第5話「怒鳴るだけの管理職を潰す方法」
「おいコラァァア! てめぇ昨日の報告書、なんだこの出来は!!」
朝9時のオフィスに怒声が響く。
発信源は管理職・鬼頭係長。
50代、社歴30年。仕事はできない。だが声はデカい。
「こんなもん提出したら俺が怒られんだよ! わかってんのかコラ!!」
「す、すみません……でも、それは昨日の指示が──」
「言い訳すんな!! お前は俺の言う通りにしてりゃいいんだよ!!」
「……っ」
殴りかかる寸前の威圧ポーズ。
社員はただ耐える。誰も口を出せない。
ただひとりを除いて──
「……いい加減にしてください」
鬼頭が振り返ると、そこには黒嶺隼人。
背筋を伸ばし、ノートPCを抱えたまま、静かに立っていた。
「部下に対する“暴言・威嚇・人格否定”は、立派なハラスメント行為です。
現に、複数の社員があなたに対して“精神的苦痛”を感じていると証言しています」
「おいおい……またお前かよ。“屁理屈”ばっかこねやがって。
会社ってのはなぁ、“人情”と“叱責”で育てんだよ!」
「それ、“時代錯誤”ってやつです」
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数日後。
黒嶺は水面下で動いていた。
● 社内アンケート(匿名)
● 勤務中の音声記録
● 鬼頭による「土下座強要」「私物破壊」「机を叩く」行為の証拠動画
さらには、鬼頭が部下に対してLINEで送った
「お前マジで使えねえな。脳みそ入ってんのか?」というメッセージも押さえていた。
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そして迎えた“社内ハラスメント調査会”。
鬼頭は余裕の表情で椅子に座っていた。
だが、スクリーンに映されたのは──彼の怒声を録音したクリアな音声。
「オメーの存在がムダなんだよ、給料泥棒!」
ついでに映されたのは、社員に“怒鳴りつけながらデスクを蹴る”鬼頭の映像。
撮影者不明。だが、決定的だった。
「……ちょっと待て、これは誤解だ!ふざけた編集で──!」
「ノーカットです。編集していたら、“もっとマイルド”にしてますよ」
鬼頭は顔面蒼白。
言い訳は全て、証拠で潰された。
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翌日。
社内メールに「鬼頭係長、配置転換のお知らせ」が流れた。
“今後、社内教育チームとして新たな役割を担うことになります”
(※ 実質左遷)
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休憩スペースにて。
「……黒嶺さん、あんな人に本当に勝てるなんて」
「“怒鳴る人間”は、一見強く見えるが──証拠の前では最も無力なんです」
「怖くなかったんですか?」
「ええ、少しは。でも、“黙って潰れる人間”を増やす方が、もっと怖いですよ」
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この件をきっかけに、若手社員たちの空気が変わり始めた。
「もう我慢する必要はない」
「おかしいことは“おかしい”って言っていいんだ」
「黒嶺さんが後ろにいてくれるから、戦える」
その日、彼は“ヒーロー”と囁かれた。
だが、本人はその言葉を否定する。
「ヒーローじゃない。
ただの“ブラック社員”ですから」
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次回、「鬼会議、撃破」
深夜まで続く非効率な会議、根回し、無言の同調圧力。
黒嶺の次なる標的は──“会議文化”だ。