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白雪様と二人暮らし  作者:
第二章 のんびりとした日常

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5話 お迎えと初めてのスーパー

 学校のチャイムが鳴って、授業が終わった。冬の陽はもう傾きはじめて、教室の窓から見える空がオレンジ色に染まっている。私はカバンを肩にかけて、教室を出た。


今日一日、授業中も何度も白雪様のことを考えてしまっていた。朝の「行ってらっしゃい」の笑顔。頬に触れた軽いキス。


「早く帰ってきてね」って言われた声。それだけで胸が温かくなって、ぼーっとしちゃうんだ。


 先生の声が遠く聞こえて、黒板の文字がぼやけて、白雪様の金色の瞳ばかり浮かんでくる。早く家に帰りたいと思うのはいつものことだけどさ。


 今は、状況が全然違っていた。今までは、早く終わってほしい。学校という場所から、安全な部屋の中に逃げるために。でも今は、白雪様に会いたいために、嬉しさがあふれてくるから。足取りが自然と軽くなって、廊下を歩くリズムまで弾んでる気がした。学校の門を出て、いつもの道を歩き始める。


 家まではバスと徒歩で二十分くらい。今日はなんだか足取りが軽い。白雪様が待ってる。それだけで、世界が少し明るく見える。


 駅前のスーパーに寄ろうかな、と思った。冷蔵庫の中が、ちょっと寂しかったはず。夕飯の材料を買っておこう。また白雪様と一緒に作れたら楽しいかも。


 スーパーの自動ドアが開いて、中に入る。暖房が効いていて、ほっとした。カートを取って、野菜コーナーから回り始める。白菜、にんじん、じゃがいも……カレー、また作ろうかな。それともお鍋がいい? 白雪様、あったかいもの好きそう。


 カゴにいろいろ入れながら、ぼんやり白雪様の顔を思い浮かべていた。……なんか、幸せだな。


 そんなことを考えながら、肉コーナーに移動した。鶏肉を見て「白雪様、唐揚げ好きかな?」って呟いていたら、突然、後ろから小さな声が聞こえた。


「……綾?」


 振り返ると、そこに白雪様がいた。着物の上に私のコートを羽織っている。ちょっと大きすぎて、袖がぶかぶかだ。銀色の髪をポニーテールみたいにまとめて、金色の瞳をキラキラさせて、私を見上げていた。


「白雪様!?」


 私はびっくりして、カゴを落としそうになった。


「どうしてここに!?」


 白雪様は少し照れくさそうに頬を赤くして、「お迎えに来ちゃった……待っていられなくて」


「え、でも家で待ってるって言ったのに……」


「ごめん……綾のこと考えすぎて、じっとしていられなくて。学校の近くまで行こうと思ったんだけど、道に迷っちゃって……そしたら綾の匂いがして、綾がいるかも!って思ったら、本当にいた!」


 白雪様は興奮して、早口になっていた。狐の耳がコートの下でぴくぴく動いているのが、ちらっと見えた。私は思わず笑ってしまった。


「もう……無茶しちゃだめだよ。寒いのに」


 でも、心の底から嬉しかった。白雪様が、私を迎えに来てくれた。そんなの、家族がいなくなってから、誰もしてくれなかった。


「綾、おかえり!」


 白雪様は私の腕にぎゅっと抱き付いてきた。スーパーの真ん中でちょっと恥ずかしいけど……周りのおばさんたちが「かわいいね」って微笑んでいるのが見えた。


「ただいま……」


 私は小声で返して、白雪様の頭を撫でた。


「一緒に買い物しよう?」


「うん!」


 白雪様は目を輝かせて、カートを押す係になった。スーパーの中を、ふたりで回り始める。


 野菜コーナーで、白雪様はキャベツを手に取って、「これ、丸くてすごい! 中にいっぱい葉が入ってる!」


「お鍋にしようか」


「鍋!? みんなでつつくやつ!? 楽しそう!」


 肉コーナーでは鶏肉を見て、「これ、唐揚げにできるよね!? 綾の作った唐揚げ、食べたい!」


「作ろうか」


「やったー!」


 お菓子コーナーでは、白雪様がプリンの棚の前で立ち止まった。


「これ……黄金の宝石みたいだったやつ!」


「好き?」


「うん! 綾と一緒に食べたい!」


 カゴにいっぱい入れて、デザートコーナーでアイスクリームを見て、「冷たいのに甘いって、魔法みたい!」って子供みたいに喜んでる。


 レジで並んでいると、白雪様が私の手をそっと握ってきた。


「綾と買い物、楽しい……人間界って、すごいね。こんなにいろんなものがあるなんて」


「白雪様が一緒にいてくれるから、もっと楽しいよ」


 私は小声で言った。白雪様は顔を赤くして、握る手に力を込めた。


 レジでお会計を済ませた。私が払ったけど、白雪様は「次は私が!」って言ってた。重い袋をふたりで持って、スーパーを出る。外はもう暮れかけていて、街灯が灯り始めていた。


 帰り道、ふたりで袋を持って歩く。白雪様が私のコートの袖をつかんでくれた。


「綾、学校どうだった?」


「普通……でも、白雪様のことばっかり考えてた」


「え!? ほんと!?」


 白雪様は飛び跳ねるみたいに喜んだ。


「私も、綾のことばっかり考えてた! 家でテレビ見てたんだけど、綾が出てこないからつまらなくて……」


「ふふ」


 公園のベンチに少し寄り道して、座った。冬の空気が冷たいけど、白雪様が隣にいてくれるから、全然寒くない。


「白雪様」


「ん?」


「迎えに来てくれて、ありがとう。すごく嬉しかった」


 白雪様は少し照れくさそうに笑って、「私も、綾に会えて嬉しかった……これからも、毎日迎えに来ちゃおうかな」


「学校まで来たら、先生に怒られるよ?」


「じゃあ、スーパーで待ってる!」


 ふたりで笑い合った。家に着いて、玄関を開けた。


「ただいまー」


「おかえりー!」


 自分が言った「ただいま」に、返事が返ってくる。それだけで胸がきゅっとなる。白雪様が笑いながら、袋をキッチンに運んでくれた。夕飯の準備を、ふたりで始めた。お鍋の材料を切って、唐揚げの下準備をして。


 白雪様が「これどうやって切るの?」って聞いてくるから、手を取って一緒に包丁を持った。


「危ないよ、ゆっくりね」


「綾の手、温かい……」


 また恥ずかしい事を言われて、私は顔を赤くしちゃった。


 鍋が煮えて、唐揚げが揚がる。テーブルに並べて、ふたりで向かい合って座った。


「いただきます」


「いただきます!」


 白雪様は鍋をつつきながら、目を輝かせていた。


「あったかくて、美味しい!! 綾と食べるご飯、ほんとに幸せ!」


 私もうなずいた。この時間が、ずっと続けばいい。白雪様と過ごす、こんな普通の日々が。食事が終わって、洗い物をふたりでした。ソファに並んで座って、テレビを見る。白雪様が私の肩に頭を寄せてきて、自然と手を繋いだ。


「……綾」


「ん?」


「今日、楽しかった」


「私も」


 白雪様は目を閉じて、幸せそうに微笑んだ。狐の耳がぴょこっと出てきて、私の頬をくすぐった。この家に帰るのが、本当に楽しみになった。


 天国にいるみんな。心配してたよね。今私は、幸せに暮らしてるよ。

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