18話 白雪様とハロウィン
私たちは家を出て、大須商店街に向かった。
夕方の空が、だんだんオレンジに染まり始めてる。
冷たい風が頰を撫でていくけど、白雪様の手を握ってるから、全然寒くない。
むしろ、掌から伝わる温もりが心地よくて、歩くたびに胸がふわふわする。
アーケードの下に入ると、もうハロウィンの世界だった。
オレンジと黒のバルーンが天井からぶら下がって、ゆらゆら揺れてる。
店先にはでっかいジャック・オー・ランタンが並んで、にやりと笑ったカボチャの顔がこっちを見てる。
蜘蛛の巣みたいな飾りが入口に張り巡らされてて、ところどころにプラスチックのコウモリがぶら下がってる。
BGMで流れてくる不気味だけどポップなハロウィンソングが、なんだかワクワクを煽ってくる。
白雪様の狐耳が、ぴくぴくぴくって小刻みに動いてる。
周りをきょろきょろ見回す金色の瞳が、まるで初めて外出した子猫みたい。
つい可愛すぎて、つい手を繋いだまま笑っちゃった。
「ふふっ、白雪様、耳が忙しそう」
白雪様が少し恥ずかしそうに耳をぺたんと倒して、私の方を見上げる。
「新年のお祭りと何か違う雰囲気のお祭りだね」
声が少し小さくて、でも興奮が隠しきれてない。
尻尾が私の足元でふわふわ揺れてるのが見えて、胸がきゅんとする。
「今日はまだ本番じゃないよ。準備期間だから、お店がいーっぱい飾ってるんだ。ほら、あそこ! ハロウィングッズ売ってるお店!」
私は白雪様の手を軽く引いて、雑貨屋さんみたいな店に飛び込んだ。
ダイソーみたいな感じのプチプラコーナーで、棚がびっしり仮装グッズで埋まってる。
魔女のとんがり帽子がずらり。黒猫の耳カチューシャ、赤い悪魔の角、ピンクのウサギ耳……そして、仮装用のマントが色とりどりに掛かってる。
白雪様が、ぱっと目を輝かせて、一番目立つ黒い魔女帽子を手に取った。
「これ……いいかな?」
そう言って、自分の頭にそっとかぶってみる。
銀色の長い髪が、黒い帽子からこぼれて、まるで夜空に浮かぶ月みたい。
狐耳が帽子からぴょこんと飛び出してて、尻尾が嬉しそうにくるんと巻いてる。
「……どう? 似合う?」
上目遣いでこっちを見てくる金色の瞳に、心臓がどきんって跳ねた。
「似合う……! めちゃくちゃ似合うよ、白雪様。まるで本物の魔女みたい。いや、魔女より可愛いかも」
白雪様の頰が、ぽっと桜色に染まる。帽子を押さえながら、照れくさそうに笑った。
「えへへ……じゃあ、これにしようかな」
尻尾の先が、私の腰に軽く触れてくる。甘えるような仕草に、思わずぎゅっと手を握り返した。
店内の蛍光灯の下で、白雪様の銀髪がキラキラ光ってる。
「次はマントも見てみようよ。一緒に選ぼう?」
白雪様がこくんって頷いて、私の腕に絡みついてくる。
ハロウィンの匂いと、白雪様の甘い雪の香りが混じって、頭がふわふわになる。
私はシンプルな黒いマントと、オレンジのリボンを選んだ。
白雪様の本物の狐耳とふさふさの尻尾に合わせて、私も「狐の友達」みたいな感じで揃えちゃおうかなって。
マントを肩に羽織ってみると、なんだか物語の脇役みたいでワクワクする。
オレンジのリボンを首元に結んで、鏡の前でくるっと回ってみたら、白雪様がくすくす笑ってくれた。
「綾、それ可愛いよ。私とお揃いみたい」
金色の瞳が優しく細まって、尻尾がぴょんって跳ねる。
その一言で、胸がきゅんって鳴った。
次は食品コーナーへ移動。
かぼちゃのクッキーを作るために、近くのスーパーに寄り道した。
アーケードを出て少し歩くと、明るい照明のスーパーが迎えてくれる。
カゴを白雪様に持ってもらって、私は棚を回りながら材料を探す。
かぼちゃ……あった! 丸くてずっしりしたオレンジ色のやつを二つカゴに入れる。
チョコチップ、小麦粉、バター、卵も忘れずに。
白雪様が私の後ろをちょこちょこついてきて、カゴを両手で大事そうに抱えてる。
狐耳が周りの音に反応してぴくぴく動いてるのが見えて、微笑ましい。
「綾、これで本当に顔の形になるのかな?」
白雪様がカゴの中のかぼちゃを覗き込んで、不思議そうに首を傾げる。
銀髪がさらりと揺れて、甘い雪の匂いがふわっと漂う。
「うん。生地に混ぜて型抜きして、目と口をチョコチップで描くジャック・オー・ランタン風クッキーにするよ。くり抜くみたいに顔を表現するんだ」
私は白雪様の横に並んで、材料を指差しながら説明する。
「白雪様と一緒に作ったら、絶対おいしくなるよ。楽しみでしょ?」
白雪様の尻尾が、嬉しそうに大きく弧を描いて、私の腰に軽く触れた。
柔らかい毛の感触が服越しに伝わってきて、ドキッとする。
「うん……楽しみ! 綾と一緒に作るの、すっごく好き」
小さな声で囁かれて、心臓がまた跳ねた。
人混みの中でも、白雪様は自然に私のすぐ後ろに寄り添ってくれる。
誰も不思議に思わないくらい、まるで普通の女の子同士みたいに。
狐耳と尻尾があっても、今日はハロウィンシーズンだからか、みんな自分の仮装グッズに夢中で気づかない。
それがなんだか、二人だけの秘密みたいで幸せだった。
レジを済ませて、買い物袋を両手に提げて外に出る頃には、もうすっかり暗くなっていた。
街灯がオレンジに灯って、アーケードのハロウィン飾りが夜の闇に浮かび上がってる。
冷たい風が吹いてきたけど、白雪様の手を握ってるから、全然寒くない。
家までの道を歩きながら、白雪様が私の腕にそっと絡みついてくる。
「綾……今日も楽しい買い物だった」
金色の瞳が街灯の光を映してキラキラしてる。
尻尾が私の足元でゆらゆら揺れてるのが見えて、胸が温かくなった。
「私の方こそ。白雪様と一緒だから、こんなにワクワクするんだよ。これからクッキー作りも、もっと楽しいよ」
玄関のドアを開けた瞬間、ほっとするような温かい空気がふわっと包み込んでくれた。
外の冷たい風が嘘みたいに遠ざかって、部屋の中は白雪様の甘い雪の匂いと、さっき買ってきたかぼちゃの土っぽい香りが優しく混じってる。
買い物袋をリビングのテーブルにどさっと置いて、二人で顔を見合わせて笑った。
「早速、お菓子作り始めよっか!」
私は袖をまくり上げて、エプロンを取り出す。
白雪様も私の隣で、同じようにエプロンを着け始めた。
袖をまくろうとして、狐耳がエプロンの紐にぴったり絡まりそうになる。
ぴくぴく動いて、紐を引っ張っちゃってる姿が可愛すぎて、思わず笑っちゃった。
「ちょっと待って、白雪様。耳が……」
私はそっと近づいて、エプロンの紐を直してあげる。
指先が狐耳の根元に触れた瞬間、柔らかい毛の感触と、白雪様の体温がじんわり伝わってきて、心臓がどきんって跳ねた。
白雪様もびくっと肩を震わせて、頰をぽっと赤くする。
「……ありがとう、綾」
小さな声で囁かれて、胸がきゅんきゅん疼く。
こんな小さな触れ合いだけで、こんなにドキドキするなんて。
絶対に白雪様のせいだよ。
「まずはかぼちゃを蒸して、つぶすところからね」
蒸し器に水を入れて火にかけて、かぼちゃを切って並べる。白雪様が私の横にぴったり寄り添って、興味津々に覗き込んでくる。
銀髪が私の肩にかかって、甘い匂いが強くなる。
蒸し上がったかぼちゃをボウルに移して、フォークでぐちゃぐちゃにつぶしていく。
オレンジ色の鮮やかなペーストができあがると、白雪様が目を丸くした。
「こんなにきれいな色……!」
生地に混ぜて、チョコチップをたっぷり入れて、こねこねする。
白雪様がクッキー生地を丸めて、テーブルの上に並べていく。
指先が少しべたついてるのが可愛い。
「目と口は三角とギザギザで、ジャック・オー・ランタン風にしようね」
白雪様が真剣な顔でチョコチップをのせていく。
三角の目、ギザギザの口。
ちょっと不揃いだけど、それが逆に愛嬌たっぷりで最高。
「綾、これでいいかな?」
白雪様が出来上がった一つを、私の目の前に差し出してくる。
金色の瞳が期待でキラキラしてる。
「完璧! 白雪様、めっちゃ上手だよ。芸術的!」
私は思わず拍手しちゃった。
白雪様の尻尾がぴょんぴょん跳ねて、嬉しさが全身から溢れてる。
オーブンに入れて、待ってる間は甘い匂いが部屋中に広がっていく。
バターとチョコとカボチャの香りが混じって、幸せすぎる。
タイマーが鳴って、オーブンを開けると、オレンジ色のかぼちゃクッキーが、ぷっくり膨らんで可愛く並んでる。
焼き色がいい感じで、ジャック・オー・ランタンの顔がにやりと笑ってるみたい。
「わあ……!」
二人で声を揃えて感嘆して、すぐにスマホを取り出した。
テーブルにクッキーを並べて、白雪様が魔女帽子をかぶったまま、私の隣にぴったり寄り添う。
狐耳が私の髪に触れて、くすぐったい。
「はい、チーズ!」
シャッター音が響いて、画面に映ったのは、銀髪の狐耳魔女と、黒マントの私。
クッキーを手に持って、二人とも満面の笑み。
「可愛い……これ、宝物だね」
白雪様が私の肩にそっと頭を預けてくる。温かくて、柔らかくて、離したくない。
仮装もここで完成。魔女帽子に本物の狐耳と尻尾、黒マントの私。
クッキー作りも終わって、リビングは甘い匂いと幸せな空気でいっぱい。
白雪様の金色の瞳が、優しく細くなって、私を見つめてくる。
「綾……次は、パーティーだよね」
その言葉に、胸がまた熱くなった。
うん。最高のハロウィンパーティー、始めよう。
白雪様は魔女帽子と本物の狐耳尻尾で、私のマント姿と並ぶと、まるで物語の主人公たちみたい。
「綾……やっぱり楽しい」
白雪様がぽつりと呟いた声が、静かなリビングに優しく響く。
金色の瞳が少し潤んでて、狐耳がぴくっと小さく動く。
尻尾の先が、そっと私の足に触れてくる。
その言葉に、胸の奥が熱くなって、思わず微笑んだ。
「私も。白雪様と一緒だから」
夜8時頃、パーティ開始。
リビングの電気を少し暗くして、テーブルに並べたジャック・オー・ランタンクッキーと、買ってきたカラフルなキャンディーが、オレンジの間接照明に照らされて幻想的に輝く。
スマホから流れるハロウィンのBGM。
不気味だけどポップなメロディーが、部屋を優しく包み込んでくれる。
「トリック・オア・トリート!」
私が言うと、白雪様がくすくす笑って、キャンディーを一粒、私の掌にそっと乗せてくれた。
指先が触れ合った瞬間、甘い温もりが伝わってきて、心臓がまたどきんって鳴る。
「トリック・オア・トリート」
白雪様が照れくさそうに言い返してくる。
私たちは交互に「お菓子をくれないといたずらするよ~」って言い合って、笑い転げた。
キャンディーを投げ合ったり、クッキーを一口ずつ食べさせ合ったり。
まるで子供みたいに無邪気で、でも二人だけの甘い秘密みたいで、胸がきゅんきゅんする。
クッキーを頰張りながら、白雪様が私の膝にそっと頭を乗せてきた。
銀髪がさらりと私の太ももに広がって、柔らかい感触と甘い雪の匂いが一気に満ちる。
狐耳が私の指に軽く触れて、くすぐったい。
「綾……今日は、萬松寺の近くで狐の嫁入り行列があったみたいなんだよね」
白雪様の声が、少し遠くを眺めるように柔らかくなる。
「私、本体が喜んでくれてる気がする。人間界でこんなに楽しんでる私を見て、きっと……」
その言葉に、胸がじんわり温かくなった。
狐神としての白雪様が、こんな風に人間の祭りを楽しんでることを、どこかで感じ取ってるんだろうな。
「うん。きっと見てくれてるよ。白雪様がこんなに笑顔で、人間界を満喫してるの、嬉しいはずだよ」
白雪様の金色の瞳が、柔らかく細くなって、私を見つめてくる。
まつ毛が長くて、照明の光を映してキラキラしてる。
私はそっと、白雪様の銀髪を撫でた。
指が髪に絡まって、さらさらした感触が心地いい。額に、優しく唇を寄せて。
「白雪様、ハロウィンおめでとう。これからも、ずっと一緒にいろんなお祭りしようね」
白雪様が私の胸に顔を埋めて、小さく頷く。温かくて、柔らかくて、離したくないくらい。
「うん……綾と一緒なら、毎日がお祭りだよ」
その言葉が、胸の奥に染み込んで、甘い疼きになる。
クッキーの甘い匂いと、白雪様の温もりが部屋いっぱいに広がって、外の秋風が窓を叩く音が、なんだか優しい子守唄みたいだった。
私は白雪様を抱きしめて、耳元でそっと囁いた。
「大好きだよ、白雪様」
白雪様の尻尾が、私の腰にぎゅっと巻きついてくる。
狐耳がぴくんと跳ねて、幸せそうな吐息が漏れた。
ハロウィンの魔法は、まだ終わらない。
きっと、これからも二人で、もっとたくさんの魔法をかけていける。
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