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美少女に首筋チュウされて喜んでたら、彼女の正体は吸血鬼で僕は食材ポジションでした。  作者: 五月雨恋


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21/22

21:僕と吸血鬼 1/2

 蒸し返す(むしかえす)ような暑さの中、僕は学校に辿り着いた。

 下駄箱(げたばこ)を開けて出て来た手紙の束を、まずはゴミ箱へ直行させる。恨みつらみと呪いの言葉に果たし状(はたしじょう)。お便りコーナーは今日も大盛況だ。

 上履きの中から出てきたのは……尖った石。

 画鋲(がびょう)よりはマシっていう優しさなのか? いや、いらん優しさだわ!


 ――でも、そんなくだらないルーティンを繰り返せるのも、きっと今日が最後なんだ。

 

 だって明日から夏休みだし。

 ……夏休みの間に下駄箱がさらにカオスにならないよう祈るばかりだ。専用ポストでも作るべきかしら。いや外注して窓口作るのは流石にやりすぎか。

 いつも通りアホなことを考えていると、顔の真横からひょっこり可愛い顔が出てきた。


「何考えてたの?」

「うわビックリした! おはよう紅羽(くれは)さん紅羽(くれは)

「クレハサンクレハってなんですかー?どこかの教会ですかー?」

 

 未だに呼び捨てが慣れなくてこうなる。つい先日、そんな僕に、紅羽(くれは)さんはこう決めた。

 「(じゅん)。私のこと『さん』付けで呼ぶたびに、1回吸血の罰ゲームね?」

 ――罰ゲームという名目だけど、僕にとっては完全にご褒美でしかない。

 ただ、吸血のたびに欲望は増していく。触れたい、抱きしめたい、キスしたい――。

 僕たちが本当に恋人同士なら、それで何も困らないのだけど。……残念ながら僕たちはそうではない。


 友達以上、恋人未満。


 日に日に距離が近づいていく僕たちに、クラスメイトたちが実態を迫ってきたとき、紅羽(くれは)さんはそう言ったのだ。


 僕の認識はこうだ。食材以上、恋人未満。

 もし“友達”が入るとしたら、それは食材と恋人のちょうど境界――一体どのへんに腰を据えているんだろう。食材の少し上……かな?


(じゅん)? もしもーし?」

「ごめん、クレハサンクレハを建てるならどの国がいいか考えてた」

「私のルーツだし、イタリアじゃない? スペインのサグラダ・ファミリアに対抗しないとっ!」

「向こうは歴史で勝負してくるから、こっちは爆速で建てようか」

「早いっ! 安いっ! 美味いっ! みたいな? それだと(じゅん)だね。ジュンサンジュン!」

「たしかに……」


 僕たちは今日もバカ話をしながら教室へ向かう。

 いつも朝が早い紅羽(くれは)さんは、昇降口で僕が来るのを待ってくれるようになった。


 教室に入れば光景はいつも通りだ。

 紅羽(くれは)さんに浴びせられるのは挨拶。僕に浴びせられるのは罵声。

 2つが混ざり合って、教室はいつもカオスになる。


 ため息をつきつつ、それぞれの席へ向かう。

 僕は自分の席に鞄を下ろすと、前の席の友人・山田に「おはよう」と声をかけた。


「おはよう。明日から夏休みだな」


 山田との関係は何も変わらない。――ただ、最近は色々あって一緒に帰る機会がめっきり減った気がする。


「山田、夏休みになったらさ。一緒にクレープ食べに行こうな?」

「え? なんで?? デートみたいで嫌だよ。ゲーセンで良いじゃん?」

「たしかに」


 玲央(れお)のせいで色々とおかしくなった気がする。

 学校内唯一の友人は、もっと大切にしよう。僕はそう思った。


 * * *


 終業式を終え、1学期最後のHR。

 先生から成績表が渡される。


「野中……疑って悪かったな」

「いやまぁ……仕方ないです」


 紅羽(くれは)パパのバイト――別名スパルタ個別指導を毎日のように受け続けた結果、僕の成績は下の中から学年1位へと驚異のジャンプアップを果たしていた。

 期末テスト終了後には、先生にカンニングを疑われて全教科分を受け直す羽目になった。

 今では笑える思い出だ。


 最後の挨拶を終えると、山田が話しかけてくる。


「今日は……そのまま帰るのか?」

「いや、今日は……勝負の日になるんだ」

「な、お前まさか……!?」


 僕の一言に呼応するように、男子生徒たちによる紅羽(くれは)防衛網が瞬時に構築された。

 その壁は厚く、隙もなく張り巡らされている。――はずだった。


紅羽(くれは)

「はいはーい!解散してくださーい!!」


 紅羽(くれは)さんの一言で、鉄壁の防衛網は一瞬にして瓦解(がかい)(ちり)となって消え去った。

 ……もう構築する意味すらないんじゃない??


「一緒に帰る? ウチに来る? それとも――二人きりになれる場所、行っちゃう?」


 紅羽(くれは)さんの言葉は、とんでもない誘い文句のように聞こえるが……。正しく翻訳すると――


「帰り道で吸血? 美園家の屋敷で吸血? それとも放送室で吸血?」である。


 単に食事場所を尋ねられているだけ。決して勘違いしてはならない。

 

「一緒に帰ろう。でも――夏休みに入る前に、紅羽(くれは)に伝えたいことがあるんだ。ちょっと付き合って欲しい」


 僕の言葉に、クラス中がざわめいた。ついにこの関係に終止符が打たれるのか、と。

 さっき(ちり)となった男子生徒たちは、嵐のように吹き荒れている。


「いいよー♪」


 ――ちなみに紅羽(くれは)さんは、多分よく分かってない。

 頭の中は吸血でいっぱいだと思う。


「じゃあ行こうか」


 僕は彼女の手を引いて歩き出した。突然の僕の行動に紅羽(くれは)さんは戸惑いつつも付いてくる。

 ――ちなみにこんな事はいつもやらない。なんなら初めてだ。……いや一回無意識にやってるな。


 互いに頬を真っ赤に染めながら歩く僕たちは、どう見ても初心者カップルそのもの。

 でも今日は。「友達以上、恋人未満」のこの関係をどうにかして変えたい。

 攻めるなら、今しかないのだ。

 ……周囲のクラスメイト達? ごめん、そんなの気にしてる余裕、今の僕には一切ない。



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