3:イケメンとお姫様抱っこ
超絶☆イケメンと超絶☆美少女は、目の前で言い争っていた。
まるでドラマのワンシーン。映画ならゴールデンタイムのCMで流れるレベルの名場面だ。
イケメンが彼女の腕を掴み、紅羽さんは「離してよ!!」とか何とか言っている。
――ここで「彼女に何をする!?」って飛び込むのが正解? いやいや、何をおっしゃいますやら。
どう見ても「引き止めたい彼氏」と「引き止められたい彼女」の痴話げんか。僕なんか出る幕じゃない。
ちなみに僕は、ついさっきショックのあまり膝から崩れ落ちたばかりだ。
膝の回復にはもう少し時間がかかりそうなので、泣きそうになりながら遠目で見守っている。
……って、泣いてもいいですか??
そんなことを考えていたら――紅羽さんと目が合った。
「……野中くん? 野中くん!! 助けて……!!」
僕を見つけた紅羽さんが叫ぶ。
その瞬間、両足に力がみなぎった。
空気に溶けかけていた僕の存在が、一気に輪郭を取り戻す。
胸の奥を熱いものがぎゅうっと埋めていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
砂を巻き上げ、風を切り裂き、紅羽さんの元へ駆け出した。
難しいことは何も考えなくていい。ただ――君のために!!
イケメンが立ちはだかる。
……って、背ぇ高っ!? 勝てる? 無理だわたぶん!!!
えーい、とりあえずタックルしたれ!!!
しかしそのイケメンは、僕の突撃を受け止め――一切よろけることなく、僕を抱きしめた。……なんで抱きしめた?!
そして紅羽さんに向かって言い放つ。
「紅羽。てめえ……マジでふざけんなよ?」
紅羽さんも負けじと言い返す。
「ふざけてなんかないっ! 玲央くんには関係ないでしょ!?」
「関係あるだろ!! お前が滅茶苦茶することで、どれだけ同族に迷惑がかかるか考えろ!」
「うるさいうるさいうるさい!! てか、いつまで抱きしめてるの!? 私の野中くんを返してよ!!」
――ちょ、今サラッと「私の野中くん」って言いました!? 僕の心臓が爆発するんですが!?
イケメンの腕から逃れようとモガモガ暴れていると、彼は意外とすんなり解放してくれた。
「……悪い。痛かったか?」
その声色がほんの少し優しいのが腹立つ。
でもすぐに紅羽さんに向き直り、冷たく言い放つ。
「こいつとは俺が話す。お前はさっさと帰れ」
「嫌!! 私と野中くんはちゃんと納得した上での関係だもん!! 邪魔しないで!!」
――いやー、会話に入る隙間ゼロなんですけど!?
両側から主張されても僕どうすりゃいいの!?
戸惑っている僕に、イケメンが顔を近づけて囁いた。
「ちょっと荒くなるが……我慢してくれよ?」
次の瞬間、僕はひょいっと抱え上げられ――まさかのお姫様抱っこ!?
そしてそのまま凄まじいスピードで駆け出した!!!
「ちょっ……待ってよーー!!!」
紅羽さんの声が遠ざかっていく。
あの子、めちゃくちゃ脚が遅いんです。これ豆知識。
イケメンは僕を抱えたまま公園を抜け、住宅街を走り抜け、そして――。
たどり着いたのは町を一望できる丘の上の展望台だった。
僕を下ろした彼は小さく悪態をつき、自販機へ。
そして夕焼けを背に戻ってくると、缶を二つ掲げた。
「悪い。何飲むか事前に聞くべきだったな。……どっちがいい? 好きなの選べよ」
コーラとオレンジジュース。僕は迷わずコーラを取る。
「お、気が合うな。俺もコーラ派なんだよ」
そう言って彼――神城玲央は、僕に自己紹介しながらコーラを手渡した。
プシュッといい音を立てて、僕は一口。
状況が全く理解できてないけど、頭を回転させるために水分と糖分を補給する。
カッコつけて言ったけど、ただコーラが飲みたかっただけだ。イケメンは「コーラ2本でも良かったな」と呟きながらオレンジジュースを美味しそうに飲んでいた。
「というか、そもそもどういう状況なんだよ?」
「ん? やっぱアイツ、何にも説明してねぇのか。……マジはしたない」
はしたないって言われた、僕の天使……。
僕は思わず反論する。
「紅羽さんは、そんな子じゃない!!」
「いや、付き合ってもねぇ相手の血を吸ったんだぞ!? 明らかに狂ってるだろ!」
「ち……?」
「血。」
「……ち?」
「血。血液! ブラッド!! お前の体の中に流れてる赤いやつ!」
……何言ってんの?
「そんな“吸血鬼”みたいなこと言われても……」
さすがに突然すぎるわ。
吸血鬼? いやいや、中二病の自己紹介かよ。あ、でも僕もそういう漫画は好きだよ?
「いや、吸血鬼なんだけど」
玲央はバツが悪そうに視線を逸らす。
「……まさか、それすらもアイツ言ってなかったのか?」
頭を抱えて長いため息をついたあと、すっと僕に顔を近づけてくる。
近くで見るとさらにイケメンじゃねぇか。なんなんだよ、こいつ。僕が女なら恋に落ちるぞ。
「見てろ」
そう言って、玲央は歯をむき出しにした。
犬歯が――にゅん! と伸びる。きゃあ怖い! それどうなってるの?!
「ここで血を吸う」
「……はい?」
「ま、さすがにお前から吸うわけにもいかねぇし」
そう言うと、自分の腕に牙を立てて啜ってみせる。
……あ、顔がちょっとマズそう。絶対美味しくないやつだ。
「で、吸った傷はすぐに塞がる。キスマークみたいになって跡だけ残る」
玲央はそう言いながら、腕を突き出して見せてきた。
「え? じゃあつまり……」
「お前、あの女に血吸われたんだよ」
「きゃああああああ!?!?」
女の子みたいな声が、出た。




