4:イケメンと運命変更宣言
正直な話、ちょっとファンタジーすぎると思った。
憧れの女の子と急接近してドキドキしていただけの僕に、まさかこんなことが起こるなんて……。
ちょっぴりパニックになって、涙がポロポロこぼれる。
すると玲央は僕の頭を優しく撫で、静かに寄り添ってきた。
「――って、ちゃうやろがい!!!」
僕は玲央の腕を振り払い、勢いよく立ち上がる。
「お? ちょっと元気出たか?」
玲央がニヤリとイケメンスマイル。
とりあえず現状把握だ! 現状把握!! 何が起こったのか、もっと詳細に分からないと困る!!
そうして僕たちは夕焼けをバックに話し始めた。
……いや、なんでこんなにエモいシチュエーションなんだよ。口説かれてるの?僕。
そして、空が群青に染まり、夜の気配が濃くなってくるまで。
玲央は色々と教えてくれた。
紅羽さんと玲央が吸血鬼であること。
吸血鬼は現代社会に紛れて生きていること。
日光・十字架・ニンニクの弱点は人間社会に紛れるためのフェイクであること。
吸血されても吸血鬼にはならないこと。
僕の知ってる吸血鬼とは随分と違うな?
「……そんなとんでもない秘密、僕に話していいのかよ?」
「いやだってお前、もう血を吸われてるしな」
「意味が分からないんだけど、そこに何の意味があるんだ?」
玲央は少し考えてから、真剣な瞳で言った。
「血を吸うってのは特別なんだよ。普通は配偶者とか婚約者とか……そういう相手にしかしない」
「なんだそれ? なんかプロポーズみたいだな」
僕が茶化すように言うと、玲央は少し考えてから頷いた。
「ああ、近いな。ただ……もっと危ないんだよ」
「危ない?」
「そうだ。血を吸われると、その相手のことを“ちょっとだけ好きになる”。副作用みたいなもんだ」
「……え、それってつまり?」
「例えばだ。お前の俺に対する好感度を“100”が上限だとして、普段は“0”だとする。俺がお前の血を吸うたびに、その数字が1ずつ増えていく。1回や2回じゃ大したことはない。でも10回、20回と続いたら? 気づけば“好き”になっちまう。100回も吸われたら……もう完全に洗脳だ。本人の意思とは関係なく、その相手に夢中になる」
「……なにそれ、めっちゃ怖いじゃん」
「だから吸血ってのは、配偶者とか婚約者とか……そういう“絶対に裏切らない相手”にしかやらねぇんだ。軽い気持ちでやれば、相手の人生を壊すことになる」
――ロマンチックすぎるだろ、吸血鬼。
「一度吸われたら好感度はそのままなのか?」
「いや、一応効果は徐々には下がっていく。大体キスマークが消えるのと同じくらいだな」
「じゃあ、そこまで大きな問題にはならないんじゃないか? 100回連続で吸われなければいいんだろ?」
「それは例えだから。吸われるってことは“小さな好き”ってことだ。それが積み重なって……やがて愛だの恋だのに変わっていくんだ」
「でも、僕が紅羽さんを好きなのは吸われる前からだし……人によるんじゃないか?」
それに僕と紅羽さんは付き合って――。
……いや、待て。
「……付き合ってるよな? え、そうだよね??」
口に出した瞬間、胸の奥に小さな不安が芽生えた。
僕は慌てて玲央に問いかける。
「なあ、僕のこと……紅羽さんは何て説明してる……?」
玲央は何かを察したらしく、心底気の毒そうな顔を浮かべた。
……とても、嫌な予感だ。
「……いつでも吸える、美味しい血液……」
唇が渇き、耳の奥がキーンと鳴る。――ようなショックを、僕は受けた。
……はい終了。僕の青春ラブストーリー、ここで完結。 彼氏だと思っていたのに、紅羽さんにとっての僕は例えるならそう――。
\\ インスタントラーメン //
……うん。熱湯がわりに誘惑したら出来上がり。 恋人じゃなく、ただ“腹を満たすだけの存在”。 そう思ったら、胸の奥に穴が空いた気がした。
夜景が広がる展望台。
玲央は「なんか、悪ぃな」と呟いたけど、僕は首を振る。
「いや……いいよ」
コーラを飲み干した。もうすっかり温くなっていた。
「だからよ。お前、紅羽とは関わらない方が良い。記憶を消してもらって明日から普通に生きろ」
「え、記憶なんか消せないだろ?」
「消せるよ。……どうやって消されるのかは分からねえけど」
「頭開けてチクチクするとか!? 薬とか!? そういうの!?」
「外傷は……なかった気がする。少なくとも縫い跡とかは見えなかったな」
怖いわ! 頭殴られて生きてたら記憶消えましたーとかじゃないよね?
そんなリスクを背負うのと紅羽さんとの逢瀬を天秤にかける。……問題なくない?
「いや、大丈夫でしょ」
はい、これ結論。
玲央が心底心配してくれているのは分かる。でも僕は、それでいいと思った。――だってもう、全力で吸われたいと思ってるんだから。
だって、身体を密着させて首筋をチュウチュウ……。
あんな美少女にそんなことされたら、そりゃ誰だってトリコになるでしょ!?
至上最高峰のえっちな行為だし、もし「食料」扱いでも僕はむしろ光栄だ。
できれば恋人になりたい――そりゃ、もちろんそうだ。
けどモブの僕が“特別なモブ”になれるなら、それで十分じゃないか。
……ね? 分かるでしょ?
「僕はもう紅羽さんにぞっこんなんだ。1度や2度や100回吸われたって構わない」
ニカッと笑った僕に、玲央は苦しそうな顔をした。
「――おかしいだろッ!それじゃ紅羽の奴隷じゃねえか!?」
「おかしくなんてない。赤の他人のまま疎遠になるよりずっと良い。」
「でもッ!!」
「これが僕の運命なんだ、きっと」
僕はちょっぴり切なげな顔をしてみせた。
……でも実際は、ただの下心を誤魔化しているだけだ。
――恋人じゃなくても、美少女に吸血を求められるだけで、僕はもう幸せなんだ。
「――させるかよ」
その瞬間、玲央が僕の手首を掴んだ。
そして僕の手のひらを自分の口へ寄せ、親指の付け根に――そっと口づけた。
「お、お前いきなり――」
玲央が鋭い瞳で僕を見つめる。その視線に射抜かれて、鼓動が暴れ出す。
胸の奥でドクンドクンと音が鳴って、息まで詰まりそうだ。
――だめ、そんな目で見ないで。
長いようで一瞬の時間が過ぎて。
「お前の運命、俺が変えてやる」
僕の心臓は――キュンと大きく跳ねた。




