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白雪様と二人暮らし  作者:
第二章 のんびりとした日常

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19/24

19話 白雪様と七五三

 11月の穏やかな土曜日。


 朝から空気がひんやりと澄んでいて、窓の外を見ると、街路樹の葉が少しずつ赤く染まり始めている。


 名古屋の11月らしい、柔らかい陽射しが葉っぱに差し込んで、地面に落ちる影が優しく揺れている。

紅葉の季節が本格的に近づいてきてるんだなって、改めて実感する。

リビングに入ると、白雪様がいつものようにソファの上で膝を抱えて座ってる。


 白雪様は普段から小学生低学年くらいの小さな体型で、銀色の長い髪がさらさらと背中まで流れ、狐耳と尻尾がぴょこぴょこ目立ってる。


 華奢でふわっとしたシルエットが、まるで抱きしめたくなるくらい可愛い。

 金色の瞳が少し眠そうに細まってて、朝の光に照らされてキラキラ輝いている。

 今日は七五三の日だった。


「綾……今日は七五三だよね?」


 白雪様が上目遣いでこっちを見て、狐耳をぴくっと動かす。

 尻尾の先がソファの上でそわそわ揺れて、期待が隠しきれてない。

 私は思わず微笑んで、白雪様の隣に腰を下ろした。


「うん。白雪様、いつもこのサイズだから、7歳バージョンでちゃんと祝おうよ。着物着て、千歳飴持って、神社に行って……全部、特別な思い出にしよう」


 白雪様の耳がぴくんっと跳ね上がって、金色の瞳がぱっと輝く。

 小さな手が私の袖をぎゅっとつかんでくる。


「……嬉しい。うん、やろう」


 その言葉に、胸がきゅんって締めつけられた。

 白雪様の小さな体が、いつも通り温かくて、甘い雪の匂いがふわっと広がる。


「綾~、七五三って、私も帯締めて大人っぽくなるの? 楽しみだよ~!」


 白雪様の金色の瞳が、キラキラと輝いてる。

 その瞬間、私の胸がどきんと大きく鳴った。

 小さな手が私の袖をぎゅっと掴んで、期待でいっぱいの笑顔を向けてくる姿が、可愛すぎて息が止まりそうになる。

 狐耳がぴくぴくと嬉しそうに動いて、尻尾の先がコートの裾からちらちら覗いてはふわふわ揺れてる。


 こんな無邪気な喜びを、去年の今頃は想像もできなかった。

 家族がいなくなってから、季節の行事なんてただの空白だったのに。

 今、白雪様がこんなに楽しみだよ~って言ってくれるだけで、心の奥がじんわり溶けていく。


「……うん、帯締めて、大人っぽくなるよ。白雪様、絶対似合う」


 声が少し震えちゃった。

 去年はなかったイベントだから、今年はちゃんと祝ってあげたい。


「じゃあ、行こう! 大須の着物レンタル屋さん、予約しといたから」


 私は白雪様の手を握り返して、玄関のドアを開けた。

 十一月の空気はひんやり澄んでいて、頬を撫でる風が冷たいけど、白雪様の手はいつも通り、信じられないくらい温かかった。


 上前津駅近くの和装専門店までは歩いて十五分くらい。

 道中、白雪様は私の手を離さず、ぴょんぴょん跳ねるように歩く。

 狐耳がマフラーからぴょこんって飛び出してて、通りすがりの人々が何人も振り返る。

 尻尾はコートの裾の下でふわふわ揺れてて、時々私の脚に軽く触れる感触がくすぐったい。


「可愛いコスプレですね~」

「本物の尻尾みたい!」って小さな囁きが聞こえてくるたび、白雪様は照れくさそうに私の腕に顔を埋めてくる。


「綾……みんな見てるよ~。恥ずかしいかな……?」


「大丈夫だよ。みんな、白雪様が可愛いって思ってるだけだから」


 私はそっと白雪様の頭を撫でた。

 銀色の髪が指の間をさらりと滑って、雪みたいな甘い匂いがふわりと広がる。

 白雪様は「えへへ……」って小さく笑って、私の腕に頰をすり寄せてきた。

 その温もりが、胸の奥まで染み込んでくる。


 店に入ると、暖かな照明と和紙の優しい香りが迎えてくれた。

 店員のお姉さんがにこやかに近づいてきて、白雪様の耳と尻尾に一瞬目を丸くしたあと、すぐにプロの笑顔になる。


「わあ、本格的な狐耳と尻尾ですね! 七歳のお祝い着をお探しですか?


「はい、七歳の七五三の着物で。帯締めとか全部込みでフルセットでお願いします。」


 白雪様が私の後ろからひょっこり顔を出して、期待いっぱいの声で言った。


「私、帯締めて大人になるの! 楽しみだよ~!」


 店員さんがくすくす笑いながら、奥の棚から何着か持ってきてくれた。

 どれも華やかで可愛らしい四つ身(よつみ)着物。

 でも、私の目はすぐに一着に釘付けになった。

 白地に、銀糸で細やかに描かれた桜と蝶が舞う振袖(ふりそで)風の着物。

 淡いピンクから白へのグラデーションの帯、胸元には繊細な筥迫(はこせこ)末広(すえひろ)扇子(せんす)、帯下には志古貴(しごき)が優雅に揺れる。


 全体が雪のように清らかで、でも桜の華やかさが白雪様の銀髪と金色の瞳に溶け込みそうで。

 もう、完璧すぎて胸が苦しくなる。


「これ、着てみて」


 白雪様は頷いて、着付け室へ。

 私は待合のソファで、心臓の音が耳に響くくらいドキドキしながら待った。

 こんなに緊張するなんて、自分でもおかしいって思うのに。

 白雪様の姿を想像しただけで、頰が熱くなる。

 やがて、カーテンがそっと開く。


「……綾、どうかな?」


 そこに立っていた白雪様は、もう息が止まるくらい綺麗だった。

 銀髪が着物の襟からこぼれて、銀糸の桜と重なってきらきら光る。

 帯はきっちりと結ばれて、筥迫と扇子が胸元で優しく揺れてる。


 狐耳は襟の上からぴょこんって飛び出して、尻尾は裾の隙間からふわふわ覗いて、まるで着物の一部みたいに自然に溶け込んでる。

 金色の瞳が少し潤んで、私をじっと見つめてくる。


 私は立ち上がって、白雪様の前に跪いた。

 小さな体を抱き寄せたくて、でも着物を崩したくなくて、そっと両手で頰を包んだ。


「……世界一、可愛い。白雪様は最高に綺麗だよ」


 白雪様の瞳が一瞬大きく見開かれて、すぐに柔らかく細くなる。


「綾……」


 小さな手が私の頰に触れて、温かさが伝わってくる。


「私も、綾と一緒に七五三できて、すっごく幸せだよ~」


 店員さんが「写真撮りますか?」って声をかけてくれたけど、私はもう、白雪様の金色の瞳から目を離せなかった。

この瞬間を、胸の奥に焼き付けておきたかった。

 写真はきちんととってもらった。これは、額縁に入れて家に飾っておこう。


 私も簡単な紺色の訪問着風で合わせて、千歳飴を買って萬松寺へ向かった。

 着物の裾を気にしながら歩く白雪様の姿が、なんだか愛おしくて、つい視線が離せなくなる。

 帯がきゅっと締まってるせいか、歩幅が少し小さくなっているけど、慣れてるのかすごく歩きそうだった。

 私の手を離さない指先は、いつも通り力強く絡まってて、その温もりが胸にじんわり染み込む。


 「綾、みんなみたいに七五三してもらえて、すっごく嬉しいよ~!」

 

 白雪様が上目遣いに私を見て、頰を少し赤らめながら言った。

 銀髪が風に揺れて、銀糸の桜柄と一緒にきらきら光る。

 狐耳が襟からぴょこんと飛び出して、時々マフラーに絡まりそうになるのを、私がそっと直してあげる。


「特別だよね。白雪様が七五三の着物でこんなに華やかになって、私と一緒に歩いてるんだもん。私も、なんだかお姫様とデートしてるみたいでドキドキしてるよ」


 白雪様が「えへへ……」と照れ笑いして、私の腕に頰を寄せてきた。

 着物の袖が私の腕に触れる感触が、柔らかくて温かくて、なんだか夢の中にいるみたい。

 萬松寺の境内に入ると、七五三の家族連れがちらほら。


 小さな女の子たちがピンクや赤の着物で手を繋いで歩いてて、千歳飴をぺろぺろ舐めながら笑ってる。

 白雪様はそれをじっと見て、目を細めて微笑んだ。


「みんな可愛いね。私も仲間だよ!」


 小さな声で呟いて、私の袖をぎゅっと掴む。

 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 白雪様は神様の分身なのに、こんな普通の行事に「仲間」って言ってくれる。

 人間みたいにって思ってくれてるんだ。


 連なる朱色の鳥居が異世界への入り口みたいに見えた。

 白雪様の前は、さっきまでの喧騒が嘘のように静かだった。

 風に揺れるのぼりの音と、どこか遠くで鳴る商店街のBGMが混ざり合って、ここだけ時間が止まっているような錯覚に陥る。

 白雪様が私の手をぎゅっと握って、祠に向かって小さな手を合わせた。

 着物の袖が少しずれて、銀髪が肩に落ちる。


「本体様、ちゃんと聞いてくれてるよね?」



 声が少し震えてて、金色の瞳が潤んでるのが横顔からわかる。

 私は息を潜めて、その言葉を聞いていた。


「私、7歳の七五三してるよ~。着物着て、帯締めて、筥迫(はこせこ)と扇子もつけて……みんなみたいにお祝いしてもらえて、嬉しいよ! 綾が一緒にいてくれて、写真撮ってくれて、千歳飴も一緒に舐めてくれるから……毎日が幸せでいっぱいなんだ。これからも、ずっと綾のそばにいて、守いたい。本体様、ありがとう」


 最後の言葉が途切れ途切れになって、白雪様の肩が小さく震えた。

 金色の瞳に涙が溜まって、ぽろりと一粒、頬を伝う。

 私は慌てて袖で拭いてあげたけど、私の目も熱くなって、視界がぼやける。


「白雪様……」


 私は白雪様の背中にそっと腕を回して、抱き寄せた。

 着物の生地が柔らかくて、銀髪が私の頰に触れて、甘い雪の匂いがする。

 心の中で、強く強く思う。


 白雪様、ありがとう。

 あなたがいてくれるから、私も毎日を笑顔でいられる。

 去年の今頃は、生きてるのが怖かったのに……今は、こんなお祝いができる。

 これからも、ずっと一緒にいてください。


 白雪様が私の胸に顔を埋めて、小さく頷いた。

 着物の帯がきゅっと締まってるせいか、息が少し浅いけど、その温もりが伝わってくる。


「綾……私も、綾と一緒にいられて幸せだよ~」


 祠の前で、二人でしばらくそうしていた。

 風が優しく吹いて、朱色の幟がまた揺れる。

 千歳飴の甘い匂いと、白雪様の雪のような香りが混ざって、白雪様が振り返って、私を見上げた。

 頬が赤くて、涙が一粒こぼれそう。


「綾…私、七五三できて、本当に嬉しいよ~。綾が家族みたいに祝ってくれるから、心がぽかぽかする」


 私は白雪様を抱き寄せて、着物の袖に顔を埋めた。

 銀髪から甘い雪みたいな匂いがして、胸が熱くなる。


「私も…白雪様と一緒に祝えて、幸せだよ。これからも、毎年七五三みたいに、お祝いしようね」


 家に帰る前に、店に戻って着物を脱がせて返却する。

 帯を解く瞬間、白雪様が「きゅってなってたのが、ちょっと寂しいよ~」って呟く。

  店員さんに「今日はありがとうございました」って言って、千歳飴だけ持って家に帰る。

 普段着に着替えて、リビングのソファでくっつく。


 白雪様が私の膝に頭を乗せて、飴をぺろぺろ舐めてる。


「甘いね~。綾の味みたい。もっと甘いよ」


「もう…バカ」


  私は白雪様の銀髪を撫でて、額に軽くキス。

 白雪様がくすくす笑って、私の胸に抱きついてくる。


「綾、来年もまた七五三やろ?綾と一緒にいられて、毎日楽しいよ~」


「うん。毎年祝おう。白雪様と一緒にいる時間、全部大事にするよ。ずっと、家族みたいに」


 外は夕暮れで、部屋に柔らかいオレンジの光が入ってくる。

 白雪様の温もりと、甘い飴の匂いが混ざっていった。

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