20:イケメンとカフェ
紅羽さんは僕の事をどう思っているのだろうか。
基本的には食材扱いなのだとは自覚している。
食材であること、それが僕のアイデンティティであり、基本的食材権だ。
紅羽さんの血液部門に関して言えば、彼女の食糧自給率は僕100%なわけで。
……いや違うな。自給だと紅羽さん自身だから、僕は輸入牛? FTA対象?? いや、まさかのWTO案件??? こうなってくると、恋の世界は国際問題だ。
「分からん」
「何がだよ」
向かいに座る玲央が不機嫌な顔で睨みつけてくる。
今日は休日。僕はなんでか知らないが友人と二人、オシャレなカフェにいた。……友人って事にしてくれ。気を抜くと「ちょっと気になるアイツ」になる。
玲央はキレイ目ファッションとかいうやつだろうか??
ファッションに疎いので上手く説明できないけど清潔感とオシャレさを掛け合わせたような出で立ちでそこに座っている。
……いや、実は普通の服なのに、着てるのが玲央だと全部オシャレに見えるのかもしれない。
それに比べて僕ときたら――。
「いや、何か喋れよ。さっきからずっと上の空じゃねえか。お前の目の前に俺がいるんだぞ?」
「分かってるよ。お前に比べたら僕はオシャレじゃないなって考えてた」
「こないだ一緒に買った服があっただろ?あれ着てくれば良かったじゃねえか」
「あー。あれね……」
壁ドンついでに行ったね、服屋。
あの服は僕の勝負服として来るべき時に着用することに決定したんです。紅羽さんとデートとか!!
そんな日が来るかは知らん!来なけりゃ封印だ!!
「ちょっと楽しみにしてたのによ」
玲央が拗ねる。――キュン。
ええいクソ。キュンキュンするんじゃないぞ僕。
何となく目を逸らしたら、玲央が続けて口を開いた。
「……ところでよ」
「ん?」
「お前、俺の名前知ってるよな?」
「うん」
「だったら……」
「うん?」
なんか玲央が微妙に恥ずかしそうにしてる。
なに?何恥じらってるの? 知らない一面見つけちゃった。あ、違う。やっぱ今の無し。
「お前じゃなくてさ……名前で……呼べよ……」
目を逸らしたままぶっきらぼうに言う。
なんだよーマジでちょっと可愛いじゃん!抱きしめて頭ワシワシしてやろうか?
って違ァァァァァァァァ!?!?!?!
「いや、お前もお前って呼んでくるだろ」
「俺は良いんだよ」
「なんでだよ」
「お前と違って、そこに愛がある」
机に身を乗り出した玲央はそのクソ綺麗な顔面をこれでもかと見せつけてくる。
なんなのこの造形美。石化したら絶対美術館行きだわ。
愛という言葉は全力でスルーさせていただこう!ちょっと色々分からなくなっちゃう!!
なんでかって!? 知るかボケ!!! 素直になれない僕がいる!!
「じゃあ、僕のお前呼びにも愛があるって事で」
僕は高鳴る動悸をペシペシとシバき、調教しながら適当に返す。
「ふーん。じゃあ付き合うか?」
「んは!? ……え、今なんか言った???」
「聞こえただろ」
サラリととんでもない事を言ってのける。
「いや、意味が分からん」
「いやだって、お互いに愛し合ってるんだろ?」
「適当に言っただけだ本気にするなっ!」
「もう取り消しはさせねえ。次『お前』って読んだら交際決定な?」
グイグイガンガン来るな!?お前!!!!!
惚れてまうやろー!!!いや惚れない!!惚れません!アイラブ紅羽ァァ!!!でも好き!誰が好き?!分からない!!
ニヤニヤと見つめてくるイケメン面を見ているとなんか腹立ってきた。
「僕たちはまだ友達だ。それで良いだろ?……玲央」
何が恥ずかしくなったのか玲央はふっと目線を外にやった。俺も恥ずかしくなって少しうつむく。――キュン。
いやキュンが鬱陶しい!
そして何かに気づいた玲央は、ニヤニヤしつつまたその視線を僕に向けた。
「――今『まだ』っていったよな?」
「い、いいいい言ってねえし!?!?」
まだって何?!何を期待してるんだ僕は!!!??
男だぞ!?アイアムメン!ユーアーメン!ウィーアーメン!
フットーしちゃう頭を冷ますために、僕は話題を変える事にする。
「なぁ……玲央」
「ん?」
「お前さ。食と恋って……どう考えてる?」
「あー。俺ら特有のよくある悩みだな」
――やっぱ吸血鬼あるあるなのかね。
玲央は一瞬だけ目を細め、それからコーヒーカップを持ち上げる。
「なんで?」
「いや、なんか……最近そればっかりで頭がいっぱいでさ」
玲央はふっと笑う。
「気にした事ねえんだよなぁ」
「え」
「好きになっちまったらさ。相手の全てが欲しくなるのは――当然だろ?」
――その必殺技は僕にクリティカルヒットした。
そんな顔で言われたら……もっと好きになっちゃうよぉ……っ!!
……って、なんで僕が恋愛漫画のヒロインみたいになってんだ!!
* * *
カフェを出たあと。
気づけば僕の鞄をひょいと持って、そのまま家まで送り届けてくれる玲央がいた。
――いや、なんで!?
てか男同士でそういうのいらんだろ!?背中に突き刺さる女子高生の視線が痛いんですけど!?
返して鞄!! 返してよお!!
そんな僕の必死の抗議なんてどこ吹く風で、玲央は軽く笑いながらスタスタと歩いていく。
いやマジで、王子様じゃん…。
――だから僕は違うってば!! 惚れてない!惚れてません!!
アイラブ紅羽!! 紅羽オンリー!!!!!




