5話 お迎えと初めてのスーパー
学校のチャイムが鳴って、授業が終わった。
冬の陽はもう傾きはじめて、教室の窓から見える空がオレンジ色に染まっている。
私はカバンを肩にかけて、教室を出た。
今日一日、授業中も何度も白雪様のことを考えてしまっていた。
朝の「行ってらっしゃい」の笑顔。頬に触れた軽いキス。
「早く帰ってきてね」って言われた声。
それだけで胸が温かくなって、ぼーっとしちゃうんだ。
先生の声が遠く聞こえて、黒板の文字がぼやけて、白雪様の金色の瞳ばかり浮かんでくる。
早く家に帰りたいと思うのはいつものことだけどさ。
今は、状況が全然違っていた。
今までは、早く終わってほしい。
学校という場所から、安全な部屋の中に逃げるために。
でも今は、白雪様に会いたいために、嬉しさがあふれてくるから。足取りが自然と軽くなっていた。
廊下を歩くリズムまで弾んでる。
学校の門を出て、いつもの道を歩き始める。
家まではバスと徒歩で二十分くらい。
今日はなんだか足取りが軽い。
白雪様が待ってる。
それだけで、世界が少し明るく見える。
冬の陽が傾いて、街路樹の影が長く伸びているのに、心の中はふわっと明るくて、頰が自然と緩む。
制服のスカートが風にふわりと揺れて、ネックレスの狐チャームが胸元で小さく跳ねる。
バス停までの道が、いつもより短く感じる。
駅前のスーパーに寄ろうかなと思った。
冷蔵庫の中が、ちょっと寂しかったはず。
夕飯の材料を買っておこう。
また白雪様と一緒に作れたら楽しいかも。
想像しただけで、胸がきゅんと鳴って、歩くリズムが少し速くなる。
スーパーの自動ドアが開いて、中に入る。
暖房が効いていて、冷たい外気がぱっと遮断されて、ほっとした。
頰が少し冷えていたのに、店内の温かさが肌に染み込んでくる。
カートを取って、野菜コーナーから回り始める。
白菜の葉がみずみずしくて、にんじんの鮮やかな橙色、じゃがいもの土の匂いがする。
カレー、また作ろうかな。それともお鍋がいい?
白雪様、あったかいもの好きそう。
鍋なら、白雪様が「熱い!」って言いながら、ふーふー吹いて食べてくれる姿が想像できて、
くすっと笑みがこぼれる。カゴにいろいろ入れながら、ぼんやり白雪様の顔を思い浮かべていた。
金色の瞳がキラキラして、狐の耳がぴくりと動く姿。
……なんか、幸せだな。
胸の奥がじんわり温かくなって、足取りがさらに軽くなる。
スーパーのBGMが遠くで流れていて、買い物客の話し声が優しく混じってるけど。
私の世界は白雪様の笑顔だけで満ちてる。
そんなことを考えながら、肉コーナーに移動した。
鶏肉のパックを手に取って、「白雪様、唐揚げ好きかな?」って呟いていたら、突然、後ろから小さな声が聞こえた。
「……綾?」
振り返ると、そこに白雪様がいた。
着物の上に妹のコートを羽織っていて、ちょっと大きのか袖がぶかぶかで、手がほとんど隠れていた。
銀色の髪をポニーテールみたいにまとめて、風に少し乱れた毛先が頰にかかっている。
金色の瞳をキラキラさせて、私を見上げていた。
スーパーの蛍光灯の下で、その瞳が宝石みたいに輝いて、息を飲むほどきれいだった。
「白雪様!?」
私はびっくりして、カゴを落としそうになった。
手が震えて、カゴの取っ手が指から滑りそうになる。
鶏肉のパックがカゴの中で揺れて、軽い音がする。
「どうしてここに!?」
白雪様は少し照れくさそうに頬を赤くして。
「お迎えに来ちゃった……待っていられなくて」
その声が少し震えていて、狐の耳がコートの下でぴくぴく動いているのがちらっと見えた。
頰がほんのりピンクに染まって、長いまつ毛が伏せられる。
「え、でも家で待ってるって言ったのに……」
「ごめん……綾のこと考えすぎて、じっとしていられなくて。学校の近くまで行こうと思ったんだけど、道に迷っちゃって……そしたら綾の匂いがして、綾がいるかも!って思ったら、本当にいた!」
白雪様は興奮して、早口になっていた。
言葉が弾むように出てきて、尻尾がコートの下でぴょんぴょん跳ねてるのが布地越しにわかる。
金色の瞳がキラキラして、頰がさらに赤くなって、息が少し上がってる。
私は思わず笑ってしまった。
胸の奥がふわっと温かくなって、目頭が熱くなる。
「もう……無茶しちゃだめだよ。寒いのに」
でも、心の底から嬉しかった。
白雪様が、私を迎えに来てくれた。
そんなの、家族がいなくなってから、誰もしてくれなかった。
胸がきゅっと締めつけられて、涙がにじみそうになるけど、
白雪様のコート姿が可愛すぎて、笑みが止まらない。
「綾、おかえり!」
白雪様は私の腕にぎゅっと抱き付いてきた。
細い体がぴったりくっついて、温かさが伝わってくる。
スーパーの真ん中でちょっと恥ずかしいけど……周りのおばさんたちが「かわいいね」って微笑んでいるのが見えた。
カートを押す手が止まって、買い物客の視線が優しく集まる。
「ただいま……」
私は小声で返して、白雪様の頭を撫でた。
銀色の髪が指に絡まって、さらさらした感触が心地いい。
ポニーテールの毛先が私の手首に触れて、くすぐったい。
「一緒に買い物しよう?」
「うん!」
白雪様は目を輝かせて、頷いた。
金色の瞳がキラキラして、狐の耳がコートの下でぴょこぴょこ動く。
白雪様は目を輝かせて、カートを押す係になった。
小さな手でカートの取っ手を握って、ちょっと背伸び気味に押してる姿が可愛くて、私は思わず笑みがこぼれる。
スーパーの中を、ふたりで回り始める。
蛍光灯の白い光が棚に反射して、商品のパッケージがキラキラ輝いている。
野菜コーナーで、白雪様はキャベツを手に取って、
「これ、丸くてすごい! 中にいっぱい葉が入ってる!」
くるくる回して、葉の層を覗き込んで、興奮した声が弾む。
狐の耳がコートの下でぴくぴく動いて、尻尾が興奮でぴょんぴょん跳ねてるのがわかる。
「お鍋にしようか」
「鍋!? みんなでつつくやつ!? 楽しそう!」
白雪様の瞳がキラキラして、頰がぽっと赤くなる。
カゴにキャベツをそっと入れて、白菜やにんじんも次々カゴへ。
白雪様が「これも!これも!」って指差すたび、
私の胸が温かくなって、笑顔が止まらない。
肉コーナーでは鶏肉を見て。
「これ、唐揚げにできるよね!? 綾の作った唐揚げ、食べたい!」
「作ろうか」
「やったー!」
白雪様は飛び跳ねるように喜んで、パックをカゴに放り込む。
小さな手が私の袖を引っ張って、興奮が伝わってくる。
お菓子コーナーでは、白雪様がプリンの棚の前で立ち止まった。
棚のガラスに映った自分の顔を見て、目を丸くする。
「これ……黄金の宝石みたいだったやつ!」
「好き?」
「うん! 綾と一緒に食べたい!」
カゴにプリンを何個も入れて、
冷凍コーナーでアイスクリームを見て、
「冷たいのに甘いって、魔法みたい!」って子供みたいに喜んでる。
アイスを指でつんつんして、冷たさにびっくりした顔が可愛くて、
私は思わず笑ってしまった。
レジで並んでいると、白雪様が私の手をそっと握ってきた。
小さな手が私の指に絡まって、温かさが伝わってくる。
スーパーのBGMが遠くで流れていて、周りの人の話し声が優しく混じってるけど、ふたりの世界は、手の温もりだけで満ちてる。
「綾と買い物、楽しい……人間界って、すごいね。こんなにいろんなものがあるなんて」
白雪様の声が、少し興奮気味で、少し照れくさそう。
金色の瞳が私を見上げて、頰がほんのりピンク。
「白雪様が一緒にいてくれるから、もっと楽しいよ」
私は小声で言った。
白雪様は顔を赤くして、握る手に力を込めた。
指がぎゅっと絡まって、離したくないみたいに。
レジでお会計を済ませた。
私が払ったけど、白雪様は「次は私が!」って言ってた。
重い袋をふたりで持って、スーパーを出る。
外はもう暮れかけていて、街灯が灯り始めていた。
オレンジの光が道を照らして、冷たい空気が頰を刺すけど、
白雪様の手の温もりが、冬の寒さを全部溶かしてくれる。
帰り道、ふたりで袋を持って歩く。
重いスーパーの袋が腕に食い込んで、少し痛いけど、白雪様が隣にいるだけで全然苦にならない。
白雪様が私のコートの袖をつかんでくれた。
小さな手が袖をぎゅっと握って、時々引っ張るみたいに揺れる。
冬の夕方の風が冷たくて、息が白く凍るけど、手の温もりが袖越しに伝わってきて、寒さがどこか遠く感じる。
街灯のオレンジの光が道を照らし始めて、ふたりの影が長く伸びる。
「綾、学校どうだった?」
白雪様の声が、優しく響く。
金色の瞳が私を見上げて、夕陽に照らされてキラキラ輝いている。
「普通……でも、白雪様のことばっかり考えてた」
正直に言うと、頰がぽっと熱くなった。
白雪様は目を丸くして。
「え!? ほんと!?」
飛び跳ねるみたいに喜んだ。
袖を握る手がさらに強く締まって、尻尾がコートの下でぴょんぴょん跳ねてるのがわかる。
狐の耳がコートの襟からちらっと出て、ぴくりぴくり動く。
「私も、綾のことばっかり考えてた! 家でテレビ見てたんだけど、綾が出てこないからつまらなくて……」
白雪様の頰が赤くなって、早口になる。
その言葉が胸に染みて、笑みが自然とこぼれる。
「ふふ」
公園のベンチに少し寄り道して、座った。
冬の空気が冷たいけど、白雪様が隣にいてくれるから、全然寒くない。
ベンチの木の感触が冷たくて、でも白雪様の体温が肩に伝わってきて、
ふたりで寄り添うと、まるで小さな毛布に包まれたみたい。
街灯の光がベンチを優しく照らして、息が白く舞う。
「白雪様」
「ん?」
「迎えに来てくれて、ありがとう。すごく嬉しかった」
白雪様は少し照れくさそうに笑って。
「私も、綾に会えて嬉しかった……これからも、毎日迎えに来ちゃおうかな」
「学校まで来たら、先生に怒られるよ?」
「じゃあ、スーパーで待ってる!」
ふたりで笑い合った。
声が公園に響いて、冬の空に溶けていく。
笑い声が重なって、胸がふわっと軽くなる。
家に着いて、玄関を開けた。
「ただいまー」
「おかえりー!」
自分が言った「ただいま」に、返事が返ってくる。
その声が耳に届いた瞬間、胸がきゅっとなる。
白雪様の声が玄関に響いて、いつも一人で言ってた「おかえり」の空虚さが、一瞬で埋まる。
白雪様が笑いながら、袋をキッチンに運んでくれた。
袋の紙がカサカサと音を立てて、野菜の土の匂いと鶏肉の新鮮な匂いがふわっと広がる。
夕飯の準備を、ふたりで始めた。お鍋の材料を切って、唐揚げの下準備をして。
キッチンの蛍光灯が優しく照らして、包丁の音がリズミカルに響く。
白雪様が「これどうやって切るの?」って聞いてくるから、手を取って一緒に包丁を持った。
小さな手が私の手に重なって、指先が少し震えてる。
白雪様の息が近くて、甘い匂いが混じって、胸がどきどきする。
「危ないよ、ゆっくりね」
「綾の手、温かい……」
また恥ずかしい事を言われて、私は顔を赤くしちゃった。
頰がぽっと熱くなって、包丁を持つ手が少し滑りそうになる。
白雪様の指が私の指に絡まって、温かさがじんわり伝わってくる。
鍋が煮えて、唐揚げが揚がる。
ジュウジュウという音と、香ばしい匂いがキッチンに満ちて、湯気が立ち上って頰を優しく撫でる。
テーブルに並べて、ふたりで向かい合って座った。
お鍋の湯気がゆらゆらと立ち上って、白雪様の金色の瞳をぼんやりと映す。
「いただきます」
「いただきます!」
白雪様は鍋をつつきながら、目を輝かせていた。
スープの熱さが頰を赤くして、狐の耳がぴくりと動く。
「あったかくて、美味しい!! 綾と食べるご飯、ほんとに幸せ!」
私もうなずいた。この時間が、ずっと続けばいい。
白雪様と過ごす、こんな普通の日々が。
食事が終わって、洗い物をふたりでした。
スポンジの泡がぷくぷくして、水の音が優しく響く。
ソファに並んで座って、テレビを見る。
白雪様が私の肩に頭を寄せてきて、自然と手を繋いだ。
指が絡まって、温かさが伝わってくる。
「……綾」
「ん?」
「今日、楽しかった」
「私も」
白雪様は目を閉じて、幸せそうに微笑んだ。
狐の耳がぴょこっと出てきて、私の頬をくすぐった。
この家に帰るのが、本当に楽しみになった。
天国にいるみんな。心配してたよね。今私は、幸せに暮らしてるよ。
「白雪様と二人暮らし」をお楽しみいただけましたか?
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