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美少女に首筋チュウされて喜んでたら、彼女の正体は吸血鬼で僕は食材ポジションでした。  作者: 五月雨恋


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17/22

17:ヒロインとラブラブ修羅場ジェットコースター

 そんなわけで、紅羽(くれは)さんに首筋を求められつつも、僕たちは教室へと戻った。

 どこへ行った、何を話した、何をした? 誰もがそのことを知りたがっている――けれど、誰も聞かない。そんな空気が教室中を支配していた。


「野中、紅羽(くれは)さんとどこで何してたんだ?」


 山田が、まるで天気の話でもするように軽く訊ねる。教室中の視線が、一斉に僕と山田に注がれた。

 何してくれるんだよ、山田!? この返答を間違えたら僕は終わるんだぞ!?


 僕は慎重に、ひとつひとつ言葉を選んでから答えた。

 

 「秘密結社で会議……?」


 言っていいことと言えないことの境界線をぎりぎりで渡ろうとしたら、ただの不審な一言になってしまった。


「なんだそれ?」


 山田は怪訝な顔をする。僕も自分の言葉を反芻(はんすう)して、同じように怪訝になる。

 どう説明すればいいんだろう……。

 そのとき、自席にお弁当箱をしまい終えた紅羽(くれは)さんが、周囲の空気を読まずにやってきて、にこりと一言。


(じゅん)と、内緒のお話してたの」


 そして僕にウインク。クラス中の殺気が一斉に上がるのを感じた。

 山田は首をかしげながら、真顔で問い返す。

 

「……(じゅん)って……誰?」

「僕の名前。野中 (じゅん)

「え、まじか。知らなかった。」


 入学して一年以上経ってるのに、僕の名前を知らないとはどういうことだ!!

 そもそもお前は本当に友人なのか? ちょっと不安になるぞ!


 ……ところで、山田の名前は何だっけ?? えーと、ヒロキ? ナオキ? ユウキ? 確か“キ”で終わる名前だった気がする。


 僕たちは、友達じゃなかったのかもしれない。


 * * *


 放課後。紅羽(くれは)さんがすっ飛んでくる。


(じゅん)、一緒に帰ろっ!」

「ごめん紅羽(くれは)さん、今日はバイトがあるから」

「私のこと『さん』付けしたから、バイト禁止でーす」


 ちょっとプンプンしてる。めちゃくちゃ可愛い。


「さすがに、まだ恥ずかしいし……」

「言わないと、いつまで経っても慣れないでしょ? ね? (じゅん)

「分かったよ、紅羽(くれは)


 いや恥ずかしいって。無理だって。心の声ですら『さん』付けしてるのに。


(じゅん)」「紅羽(くれは)」「(じゅん)」「紅羽(くれは)」「(じゅん)」「紅羽(くれは)」……


 僕たちは至近距離で見つめ合いながら、ひたすらお互いを下の名前で呼び合った。あーもう、本当に恥ずかしい。


「野中……」

「うん?」


 横を見ると、山田が真っ赤な顔をしている。その横には紅羽(くれは)さんの友達、強子さんも同じ顔をしていた。


「どうした?」

「なんか、見てる方が恥ずかしいから……そろそろやめないか?」

「え、あー……」


 いたたまれなくなった僕と紅羽(くれは)さんは、そそくさと教室を後にする。

 ほかの男子生徒たちは、その存在ごと消えてなくなっていた。

 

 * * *


 二人で校門を出るとほぼ同時に、待ち構えていた美園家専用の迎えの車のドアが静かに開いた。


「……あれ? 家の車だ……」

 紅羽(くれは)さんがぽつりと言う。


「うん、今日はバイトだから……」

「……?」


 あれ?ちょっと待て。僕、この“パパ活バイト”のこと、紅羽(くれは)さんに話したっけ?――否ッ!! 話してない!!!!!

 運転手が静かに車から降り、こちらへ歩み寄って一礼した。


「野中様、お迎えに上がりました」

「あ、えっと、その……」

紅羽(くれは)お嬢さまは、そのままお帰りくださいませ」


 礼儀正しい声で言う運転手さん。お嬢さまを残してバイトの僕だけ連れて行こうとするその対応に、心の中でツッコミが爆発する。おかしくないか、これ!?


 紅羽(くれは)さんは一瞬真顔になった――けれど、すぐにいつもの顔に戻って僕を見上げると、にこりと笑って言った。


「ううん、私も乗ってくから。……いいよね? (じゅん)


 そう言いながら、さっと僕を車内に押し込み、自分も滑り込む紅羽(くれは)さん。乗り込むとすぐ、慣れた口調で付け加えた。


「ねえ、ドア閉めてちょうだい」


 運転手がボタンを押すと、ドアが電動でスーッと閉まる。

 ……えっ!?これって自動で閉まるの?!?!?!


 感動と驚きでぽかんとする僕を見て、紅羽(くれは)さんがキッと睨む。

 本気で怒っている彼女の顔を、僕は初めて見た。


 

「先にお嬢さまをご自宅へお送りしてもよろしいでしょうか?」


 運転手が穏やかに問いかける。


「予定通りに野中君を送って。私も同席するから」

「ですが――」

「うるさい」


 紅羽(くれは)さんがポチっと押すと、後部座席と運転席の間の仕切りのガラスがパッと白く曇った。

 え、なになに何その機能!? 何度もこの車に乗ってるのに、知らないスイッチが多すぎる!!!

 

「で、どういうことなの?」

「えっ」


 紅羽(くれは)さんが僕の胸元をぎゅっと掴んで、離さない。

 ……正確に言えば握力はそれほどでもないので、簡単に振りほどけるのは内緒である。


「全部説明して」


 その迫力に押され、僕は紅羽(くれは)さんの父――美園アレッサンドロ氏との“吸血契約”のことを、1から10まで、余すところなく話す事になった。バイトの実態、契約の条件、専属家庭教師や報酬のことまで、全部だ。


「私の――(じゅん)なのに……ッ!!!!」


 その叫びには怒りと独占欲が混ざっていた。

 

 ――嫉妬の炎かって?違う。これは“食欲の恨み”だ。

 「食べ物の恨みは怖い」って、たぶんこういうことなんだろう。

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