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白雪様と二人暮らし  作者:
第二章 のんびりとした日常

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17話 白雪様とハロウィン準備

 10月ももう終わりかけの、肌寒い午後。

 名古屋の空は、昨日まで鮮やかに色づいていた紅葉が、今日は薄い雲に覆われてどこか寂しげだ。冷たい風が頰を撫でていくたび、首をすくめてしまう。


 家に帰ると、玄関のドアを開けた瞬間、ほのかに甘い匂いが漂ってきた。白雪様の匂い。

 雪のような清涼感と、ほんのり甘い花の香りが混じった、あの独特の匂いがする。

 リビングの窓辺に、白雪様が立っている。


 銀色の長い髪が、午後の弱い陽射しに透けて、まるで本物の雪の結晶みたいにきらきらと輝いている。

 狐耳が静かに垂れ下がり、ふさふさの尻尾がゆったりと揺れている姿は、まるで絵画から抜け出してきたようだ。

 私はコートを脱ぎながら、そっと近づいた。足音を忍ばせて、でも心臓の音は隠せないくらいドキドキしている。


「綾、おかえりなさい」


 白雪様が、ゆっくりと振り返る。

 その瞬間——ぱっと、花が咲くみたいに笑顔が広がった。

 狐耳がぴくんっと跳ね上がって、尻尾が嬉しそうに大きく弧を描く。

 金色の瞳が、まるで溶けた蜜のように優しく細くなる。

 柔らかい声。甘くて、温かくて、胸の奥がきゅっと締めつけられる。


「今日は学校、どうだったの?」


「うん……普通。部活も文化祭の準備でバタバタしてたけど、まあまあかな」


 白雪様と暮らしだしてから、急に私への嫌がらせ等は徐々に減ってきた。

 それでも私はクラスになじめなくてここ最近は白雪様の事ばかり考えている。 


 私はカバンから、昨日買ったばかりのハロウィン小物をそっと取り出した。

 小さなカボチャ型のキーホルダー。オレンジと黒のストライプが入った、ちょっと可愛いすぎるマスク。

 白雪様の金色の瞳が、ぱちりと大きく見開かれる。

 興味津々、というより、まるで初めて見るおもちゃを見つけた子犬みたいに、キラキラと輝いている。


「これ……何?」


 尻尾の先が、ぴょこぴょこ小刻みに動いているのが見えて、思わず頰が緩む。


「ふふっ。白雪様、知らない? これ、ハロウィンのグッズだよ」


 私はスマホを取り出して、大須商店街のハロウィンイベントの写真を見せながら、隣にぴったりと寄り添った。

 白雪様の体温が、袖越しにじんわり伝わってくる。狐耳が私の髪に軽く触れて、くすぐったい。


「10月31日の、お祭りなんだ。みんな仮装して、トリック・オア・トリート! って言いながらお菓子をもらったりするの。今はもう、すっごく楽しいイベントになってるよ」


 画面に映るのは、キッズパレードで魔女や幽霊の格好をした子どもたちが、笑顔で商店街を練り歩く写真。

 白雪様が、画面に顔をぐっと近づけてくる。銀髪が私の肩にかかって、甘い匂いが強くなった。


「……みんな、化けているよ。狐みたいに」


「そうそう! 白雪様なんて、その狐耳と尻尾が本物だから、もう完璧な狐神コスプレだよ? 大須のハロウィン、今年もめっちゃ盛り上がってるみたいだし……一緒に、行ってみない?」


 白雪様の尻尾が、ぴょんぴょん跳ね始めた。

 興奮が隠しきれなくて、耳までぴくぴく動いている。

 その姿が可愛すぎて、胸がきゅんきゅん痛い。


「わたしも……綾と一緒に、行きたい」


 金色の瞳が、期待と少しの不安で揺れている。

 私はそっと、白雪様の手を握った。細くて、温かくて、いつも私を安心させてくれる手。


「うん。もちろん。白雪様の耳と尻尾、絶対『本格的すぎ!』って褒められるよ。むしろ目立っちゃうくらい可愛いから……一緒に、最高のハロウィンにしよう?」


 白雪様の頰が、ぽっと桜色に染まる。

 尻尾が私の腰にそっと巻きついて、甘えるように寄り添ってきた。


「……綾と一緒なら、どんな仮装でも、楽しい」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。


「じゃあ、まずは仮装の相談から始めよっか。白雪様にぴったりの、可愛い衣装……一緒に考えようね」


 外の風は冷たいのに、この部屋の中は、二人だけの甘い温もりでいっぱいだった。


 私は立ち上がって、白雪様の手をそっと引いた。

 細い指が、私の掌にすっぽり収まる感触が、いつもより少し熱っぽくてドキドキする。


「でも、何のコスプレをしよう?」


「それが準備の第一歩だよ! まずは一緒に仮装を考えようよ」


 白雪様は狐神だから、狐をモチーフにした可愛い衣装が絶対似合う。

 狐耳カチューシャとか尻尾は本物だから、そのままで完璧だし。

 着物風のドレスとか、魔女っぽいマントとか、どうかな?


「着物風のドレス……似合うかな?」


 白雪様が少し照れたように首を傾げて、銀髪がさらりと揺れる。

 金色の瞳が期待でキラキラしてるのが、もうたまらない。


 私はクローゼットに駆け寄って、ドアを勢いよく開けた。

 中学の文化祭で使った小物や服が、ぱっと広がる。


「ほら、これ! 中学の文化祭で使った魔女帽子の予備があるよ」


 黒いとんがり帽子を手に取って、白雪様の頭にそっと乗せてみる。

 銀色の長い髪に黒が映えて、まるで本物の魔女みたい。

 狐耳が帽子からぴょこんと飛び出してるのが、逆にめちゃくちゃ可愛い。


「どう? 白雪様、似合う……!」


「えへへ……なんか、照れるね」


 白雪様が頰をぽっと赤くして、鏡の方をちらっと見る。尻尾が嬉しそうに左右にパタパタ揺れてる。


「あと、お菓子作りもしてみない? ジャック・オー・ランタンみたいなカボチャのクッキーとか!」


 白雪様が私の横にぴったり寄ってきて、興味津々に覗き込んでくる。

 狐耳が私の頰にふわっと触れて、くすぐったくて思わず肩をすくめた。


「それも楽しみ? でもクッキーも食べたい」


 白雪様の声が、少し弾む。


「綾と一緒に作るの、すっごく楽しみ!」


 その言葉に、胸がきゅんって鳴った。


「うん! 今日は買い物に行こうか。大須の商店街なら、ハロウィングッズ売ってるお店がいーっぱいあるんだ。仮装用の小物とか、お菓子とか、カボチャも」


 白雪様が私の腕にぎゅっと絡みついてきて、甘えるように顔を寄せてくる。

 銀髪が私の肩に落ちて、甘い雪みたいな匂いがふわっと広がった。


「綾との初めてのハロウィン。全部楽しもう」


 その上目遣いの金色の瞳に、完全に心を撃ち抜かれた。


「もちろん。全部一緒にやろうよ。白雪様とだったら、どんなお祭りだって、絶対に幸せになるから」


 私はそっと、白雪様の額に唇を触れさせた。柔らかい肌の感触と、ほのかな温もりが、じんわり胸に染みてくる。


「……うん。綾と一緒なら楽しい」


 そう言って、白雪様は私の手をぎゅっと握り返した。指が絡まって、離したくないくらい強く。

 外はもう夕暮れ。窓から差し込むオレンジ色の光が、部屋を優しく染めていく。

 これから始まるハロウィンの準備が、なんだか胸の奥をふわふわと温かくしてくれる。

 白雪様の尻尾が、私の腰にそっと巻きついてくるのを感じながら、私は心の中でそっと呟いた。

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