第9話「社長との直接対決」
最上階、社長室。
重厚な机越しに座るのは、この会社の支配者――大河内社長。
目は笑っていない。
「黒嶺くん。君のやっていることは目立ちすぎる。
現場が騒がしいのは、経営にとって毒だ」
「現場が黙ることが“統制”だとお考えなら、それは衰退の始まりです」
「君は勘違いしている。会社は私のものだ。私が正しいと思う形で動く。
それが気に入らないなら、辞めてもらって構わない」
威圧的な声。
だが黒嶺は、一歩も引かない。
—
「では、お聞きします。
この3か月間の利益増加、コスト削減、人材流出防止――これを生み出したのは誰ですか?」
「……数字だけで経営はできん」
「数字を軽視する経営は、もはや博打です」
黒嶺はタブレットを差し出す。
『5年間の成長予測シミュレーション』
•改革継続 → 営業利益+46%、離職率半減
•改革停止 → 営業利益−18%、離職率悪化、採用コスト倍増
「これらは現場データから算出した事実です。
あなたが改革を止める選択は、株主への背任行為と見なされます」
社長の目が鋭くなる。
「……脅しか?」
「事実の提示です」
—
大河内は鼻で笑った。
「君がいなくても、同じことは他の者ができる」
黒嶺は即答する。
「不可能です。
この全社データの収集網、分析ロジック、システム運用体制――
すべて私が設計し、現場に浸透させました。
完全に理解しているのは、この会社で私一人です」
—
社長が反論しようとした瞬間、ドアが開く。
入ってきたのは数名の株主と、大口取引先の役員たち。
「大河内社長、我々は今回の件について説明を求めに来ました」
「黒嶺氏の改革は、我々の取引にもプラスになっている。
彼を外すなら、契約条件を見直す必要がある」
社長の顔色が変わる。
黒嶺は静かに言う。
「これは内輪の争いでは終わりません。
外部は既に“結果”を評価しています。
あとは、あなたがその流れに乗るか、逆らうかです」
—
長い沈黙。
やがて社長は、重い声で言った。
「……いいだろう。改革推進本部長の権限を与える。
だが覚えておけ、黒嶺。私はお前を信じたわけじゃない。
失敗すれば即座に切る」
「望むところです。責任も利益も、すべて私が背負います」
—
こうして黒嶺は、社長直属の改革推進本部長に就任。
だが、大河内の目は笑っていなかった。
(……この男、まだ完全には倒れていない)
黒嶺は心の中で呟いた。
(次で、終わらせる)