表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女に首筋チュウされて喜んでたら、彼女の正体は吸血鬼で僕は食材ポジションでした。  作者: 五月雨恋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/22

13:イケメンと壁ドン

 もうすぐ夏休みに入ろうかという頃。

 帰りのHRを終えて帰り支度をしている僕の目の前には紅羽(くれは)さんがいた。


「……ねぇ、今日一緒に帰ろう?」

「だめ」

「今日はバイトないんでしょ?」

「だめ」

「ね~、お~ね~が~い~」


 机にチョコンと手をかけ、上目遣いでアピールしてくる紅羽(くれは)さん。

 あーもー、クソ可愛い!!!!


「だめ」

 

 僕は自らの感情を切って燃やして灰にして埋め立てながら答える。


「何もしないから!」

「するじゃん……」


 全校生徒憧れの美少女、美園(みその)紅羽(くれは)が、よりによって1人のモブ男子に夢中になっている。

 その噂は学校中を駆けめぐり、泣き崩れる男子が屍となり、やがて復讐のゾンビとなり、再び屍となり……。

 そんな阿鼻叫喚を何度か繰り返した今は、ようやく日常が戻ってきた。

 ――すれ違いざまに唇を噛み締めすぎて口から血を垂らしてる男子や、握り拳に力を込めすぎて血が滲んでる男子はまだ散見されるけど。


 「はぁ……」


 ため息をつくと、紅羽(くれは)さんはプクーっと口を膨らませて「怒ってます!」アピール。

 僕はとっさに目をそらした。


 え?どうして可愛くて愛しくて世界最強美少女の紅羽(くれは)さんを無視してるのかって??

 単純な話さ。最近またしてもうっかり吸われすぎてヤバイからだ。

 

 ――血を吸われると相手のことを好きになる。


 これは吸血の副作用なんだけど。

 今の僕は「紅羽(くれは)」と書いた紙を部屋中に貼り、全力で白目を剥きながら「しゅきしゅきぃぃぃぃ!!」と数時間叫び続けないと、家から一歩も出られない体になっている。

 

 え?なんでそんな事してるのかって?


 決まってるだろ。現実の紅羽(くれは)さんを押し倒さないようにするためだ。

 紅羽(くれは)さんの視点に立って想像してみろよ?


 ――冷蔵庫を開けたら、そこから大好物のステーキが勝手に飛び出してきて、押し倒されるんだぞ!?

 激しく求めてくるステーキとか嬉しいか!?!?


 ……僕は、紅羽(くれは)さんにそんな“食材に襲われる悲劇”を味わわせたくないんだ。


「じゃあ、今日も私が抑えておいてあげるね」


 紅羽(くれは)さんの女友達、柔道部の強子(きょうこ)ちゃんが、ガシッと羽交い絞めにする。


「ちょ……ッ! だめー! やめてー!! はーなーしーてー!!」


 圧倒的な体格差に加えて、運動神経ポンコツな紅羽(くれは)さんがそこから抜け出せるはずもない。


「すみません、いつも本当にお世話になっております」

「うむ」


 僕は深々と強子ちゃんに頭を下げて、そそくさと教室を後にする。

 ……今度の柔道部への差し入れは、何にしようかな。

 金銭的に少し余裕が出てきた僕は、そんなことを考えていた。


 

 校舎を出ると、容赦ない日差しが肌を刺すように照りつけてきた。

 吸血鬼なら一瞬で燃え尽きてしまうんじゃないか……と一瞬思ったけど、実際の吸血鬼は平気なんだっけ。

 血を吸う以外の特徴って、そういえばあるのかな? ……ほとんど人間と変わらないしなぁ。


 そんなことを考えながら歩いていたら――校門のあたりがやけに騒がしいことに気づいた。


 ……いや、騒がしいどころじゃない。


 黄色い嬌声がえげつないほどに響きわたり、まるで男性アイドルのライブ会場みたいになっている。

 芸能人でも来てるのか??


 女子生徒でギュウギュウに詰まった校門を、どうにか隙間を縫って抜け出そうとしたその時――。


「オイコラ、待てよ」


 声をかけてきたのは、いつかの超絶イケメン吸血鬼――神城(かみしろ)玲央(れお)だった。


 長い脚を無造作に投げ出すように歩くだけで、校門前の空気が一変する。

 金色の髪が陽光を反射し、緑がかった瞳がギラリと光った。

 透けるように白い肌は外国の血を思わせ、制服を雑に着崩しているのに、逆にモデルみたいにサマになる。


「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」


 あまりにもイケメンすぎて、黄色い歓声の中に僕のキャーも混じった。

 ……いや、混じったっていうか、完全にハモった。音程まで合ってた。

 僕、もう女子生徒扱いされちゃうんじゃない!?


「……? なんだ? どうした??」


 僕の目の前に立つ玲央が口を開いた。


「いや……どこの芸能人の方かと思いまして」

「芸能人なんてならねーよ。……てか、なんで敬語なんだよ」


 芸能人じゃない、じゃなくて――ならねえ、なのか。

 その自信がもう芸能人みたいなんだけど!?


「イケメン過ぎて……」

「あん?」


 そう言って、玲央はその顔を僕のすぐそばに寄せてくる。

 ――ちょっ、近いって……ッ!!


「もっと近くで見るか?」

「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」


 またしても僕の悲鳴と女子の歓声が、完全にシンクロした。

 僕、もう合唱部に入るべきかもしれない。


 玲央が僕の手首をガシッと掴んだ。


「ちょっ、え!? 痛い痛い痛い!!」

「うるせぇ。来い」


 そのままズンズンと歩き出す玲央。僕は引きずられるカバンみたいに必死に付いていくしかなかった。


「ちょっ、どこ連れてくんだよ!? 僕今日は本屋に寄って――」

「黙れ」


 有無を言わせぬ一言で封殺された。

 いやいやいや!! これ少女漫画でよく見るやつじゃん!!

 僕ってどんなポジション!? 地味女子枠って感じ!?!?


 

 人混みを抜け、住宅街に差し掛かった静かな場所で、玲央が急に立ち止まった。

 その勢いで僕はフェンスにガシャンッと押しつけられる。

 ちなみに変電所のフェンスでした!! なんでよりによってここなの!?


「えぇ!? なにこれ壁ドン!? 僕いま壁ドンされてる!?!?」


 パニックで声が裏返る僕の目を、緑がかった瞳が射抜いた。


「……連絡、待ってたんだけど?」


 低い声が耳元で響いた。

 心臓がドクンと跳ね上がる。やめろやめろやめろ!


「え、いや……その……」

「俺がわざわざ番号入れてやったのに、シカトか? バカかお前」


 近い。顔が近い。息がかかる。

 その俺様オーラに飲み込まれて、返事が喉に詰まる。


「それともお前――この俺を焦らそうとでも思ったのか?」


 ギラリと光る瞳に完全に射抜かれた。

 僕の頭の中では赤い警報とピンクのバラが同時に咲き乱れている。

 それを必死で黒く塗りつぶしながら、僕は答えた。


「……ぶっちゃけ……忘れてた……かも……?」


 玲央が、ほんの少しだけ寂しそうな顔をした。

 ……いや、流石にだめだよな? なんかゴメン。お前すごく良いヤツなのに……


「なら、忘れられねえようにしてやる」


 玲央は僕のワイシャツの襟を掴む。ボタンがプチプチプチッと3つほど外れた。

 そしてその牙が――僕の鎖骨のすぐ下へと沈んでいく。


「ひゃああああ~~~~~~~ああああああああんッ!!!」


 鎖骨は一番折れやすい骨だぞう! 鎖骨は一番折れやすい骨だぞう!

 中学校時代の先生の声が、何故かリフレインした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ