4話 初めての朝の光
朝、目が覚めたとき、最初に感じたのは温かさだった。
体全体を包む、柔らかくて優しい温かさ。
まだぼんやりとした意識の中で、布団の重みと肌のぬくもりが混じり合って、全身がふわっと包まれている感覚だった。
ゆっくり目を開けると、視界に銀色の髪が広がっていた。白雪様が、ぎゅっと抱きついたまま寝ていた。
細い腕が私の腰にしっかり回されていて、小さな体がぴったりと寄り添って、胸と胸が触れ合う距離。
銀色の髪が私の頬や首にかかって、さらさらとした感触がくすぐったい。
一本一本の髪が朝の光に透けて、淡く輝きながら、私の肌を優しく撫でる。
狐の耳が私の肩に軽く触れて、ぴくりぴくりと微かに動く。
尻尾が布団の中で私の足に絡まって、ふさふさした毛が足首をくすぐる。
寝息が静かで、規則正しくて、耳元で聞こえる。
「すー……すー……」という小さな音が、私の鼓動と重なるようにリズムを刻んでいる。
息を吐くたびに、温かい吐息が首筋に当たって、ぞわっと甘い震えが背中を走る。
白雪様の匂いは、ほのかな花のような甘さと、雪のような清涼感が混じった匂い。
鼻先をくすぐって、胸の奥まで染み込んでくる。こんな朝、久しぶりだった。
家族がいなくなってから、毎朝目覚めるときはいつも、胸が重かった。
ベッドが広すぎて、冷たくて、
誰もいない部屋の静けさが怖かった。
でも今は違う。隣に、白雪様がいる。その事実だけで、心がふわっと軽くなった。
胸の重い塊が、朝の光に溶けるように少しずつ薄れて、代わりに優しい温かさが広がっていく。
息を吸うたび、白雪様の匂いが鼻の奥まで優しく入ってきて、まるで世界が少しだけ優しくなったみたいに感じる。
私はそっと、体を動かさないように白雪様の寝顔を覗き込んだ。
金色のまつ毛が長くて、朝の光に透けて淡く輝いている。
唇が少し開いていて、息を吐くたびに小さな風が私の首筋に当たる。
頬がほんのりピンク色で、柔らかそうな肌が朝の光に照らされて、本当にきれいで神々しかった。
神様であり仏様だから人間じゃないのは知ってるけど、こんなに近くで、こんなに無防備に見つめていると、心臓がどくどくと鳴って、息が浅くなる。
こういう場合って神様になるのかな?仏様なのかな?
仏教は神様じゃないっていうけど、難しいな
仏様っていうと、亡くなった人も仏だし。
呼ぶ名称に困っちゃうよねってふと思ってしまった。
白雪様って呼ぶのが一番自然だけど、時々、もっと違う呼び方が浮かんで、胸がきゅんとする。
「……可愛い」
そんなことを考えながら白雪様を見てると、思わず小さく呟いてしまった。
声が掠れて、部屋の静けさに溶けていく。
すると、白雪様が寝ぼけながら目を細めて、「……ん……綾……?」
寝言みたいな声で、私の首にさらに腕を回してきた。
細い指が私の背中に絡まって、ぎゅっと引き寄せる。
「もっと……くっついて……」
その声が甘くて、耳元で響いて、私は顔が熱くなった。
頬がぽっと火照って、耳まで赤くなるのが自分でもわかる。
純粋な気持ちだというのはわかってるんだけど、その言葉に反応しちゃってる。
心臓が早鐘みたいに鳴って、息が少し乱れる。
「白雪様……もう朝だよ?」
小声で言うと、白雪様はゆっくり目を開けた。
金色の瞳が、朝の光に輝いて、私をまっすぐ見つめてくる。
まぶたがゆっくり上がって、瞳の中に私の姿が映る。
少しぼんやりした瞳が、すぐに焦点を合わせて、優しく細まる。
「おはよう……綾」
にこっと笑って、朝一番の笑顔。
その笑顔があまりにまぶしくて、私は目を逸らしてしまった。
頬が熱くて、視線を合わせられない。
白雪様の寝息がまだ耳元に残ってて、朝の部屋が、ふたりだけの甘い空気で満ちていく。
「お、おはよう……」声が少し上ずって、頬が熱くなる。
白雪様はくすくす笑いながら、体を起こした。
パジャマの襟が少しずれていて、鎖骨がちらりと見えて、銀色の髪が乱れて肩に落ちている。
寝癖がついた髪の先がふわっと跳ねていて、朝の光に照らされて淡く輝く。
本当に、可愛い。
胸の奥がきゅんと締めつけられて、息が浅くなる。
「綾と一緒に寝るの、気持ちよかった……夢の中で、ずっと綾のこと考えてたよ」
その言葉が耳元で甘く響いて、私は思わず目を丸くした。
「え……どんな夢?」
白雪様は指を口に当てて、いたずらっぽく微笑んだ。
金色の瞳が細まって、狐の耳がぴょこっと出てきて、すぐに隠れる。
尻尾が布団の中でぴょんぴょん跳ねるのが見えて、私はもう、朝から胸がどきどきしてしまった。
顔が熱くなって、視線を逸らすけど、白雪様の笑顔が頭から離れない。
「ふふ、秘密」
どんな夢かすごく気になって、何度も聞いたけど、教えてくれなかった。
残念。
でも、その「秘密」って言葉が、なんだか甘くて、
胸の奥がむずむずする。ベッドから起き上がって、カーテンを開ける。
冬の朝の光が部屋に差し込んで、すべてを優しく照らす。
カーテンの布がさらさらと音を立てて、冷たい外気が少しだけ入ってくるけど、
部屋の中は白雪様の温もりがまだ残っていて、寒く感じない。
窓の外は薄い霜が張っていて、朝日がキラキラ反射してる。
「今日は……学校、行かなきゃいけないんだけど」
私は少し申し訳なさそうに言った。
高校一年生だし、休みすぎるとまた問題になる。
白雪様は少し寂しそうに目を伏せたけど、すぐに笑顔に戻った。
金色の瞳が優しく細まって、狐の耳がぴくりと動く。
「うん、行っておいで。私、待ってるから」
「待ってる? 家で?」
「うん! 綾が帰ってくるまで、いい子でお留守番する」
まるで逆みたい。私が留守番してるみたいに言ってる。
でも、その言葉が嬉しくて、胸の奥がふわっと温かくなった。
私は頷いた。
白雪様の笑顔を見てるだけで、学校に行くのが少しだけ楽しみになる。
「じゃあ、朝ごはん作るね」
私はベッドから抜け出して、キッチンへ向かう。
白雪様はまだ少し眠たげにベッドに座ったまま、私の背中を見送っている。
足音がフローリングに小さく響いて、朝の静けさを優しく破る。
冷蔵庫を開けると、冷たい空気がふわっと顔に当たって、残ってる材料を覗き込む。
トースト用のパン、卵、ヨーグルト、冷凍のフルーツ……簡単な朝ごはんだけど、今日は白雪様と一緒に食べるのが嬉しい。
私が冷蔵庫を見ていると白雪様も部屋に入ってきた。
白雪様はテーブルの椅子に座って、私の動きをじっと見てる。
銀色の髪が肩に落ちて、狐の耳がぴくりぴくり動く。
金色の瞳が朝の光に照らされて、キラキラ輝いている。
「綾、料理上手だね」
「簡単なものだけだけど……」
私はフライパンに卵を流し込んで、火を調整する。
卵がじゅわっと音を立てて、温かい匂いがキッチンに広がっていく。
白雪様が後ろからまた抱きついてきた。
細い腕が腰に回って、頬が背中にぴったりくっつく。
温かくて、柔らかくて、少し甘い匂いがする。
「温かくて、いい匂い……」
「危ないよ、熱いから」
私は笑いながら、白雪様の頭を軽く叩いた。
でも、白雪様は離れてくれなくて、結局一緒に卵焼きを巻くことになった。
白雪様の手が私の手に重なって、ふたりでフライパンを振る。
小さな手が私の指に絡まって、温かい感触が伝わってくる。
「こう?」
「うん、上手!」
私は自然と笑顔で答えた。
白雪様の指が少し震えていて、でも一生懸命にフライパンを傾ける姿が愛おしくて、胸がきゅっと締めつけられた。
その仕草が、なんだかすごく懐かしくて。妹に教えてあげた時を思い出して、胸がきゅっと締めつけられた。
あの頃も、こんなふうに手を取って「こうだよ」って笑い合ってたっけ。
完成した朝ごはんをテーブルに並べて、ふたりで向かい合って座る。
トーストの香ばしい匂い、卵焼きのふんわりした匂い、ヨーグルトのさっぱりした香り、フルーツの甘い匂いが混じって、部屋を優しく満たす。
白雪様はトーストにかじりついて、目を輝かせた。
「美味しい!! 綾の作ったご飯、朝から幸せ!」
「昨日もカレー食べたばっかりなのに……」
「毎日食べたい!」
そのストレートな言葉に、私は照れながらも嬉しくなった。
頬が熱くなって、視線を少し逸らすけど、白雪様の笑顔がまぶしい。
ふと、お母さんが言っていた言葉を思い出した。
「おいしく食べてくれるのが、料理を作った時の一番のうれしさだよね」って。
今、白雪様が目をキラキラさせて食べてくれるのを見て、その言葉が、胸の奥で静かに温かくなった。
白雪様は、卵焼きをぱくぱく食べながら、「綾のご飯、ほんとに大好き!」
ヨーグルトをスプーンで食べながら、白雪様が突然言った。
「綾、学校で寂しくなったら、私のこと思い出して?私、ずっと綾のこと考えてるから」
「……うん」
私は頷いて、フルーツを口に運んだ。
甘くて、ジューシーで、朝の光の中で、白雪様の笑顔が輝いてる。
学校に行く準備をしていると、白雪様が玄関まで見送りに来た。
制服に着替えた私を見て。
「綾、かわいい……学校の子たち、みんな羨ましがるよ」
白雪様の声が、甘く耳に響く。
制服の襟を直しながら、照れくさくて視線を逸らしたけど、胸の奥がふわっと温かくなる。
「そんなことないよ……」
私は小さく首を振って、頬が熱くなるのを隠そうとした。
でも、白雪様はくすくす笑って、そっと近づいてくる。
銀色の髪が朝の光に揺れて、狐の耳がぴくりと動く。
白雪様は私の頬に軽くキスをしてきた。
柔らかい唇が触れる瞬間、ぴりっと甘い電気が走って、温かさが頬から首筋に胸の奥までじんわり広がる。
キスの感触が残って、離れた後も頬がぽっと熱い。
「行ってらっしゃい。早く帰ってきてね」
その言葉が、優しくて、少し寂しげで、でもいっぱいの愛情が詰まってる。
金色の瞳がまっすぐ私を見つめて、長いまつ毛が影を落とす。
私は胸のネックレスをそっと触って、小さな狐のチャームに指を添えた。
「……行ってきます」
ドアを開けて、外に出る。
冬の冷たい空気が頬を刺すけど、心は温かかった。
玄関のドアが閉まる音が小さく響いて、冷たい風が髪を揺らす。
振り返ると、白雪様が窓から手を振ってる。
銀色の髪が窓辺でふわっと揺れて、笑顔が朝の光に輝いてる。
私は手を振り返した。
指先が少し震えて、でも笑顔で。
この家に帰るのが、楽しみだ。
白雪様が待ってる家に。
学校に行っても、きっと今日はずっと笑顔でいられる。
そんな予感がした。
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