第8話「反乱」
朝9時、役員会議室。
古参幹部たちが低い声で話し合っていた。
「黒嶺のやり方は目立ちすぎる。上層部への反発も多い」
「現場を抱き込みすぎだ。早いうちに手を打たねば」
「理由は“和を乱す行動”でいい。地方支社に飛ばせ」
結論は一つ。
黒嶺隼人の排除。
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昼休み。
人事部から呼び出しを受けた黒嶺は、面談室で封筒を受け取った。
「来月から地方支社に異動してもらう」
「……予想通りですね」
「な、何がだ?」
「僕を切る動きです。でも、あなた方は計算が甘い」
黒嶺は封筒を机に置き、静かに立ち上がった。
—
翌日。
社内チャットに一本のリンクが投稿される。
『業務改革に関する全社員アンケート結果』
•会議時間短縮の満足度:92%
•残業削減の実感:87%
•「黒嶺の改革を今後も続けるべき」と回答:91%
コメント欄には現場社員の声が並んでいた。
「黒嶺さんがいなかったら辞めていた」
「改革で家族と夕飯が食べられるようになった」
「異動されたら現場は回らなくなる」
だが幹部は鼻で笑った。
「感情論だ。現場の声なんて経営判断の根拠にはならん」
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その瞬間、黒嶺がもう一つのファイルを開く。
『改革導入3か月の経営数値』
•残業代コスト:前年比 ▲28%(月換算で約1,200万円削減)
•成約率:+21%(売上月間+3,800万円)
•納期遵守率:+35%(違約金ゼロ)
•改革継続で年間営業利益**+8%**見込み(株主配当も増加)
会議室の空気が一変する。
「……これを誰がやった?」
「私です。
データ収集から分析、システム化、現場教育まで、すべて私一人で行いました。
他に同じことができる人間が、この会社にいますか?」
幹部たちは沈黙した。
それは否定ではなく、“できない”という事実の証明だった。
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数日後、株主総会。
黒嶺は壇上で淡々と語る。
「私を異動させれば、この改革は止まります。
止まれば利益も人材も失われます。
つまり、それは会社の寿命を縮める選択です」
会場がざわめく。
やがて一人の大株主が口を開いた。
「この人物の異動案は撤回すべきだ。彼は企業価値そのものだ」
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結果、黒嶺の異動は白紙。
むしろ部長職への昇進が発表された。
廊下で、かつて異動命令を渡した人事担当者が呟く。
「……あなたは経営陣より経営を理解している」
「理解しているだけでは足りません。
実行できる者が、上に立つべきです」
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夜、チームに向かって黒嶺は言った。
「次は……この会社の“頂点”だ。黒幕を倒す」
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次回、「社長との直接対決」
全ての黒幕、会社をブラックに染め上げた元凶との最終戦が始まる。