22:僕と吸血鬼 2/2
早めの下校に時間を持て余した僕たちは、本屋さんにいったり、服を見たり、クレープを食べたり。
なんというか――いかにもデートみたいな事をして過ごした。
「順、このソース……血に見えない?」
「……どうせ“血をココに混ぜてみない?”って言うんでしょ」
「えっ、バレてる!?」
……やっぱりデートってこういうやりとりするもんなんだろうか。そんな訳ないよね?
そして夕方の公園。
茜色に染まるそこには何故か人影一つ無かった。
それはまるで異世界のようで。
僕たち二人だけの世界のようで。
僕は繋いだままの手を離して彼女に向き直る。
僕がずっと憧れていた人。
僕が初めて秘密を知った人。
僕が傷ついても離れられなかった人。
僕が食材でも構わないと思えた人。
僕が笑って、困って、心を揺さぶられた人。
そして――僕がずっと愛し続けると決めた人。
僕は大きく息を吸って覚悟を決める。男を見せろ!!野中順!!!
「紅羽、好きだ。……大好きだ!!付き合ってください!!!」
「ごめんなさいっ!」
――早っ!
「ちょ……!もう少し溜めてくれても良くない!?」
「あ、ごめん……。あーでもでも!ごめんなさいはやっぱ無し!!」
「え?じゃあOK??」
「OKでもない!!」
じゃあどっちなのよ。
紅羽さんは腕を横一文字に広げる。
「それ何のポーズ? セーフ??」
「えっとこれはその……キープですっ!!」
ビシィ!と決まる謎ポーズ、キープ。
「……解説をお願いします」
よく分からないので僕は素直に求める。
「あ、はい。えっとですね、私としましても日々の暮らしを通して慎重に慎重に検討させていただいていたんです」
紅羽さんが言われたとおり、解説風に語り始める。
「私が以前宣言いたしました「友達以上、恋人未満」。これはまさに今の私の状況をそのまま表しています」
「ほうほう。僕としては、友達という立場が、食材と恋人の間、どのあたりに入るのかが気になっているのですが……」
「食材と恋人の……間?」
「えーとつまり、紅羽さんから見て、食材を10点、恋人を100点だとしたら、友達は何点くらい??」
「何言ってるの順!?食材は友達より上だよ!?」
「――ん?つまり食材=友達以上恋人未満??」
「うん」
紅羽さんは自信ありげに頷く。
「いや、それもう脈ないじゃん!!」
「えええ?? 何言ってるの?? 一番恋人に近いじゃん!!」
「どういう事?? 位置関係がつかめない!!」
僕の質問に紅羽さんは鞄を抱きしめながらモジモジとする。
「ええっと……」
「友達10点、恋人100点としたら……食材は80点……」
照れてはいるが、まぁまぁの畜生発言である。いやしかし食材の点数高いな??
「これってさ、告白に近く――ない?」
紅羽さんは上目遣いで聞いてくる。
「全然近くない」
繰り返すが畜生発言である。
紅羽さんはモジモジしたまま、話を続ける。
「で……その。順と一緒に過ごすうちに、その点数ってどんどん上がっていってるの」
「食材ポジションだから80点はあるわけか……。今何点なの??」
「えっと……」
紅羽さんは一呼吸置く。いや告白された時に置いてよ。
「――89点まで来ちゃいました」
「……ちなみにそれが100点になったら??」
紅羽さんの顔は夕焼けに染まっているから分かりにくいが……たぶん真っ赤なんだろう。
「……お付き合い、して欲しい……です」
鞄で口元を隠しながら紅羽さんはそんな言葉をひねり出した。
んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!
――――可愛いィ!! もう許すッ!!!
僕たちの関係は今日変わらなかった。
でも今89点。100点目指して頑張ればいいだけの話なのだ!!
だから僕はこの先100点を目指して……いや、何だこれ? なんかのゲーム?
――考えても良く分からない。まあいいや。
僕は紅羽さんを抱えた鞄ごと、そっと抱きしめる。
「――順?どうしたの??」
「いや……抱きしめたら90点にならないかなって」
「なるわけないじゃん……バカ。吸血の方がポイント高いし」
「え、そうなの!?」
僕はすぐさま腕を解いた。
「それでさ……」
今度は紅羽さんがカバンを地面に置いて、僕をギュッと抱きしめる。
「明日から……夏休みでしょ?順の家に遊びに行っていい?」
「……付き合ってないんだから、ダメでしょ。大体何するの?」
「勉強してー、一緒にお菓子食べたり、映画見たりしてー」
いや、こんな美少女が僕の部屋にいるとか、僕の理性どう考えても崩壊する。
「あとは二人でベッドにゴロゴロしてね? 吸いたくなったら吸血するの!」
「アウトに決まってんだろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」
一瞬想像しただけで理性が吹っ飛んだ。僕はもう、公園の出口めがけて逃げ出すしかない!!
「待ってよ順ー!!!」
紅羽さんは足が遅い。だから余裕で逃げ切れるはず――と思ったら。
「お前ッ!?どこから来た!?」
ベンチの陰から飛び出した玲央が追いかけてくる。
「さっきから見てたんだよ! お前フラれたよな!? だからまだフリーだよな!?」
「本気で言ってんのか!?」
「最初から本気だって言ってんだろ!!」
「聞いてねぇ!」
本気なのはお前の態度だけだ!……いや違う!知らん!!
僕はさらに走る速度を上げて、玲央からも逃げ出した。
公園の出口には黒塗りの高級車が待ち構えていて――。
「乗っていくかね?」
後部座席のドアが静かに開き、紅羽さんの父・美園アレッサンドロが優雅に手招きしていた。
「乗りません!!」
即答して鋭角に曲がると、僕は夜へと沈みゆく住宅街をどこまでも走った。
息は切れ、頭は混乱し、心臓は爆発寸前。
それでも叫ばずにはいられない。
「――僕の青春、ラブコメの皮を被った吸血鬼パニックじゃないかこれ!?!?」




