トシオ。どうやって取り憑かれたんだよ。オレにも教えろよ」
「どうやってって言われてもなあ……たぶんだけど、『首吊り橋』ってあるじゃん? あそこを通ったときに憑かれたんじゃないかな……あっ、おい……」
トシオの言葉が終わるか終わらぬうちに、ワタルは家を飛び出した。
ダッシュで『首吊り橋』に向かう。
「こ、ここか……ハアハア……」
そこは町はずれで人気がなく、小さな谷にかかる橋だった。地元では俗に『首吊り橋』と呼ばれている。
ワタルは、何度も橋を往復した。
「……これだけ往復したら、取り憑かれたかなあ。とりあえず帰ってみよう」
──ワタルは帰宅すると、自分の部屋に入った。
「うまくいったかなあ。ささ、『くびれ鬼』ちゃん、いらっしゃ~い」
ワタルは髪をかき上げた。
「あたしのこと、呼んだ~?」
背後から声がする。
(おおおお!)
心の中で歓喜の叫びを上げながら振り向いた。
──そこにいたのは、鬼だった。
……いわゆるイメージ通りの鬼だった。角があり、虎柄のパンツをはいた、筋肉モリモリマッチョマンの男鬼だった。
「……これとちがーーう!」
「いいえ、あ・た・し、『くびれ鬼』よ♪」
男鬼はクネクネしている。
「いや、お前は違うだろ!」
「いやん♪ よく見てよ」
男鬼が腰をひねると、確かに逆三角形の上半身が腰にくびれを形作っていた。
「な……なるほど、これも『くびれ鬼』には違ないか」
「そうよ。よ・ろ・し・く♪」
「……よろしくって、お前、もう帰っていいぞ」
「やだー♪ あ・た・しはあなたに取り憑いたんだからね。帰んないわよ」
男鬼は両手を組んで体をくねらせる。
「そんな……た、助けて……だれか、たすけて……」
だんだんワタルは、首を吊りたくなってきましたとさ。
(とっぴんぱらりのぷう)
悲劇と喜劇は紙一重なのです。




