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白雪様と二人暮らし  作者:
第二章 のんびりとした日常

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6話 初めての湯、ふたりの距離

 夕飯を食べ終わって、片付けを終えた頃には、外はすっかり暗くなっていた。

 リビングの時計は21時を少し回ったところ。

 テレビの音が小さく流れているけど、今日はなんだか静かに感じる。

 音があるのに、部屋の空気だけが、いつもより柔らかくて、落ち着きすぎてるみたいだった。


 暖房の温風がそっと頬を撫でて、窓ガラスに霜の花がうっすら浮かんでいる。

 食器の水滴がシンクでぽたぽたと落ちる音が、遠くで響く。

 私はソファに座って、白雪様を見た。


 白雪様は私の隣にぴったりくっついて、膝の上に頭を乗せて、目を細めている。

 銀色の髪が私の太ももに広がって、ふわふわと柔らかい。

 指を落とせば、そのまま眠ってしまいそうなくらい無防備だ。

 髪の先がスカートの生地に触れて、さらさらと滑る感触が心地よくて、


 狐の耳が私の太ももに軽く当たって、ぴくりぴくり動く。

 尻尾がソファの上でゆっくり巻きついて、私の足に絡まる。

 白雪様の体温が膝からじんわり伝わってきて、冬の夜の冷たさを優しく溶かしてくれる。


「綾……なんか、今日はたくさん動いたから、ちょっと汗かいたかも」


 白雪様が少し恥ずかしそうに呟いた。

 声が小さくて、頬がほんのりピンクに染まって、金色の瞳が上目遣いに私を覗く。

 狐の耳がぴくりと下がって、尻尾がソファの上でそっと巻きつくように動く。

 汗の匂いがほのかに甘く混じって、鼻先をくすぐる。


「そうだね……スーパー行ったり、買い物袋持ったり、お鍋作ったり」


 私は自然と白雪様の髪を撫でながら答えた。

 さらさらの銀髪が指に絡むたび、柔らかくて滑らかな感触が心地よくて、心がほどけていく。

 髪の先が私の指をくすぐって、甘い匂いがふわっと鼻をくすぐる。


「じゃあ……お風呂、入ろうか」


 その言葉を言った瞬間、白雪様の耳がぴょこっと飛び出した。

 服の下から銀色の耳が飛び出して、ぴくぴくと興奮で震える。

 瞳がぱっと輝いて、頬がさらに赤くなる。


「え、お風呂!? 一緒!?」


「う、うん……一緒に、いい?」


 私は顔を赤くしながら聞いた。

 逃げたくなるくらい恥ずかしいのに、言葉だけは止められなかった。

 心臓がどくどくと鳴って、頬が熱くて、視線を逸らしたくなるけど、

 白雪様の瞳から目が離せない。

 白雪様は目をキラキラさせて、すぐに頷いた。


「いい! いいよ! 綾と一緒にお風呂、入りたい!」


 そう言って、白雪様は私の手をぎゅっと握って立ち上がった。

 家のお風呂はユニットバスだけど、狭いながらもふたりで入れるくらいの広さはある。

 湯船は小さめだけど、湯を張れば十分に浸かれる。

 狭いからこそ、距離が近くなる気がして、余計に心臓が落ち着かなかった。


 壁のタイルが冷たくて、足元が少し滑りやすい。

 換気扇の低い音が響いて、湯気がゆっくり立ち上る。

 先に私がお湯を張って、白雪様は脱衣所で待ってることにした。

 白雪様はそう言って、浴室のドアを閉めた。

 カチッという小さな音が響いて、ドアの向こうから白雪様の小さな息づかいが聞こえる気がした。

 私は先にシャワーを浴びて、体を洗い始める。

 お湯が肌に当たって、ぴちゃぴちゃと音を立てる。

 湯気が少しずつ立ち上って、鏡がうっすら曇っていく。


 鏡に映る自分の顔が、なんだか赤くて、ドキドキが止まらない。

 頬が熱くて、息が浅くなって、シャンプーの泡が指から落ちるのも忘れそうになる。

 本当に、白雪様と一緒にお風呂なんて。

 家族がいなくなってから、お風呂はただのルーティンだった。

 温かいお湯に浸かるのも、ただ体を洗うだけ。

 明日を回すための作業みたいで、気持ちまで温まることはなかった。

 お湯の音だけが響いて、湯気が鏡を曇らせて、自分の顔さえ見えなくなって、

 孤独が体に染み込んでいく感じだった。


 でも今は違う。白雪様がいる。それだけで、いつもの浴室が別の場所みたいに感じる。

 湯気の向こうに白雪様の気配があって、

 心臓がどくどくと鳴って、肌が熱くなる。


「綾……入っていい?」


 ドアの向こうから、白雪様の小さな声が聞こえた。

 少し震えてて、恥ずかしそうで、でも期待が混じってる。


「うん……どうぞ」


 ドアがゆっくり開いて、白雪様が入ってきた。

 タオルを体に巻いて、恥ずかしそうに体を隠しながら。

 銀色の髪をほどいて、長い髪が背中に流れ落ちて、湯気に濡れて少し張り付く。

 頬を赤くして、金色の瞳が私をちらちら見ながら、視線を逸らす。

 私は思わず息を飲んでしまった。


 だって白雪様の肌は雪のように白くて、透き通るよう。

 細い肩、くびれた腰、長い脚。

 湯気の向こうで、ほんのり上気した顔まで、全部が眩しい。

 人間じゃないみたいに美しいって、こういうことだと思った。

 湯気が白雪様の周りをふわっと包んで、まるで夢の中にいるみたいで、

 胸の奥が熱くなって、言葉が出ない。


「わ……綾の体、きれい……」


 白雪様も私を見て、目を丸くした。

 金色の瞳が大きく見開かれて、湯気の向こうでキラキラ輝く。

 頬がさらに赤くなって、長いまつ毛がぱちぱちと瞬く。


「え、そんなことないよ……白雪様の方が……」


 私は慌てて首を振ったけど、声が上ずって、顔が熱くなる。

 ふたりとも顔を赤くして、湯船に浸かる。

 お湯が温かくて、肩まで沈むと、ほっと息が漏れた。

 湯気がふわっと立ち上って、浴室のタイルが曇り、鏡が白くぼやける。

 お湯の表面がゆらゆら揺れて、熱が肌に染み込んでいく。

 

 白雪様は私の隣にぴったりくっついてきて、

 肩が触れ合って、体温が混じり合う。


「あったかーい……人間のお風呂、すごいね」


「そうだね……気持ちいいでしょ?」


「うん……綾の隣だから、もっと気持ちいい」


 白雪様は私の肩に頭を預けて、目を閉じた。

 銀色の髪が濡れて、私の肩に張り付いて、さらさらと滑る。

 湯の音と、呼吸の音が重なる。

 

 私はそっと、白雪様の背中を洗い始めた。

 ボディタオルにボディソープをつけて、優しく泡立てる。

 泡の匂いがふわっと広がっていって、甘いフローラルの香りが浴室に満ちる。

 白雪様の背中は、細くて華奢で、触れるたびにドキドキしてきた。

 肌がすべすべで、泡が滑って、指先が軽く沈む。


「くすぐったい……でも、気持ちいい」


 白雪様は小さく笑って、体を預けてきた。

 肩が私の胸に触れて、温かさが伝わる。

 私は丁寧に、肩から背中、腰までを洗う。

 泡が白雪様の肌を滑って、湯船に溶けていく。

 泡の白が湯面に浮かんで、ゆっくり消えていく。


「綾の手、優しい……」


 白雪様が呟いて、私の手をそっと握った。

 濡れた指が絡まって、温かさがじんわり伝わってくる。

 次は髪を洗う番。


 白雪様の銀色の髪は、濡れるとより輝いて、まるで月光みたいに見える。

 濡れた髪が肩に張りついて、そのせいで余計に視線が迷う。

 シャンプーを手に取って、指を絡めて泡立てる。

 白雪様は目を閉じて、気持ちよさそうに体を預けてくる。


「ん……綾の指、好き……」


 私は耳の後ろや頭頂部まで丁寧に洗って、泡を流す。

 リンスもして、指で髪をほどく。

 白雪様の髪はサラサラで、指が絡まない。

 するん、と抜けていくのが気持ちよくて、もう少し触れていたくなる。


「終わったよ」


「ありがとう……今度は私が綾を洗う!」


 白雪様は目を輝かせて、私の背中に向き合った。

 小さな手でボディソープを泡立てて、私の背中に触れる。

 指先が優しく滑って、肩から腰まで、丁寧に。

 触れ方がやさしすぎて、逆に照れる。

 時々、指が脇腹に触れて、くすぐったくて笑ってしまう。


「綾、くすぐったいの?」


「うん……でも、気持ちいい」


 白雪様は笑って、私の髪も洗ってくれた。

 指が頭皮をマッサージするように動いて、すごく心地いい。

 目を閉じると、熱と安心で、全部がゆるむ。


「綾の髪、白くてきれい……私と同じ色で、嬉しい」


「白雪様の髪の方がきれいだよ……」


 ふたりで笑い合って、髪を流す。

 湯船に戻って、ふたりで向かい合って浸かる。

 白雪様が私の手を握って。


「綾……こうしてると、ずっと一緒にいられる気がする」


 そう言った。握る力が少し強い。


「うん……私も」


 お湯の音と、ふたりの呼吸だけが聞こえる。

 胸の奥が静かにあたたかい。

 湯上がりは、ふたりで体を拭き合った。


 白雪様のパジャマは少し大きめで、袖をまくってる姿が可愛い。

 袖口が手首の上でふわっと余って、動くたびにくしゅくしゅと音を立てる。


 髪の先から落ちる水滴まで、愛しく感じるのが怖いくらいだった。

 雫が首筋を伝って、タオルに吸い込まれる様子を眺めてるだけで、胸がきゅっと締めつけられる。


 リビングに戻って、ソファに並んで座る。

 髪がまだ少し湿ってるから、ドライヤーをかけてあげる。


 白雪様は私の膝に頭を乗せて、目を閉じる。

 銀色の髪が膝の上に広がって、濡れた先がパジャマの生地に触れて、じんわりと湿り気を残す。

 ドライヤーの温風が髪を優しく揺らして、甘いシャンプーの匂いがふわっと広がる。


「綾の香り……お風呂上がりの匂いで好き」


 白雪様の声が小さくて、少し眠そう。

 私はドライヤーの温風を当てながら、白雪様の髪を梳く。

 ふわふわの銀髪が、私の指に絡まる。

 乾いていくにつれて、さらさらが戻ってきて、手放したくなくなる。

 指先が髪を滑る感触が心地よくて、もっと触れていたいと思う。

 ドライヤーを終えて、ふたりでベッドへ。

 

 今日はいつもより早く、くっついて横になる。

 白雪様が私の胸に顔を埋めて。


「綾……今日も、ありがとう」


 小さく、少し眠そうな声で言ってきた。

 吐息がパジャマの生地にふれて温かかった。


「私の方こそ……白雪様と一緒にお風呂、幸せだった」


 白雪様はくすくす笑って、私の首に腕を回した。

 細い腕が首に絡まって、銀髪が頬に触れて、くすぐったいのに離したくない。


「おやすみ、綾」


「おやすみ、白雪様」


 湯上がりの温かさが、体全体に残ってる。

 白雪様の体温が、私の体に染み込んでいく。この温かさが、ずっと続けばいい。

 そう思った瞬間、怖いくらい安心してしまって、涙が出そうになるのをこらえた。

 夢の中でさえ、白雪様の笑顔が見えるような気がした。

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