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美少女に首筋チュウされて喜んでたら、彼女の正体は吸血鬼で僕は食材ポジションでした。  作者: 五月雨恋


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7:ヒロインと美味しい告白

 歌い終わった紅羽(くれは)さんが、ふう……と恥ずかしそうにため息をつく。

 そして僕の顔をじっと見つめてくる。


「……歌下手だなって思ったでしょ?」

「歌は努力すれば上手くなるから。それより声が可愛いのが強い」


 ――もはや才能の塊である。

 天は二物(にぶつ)を与えたうえで、さらに愛らしい特徴まで付け加えてくださったのか。

 神様ありがとう。足が遅いのも音痴(おんち)なのも、全部ひっくるめて可愛いです。

 ……いや、もはや人間ではなく神の子なのでは――?


 そう考えた瞬間、思い出した。

 そうだ、この子って。


玲央(れお)から聞いたんだけど……。吸血鬼だってこと、ちゃんと説明してなくて……ごめんなさい」


 ――そういえば、そうでしたね。

 いやまぁ、そう言いつつ僕は「血を吸われたいな~」なんて思いながらここに来てましたけど。


「いや、ちょっとびっくりしたけど……謝らなくていいよ」


 本当は「だから吸って!」って言いたいけど、しょんぼりしてる紅羽(くれは)さんを見て我慢した。


「私、その……恋とかもしたことなくて。吸血衝動なんてのも今までなくって……」

「……うん? 恋と吸血って関係あるの?」


 紅羽(くれは)さんは顔を真っ赤にして、コクンと頷いた。


 ――まさかのカップラーメン卒業ですか!?

 僕、人間!? 人間にランクアップ!?

 飛び級にも程があるだろ! 輪廻転生(りんねてんせい)ブッダもビックリ!!

 カップ麺枠から一気に“人間”へジャンプアップ!!!


「あ、でもでも!! 野中君のこと、正直……“すごく美味しい!”って気持ちが強すぎて!」

「やっぱカップラーメンなのね!?」

「……へ?」

「いや、紅羽(くれは)さんから見た僕の扱い」

「そんな事ないよッ!!」


 紅羽(くれは)さんはちょいオコだった。

 怒った顔は初めて見たけど、ふむこれは中々……。

 芸術作品を鑑賞するように見つめていると、紅羽(くれは)さんは続ける。


「たしかにカップラーメンは美味しいけど、野中くんの血液はもっとこう複雑で……一口目からもう情報量が多い!って感じだし、その数秒後に来る香りがエレガントかつ芳醇。後味もサッパリしてるように見せかけてほんのりと心地よい感じが後を引くって言うか……うーん」


 多すぎて伝えきれないよぅ……と最後には頭を抱えていた。

 カップラーメンじゃないにせよ、つまりそれって……。


「……ワインやウイスキーみたいな?」

「そう、それ!!!」


 親指と人差し指を立てたポーズで、紅羽(くれは)さんがシュバっと隣へ密着してくる。

 かと思えば切なげな表情で僕の肩にポスンと頭を乗せてきた。

 ……ねぇ知ってる?0cmって恋人の距離なんだよ?


「……正直に話すとね? 初めて野中君の血を吸った時、あまりに美味しすぎて……私、野中君のこと、友達に酷い説明しちゃった……」

「友達?」

「うん。……玲央(れお)くん。家が近くて幼馴染なんだ」


 ――ああ、玲央(れお)か。っていうか幼馴染なんだ。そのご近所、顔面偏差値高すぎるんじゃない?


「ちなみに、何て言ったの?」


 玲央(れお)から聞いてるけど、一応聞いてみる。

 紅羽(くれは)さんは「怒っていいよ……」と前置きしてから――。


「……“食べ放題のお取り寄せグルメ”……」

「お取り寄せ!?しかも食べ放題!?」

「だって……美味しいし、いつでも良いよって安心感あるし……」

「僕は常備ストックか!? 冷凍庫の引き出しか!?」


 玲央(れお)は僕に伝える時ちょっとだけオブラートに包んでくれてたのね!大して変わらないけど!


「あと……その……吸血って基本的に恋人とか旦那さんにするものなんだよ……ね」

「……らしいね」

「初めての吸血行為に舞い上がってたのもあるけど……。もしこの先、野中くんと結婚ってことになったら……同じ家に住むわけだし……その時には“足の生えた冷蔵庫”だよ!って言ったら、玲央(れお)に本気で怒られた」


 紅羽(くれは)さんは本当に申し訳なさそうにペコペコ頭を下げている。


 ――いや待て、今さらっと結婚とか言った!?!?


「だからごめん……私は野中くんに、ちゃんと謝りたかったんだ。だから私は……」


「――そんなことはどうでも良い!!!」


 突然の僕の大声に、紅羽(くれは)さんの肩がビクッと跳ねた。


「僕は――紅羽(くれは)さんになら、吸われても良いと思ってる!」


 紅羽(くれは)さんは戸惑いの表情を浮かべ、ゆっくりと首を横に振った。


「ううん。もう野中くんからは吸わないようにしようって思ったの」

「いや、むしろ吸ってくれ」

「でも……ッ!!私、野中くんの事、やっぱり食材としてしか見てないし、こんなのオカシイし……駄目だよ……ッ」


 たまに凄く心抉ってくるけど、僕は下心で押し切る。


「僕の首筋(くびすじ)は24時間営業だ!」

「えっ」

「お客はあなただけ!!常連(じょうれん)様専用!!」

「でもっ……」

「血液ドリンクバーだよ??僕の目を見て。――正直に、どう思う?」


 至近距離から見た紅羽(くれは)さんの瞳は小さく震えていて、やがて恥ずかしそうにボソリ。


「とても……美味しそう……です……」


 その瞬間、僕の中で何かが爆発した。


「俺だって紅羽(くれは)さんに――食べられたい!!」

「野中くん……っ!」

紅羽(くれは)さん……!!」


 ラブラブカップルなら「好きだ」「愛してる」ってなる場面で、僕たちは真顔で「美味しそう!」「食べられたい!」を連呼している。

 ――え、なにこの会話? これで良いの? カップル成立の方向性、完全に食レポじゃない!?


 けど、紅羽(くれは)さんが顔を赤らめながら「美味しい……」って言ってくれるなら、僕はそれで良いんだ。


 ……胃袋は落ちた。心はまだだけどな!!!!

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