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美少女に首筋チュウされて喜んでたら、彼女の正体は吸血鬼で僕は食材ポジションでした。  作者: 五月雨恋


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10/22

10:ヒロインとお弁当、そして父

 紅羽(くれは)さんとカラオケに行ったのは、大体1週間ほどが前だ。

 僕の学校生活は――以前と変わらず平穏……にはならなかった。


 とにかく男子からの当たりがキツいのだ。

 普段の授業はまだマシだけど、体育は命がけである。


 先日のサッカーでは、なぜか僕へのスライディングだけで1試合にレッドカードが10枚。

 もっと早く没収試合にすれば良かったのに、審判は終始「危険なプレーに注意してくださーい」とか言ってるだけ。

 ――まあ、審判も同級生だしな。当然グルである。

 ちなみに先生はレッドカードだけ出していた。いや止めてよ。

 おかげでファールじゃないのにレッドカードが飛び交うカオスな試合になったじゃないか。


 まぁ、そんな肉食動物のような男子も……。


「野中くん、屋上で一緒にご飯食べよ?」

「いいよ」


 紅羽(くれは)さんが僕を誘った瞬間、彼らは一斉に牙と全身の骨を抜かれたようにおとなしくなる。

 あまりに静かすぎて「全員死んでない?」って心配になるほどだ。


 ちなみに僕の数少ない友人・山田はというと……。

 「お前……絶対なんか犯罪やっただろ」と、僕の素行調査を秘密裏に進めていた。

 ――いや、僕ら友達だよね???


 * * *

 

「「いただきまーす」」


 屋上のベンチに腰を下ろし、僕は膝の上に弁当を広げる。

 隣に座る紅羽(くれは)さんは、なぜか僕の弁当の蓋をパタンと閉じて、せっせと片付けを始めた。


「……紅羽(くれは)さん?」

「――はいッ!?」


 体をピョコンと跳ねさせ、何も言わずに上目遣いでおねだりしてくる。


「お弁当、食べてからね?」

「――わ、分かった」


 唇を尖らせて自分の弁当を取り出す紅羽(くれは)さん。 僕も「やれやれ」と肩をすくめて、弁当を開き直した。


 突然だが、僕も男だ。

 出来ることなら毎日、いや、一日に何回でも紅羽(くれは)さんに吸血されたいと思っている。

 でも、吸血ってどうしても“えっちな空気”になる。

 下心丸出しで「吸ってくれ」なんて言ったら、男としての尊厳が消し飛ぶ気がして、僕は全力で自制していた。


 ――のに!!


 予想以上に紅羽(くれは)さんが僕を求めてくるのだ。

 そりゃ彼女にとってはただの食事だろうさ!

 傍らにある絶品チョコレートを前に「もう1個だけ……」って手が伸びるのは人間の性じゃないか!?

 そのチョコが僕なんだよ!!!


 ……で、そんな頻繁に求められたら、僕だっておかしくなる。こちとら健康な男子高校生だ。分かるだろう? 止められなくなるだろう??

 ねぇ神様? 僕、あと何回まで正気でいられますか??


 それ以外にも、懸念はある。

 ――玲央が言っていた「吸血されるごとに相手を好きになる」って話だ。


 卵焼きをモグモグ食べながら、僕は隣の紅羽(くれは)さんを横目に見る。

 今は苦手なキノコと格闘中。……ああ、可愛い。


 僕は前から……入学当初から紅羽(くれは)さんのことは好きだった。

 いや、“憧れ”に近いとは思う。それでも、最初から好感度は天井MAXだと思っていた。

 これ以上好きになる余地なんて無い――そう思っていたはずなのに。


 ……違った。


 吸血されるたびに、さらに振り切れていく。

 バレないよう必死に平静を装っているけど、心のゲージはとっくに限界突破しているのだ。


 ……正直、増しすぎてヤバい。


 証拠に、カラオケで吸われた翌日には、自宅で「紅羽(くれは)」と書いた紙に数えきれないほどキスをしてしまった。

 我ながら異常行動。完全に重症だ。

 それもあって、流石にマズいと思って自制しているんだけど……。


 キノコを飲み込んだ紅羽(くれは)さんが、僕の耳元で囁いた。


「ちょっとだけ……だめ?」

「まだ食べ終わってないでしょ」

「本当にちょっとだけっ!」

「人目もあるからダメ」

「はむっ」

「ちょ、コラッ……!!」


 紅羽(くれは)さんは耳たぶに軽く噛みつき、ちょっとだけ血を吸った。最近、吸血鬼仲間に教わった“チョイ飲みスタイル”らしい。

 ――サラリーマンの晩酌かよ。


「……やっぱ好きぃ……」


 そう呟きながら、追加でトマトを口に放り込んで、僕の肩に寄りかかってくる。

 血とトマトってどんな味のハーモニーなんだ。


 こんな感じで、可愛い不意打ちを連発されると……僕は、もう止められない。


 ふと周りを見ると、女子は遠目にニヤニヤ、男子は(たましい)抜けた顔。

 ――まぁそうだよな。僕たちの“吸血”は、どう見ても。

 完全なるイチャラブにしか見えないんだ。


 弁当を食べ終えて歩き出すと、紅羽(くれは)さんが甘え声で言った。


「野中くん、体育館裏、散歩しない?」

「さっき吸ったから今日はもうダメ」

「そんなぁ~ッ!!」


 僕は鋼の自制心(じせいしん)で断りを入れる。

 ……分かってくれ。僕だって本当は、吸われたいんだ。

 まぁ放課後になら……いや駄目だ駄目だ!!今日は絶対駄目だ!!!


 * * *


 放課後、紅羽(くれは)さんは委員会があるとかで友達に連行されていった。

「野中くんと帰りたいよ~~ッ!!」とか言うから教室内が阿鼻叫喚(あびきょうかん)の嵐になった。

 ……その目で見るなお前たち。彼女の叫びは恋じゃない、食欲だ。


 唯一の友達の山田はそそくさと逃げ帰ってしまったので、僕は一人、帰路につく。

 ……この数日で友達減ったなぁ。いずれ消滅するのでは?不安しかない。


 下駄箱(げたばこ)を開け、何枚かの果たし状(はたしじょう)をゴミ箱に捨て、靴の中身を確認してから履き替える。

 今日は空模様も怪しいし、雨が降る前に帰らなきゃな――。


 そんなことを考えながら校門を出た瞬間。


 いかにも「高級外車!」って感じの長い黒塗りの車が、目の前で停まった。

 ウィーンと窓が開き、低い声が響く。


「君が――野中(のなか)(じゅん)くんだね?」


 ――え、誰?


「私は美園(みその)アレッサンドロ。美園(みその)紅羽(くれは)の……父だ」


 ゴッドファーザーみたいな雰囲気(ふんいき)のオジ様が、そこにいた。

 

 ……え、なにこれ??次回予告??

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