表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】月華の螺旋 ~月に咲くは、禁断の恋~  作者: ましろゆきな
第六章:新たな始まり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

第十五話:新たな始まり

 月守沙樹が下した究極の選択は、光と闇が渦巻く世界に、静かで確かな変革をもたらした。


 彼女は、月の一族の「月華」でもなく、鬼の一族の「始まりの月華」でもない、ただ「始まりの月華」として、光と闇の狭間で、世界の均衡を見守る存在となったのだ。


 戦いの後、沙樹は月守の本家を離れた。

 それは、誰かとの決別ではなく、彼女がもはや、どちらか一方の世界に属することができない存在になったことを意味していた。


 彼女は、月明かりが降り注ぐ夜に、人里離れた深い森の中に小さな庵を構えた。

 そこは、光も闇も等しく受け入れる、彼女自身の「狭間」だった。


 沙樹の選択は、まず月の一族に大きな波紋を広げた。

 長老たちは、当初、彼女の行動を理解できず、裏切り者と呼ぶ者さえいた。


 しかし、鳴神千尋が、沙樹の「調和の光」の中で感じたものを、一族に懸命に伝え続けた。

 千尋は、その身に受けた傷から完全に回復した後も、以前のような鬼への絶対的な憎悪を露わにすることはなくなった。

 彼は、沙樹の示した「光と闇の共存」という新たな道を、ゆっくりと、しかし確実に受け入れ始めていた。

 一族の長男としての責任感と、沙樹への深い愛情が、彼を突き動かした。

 彼は、月の一族の考え方を少しずつ、しかし着実に変えようと努力した。

 彼の指揮の下、月の一族は、闇をただ排除するのではなく、その存在を理解しようと、新たな一歩を踏み出したのだった。


 一方、鳴神璋は、一族のしきたりから完全に自由となり、彼の言う「真実の探求」の旅に出た。

 彼は、沙樹が示した「調和の光」を信じ、その光が本当に世界に均衡をもたらすのか、自身の目で確かめることを選んだのだ。

 彼は、表向きは一族から離れた自由な「月閃」として、時には鬼の領域にも足を踏み入れ、時には月の一族の監視の目をかいくぐりながら、光と闇の間に立つ者として、双方の情報を沙樹に伝える役割を担うようになった。

 彼の型破りな行動は、月の一族と鬼の一族の間に、これまでになかった微かな風穴を開けることにも繋がった。

 璋は、時折、沙樹の庵を訪れ、世界の様子や、彼自身の旅で得た知見を語った。

 そのたびに、二人の間には、深くて温かい、共犯者のような絆が確かめられた。


 そして、朔夜を筆頭とする鬼の一族は、沙樹の「始まりの月華」としての選択を全面的に受け入れた。

 彼らは、もはや「永遠の闇」を強引に世界にもたらそうとはしなくなった。

 代わりに、彼らは沙樹が示す「調和の光」の中で、闇の存在意義を静かに主張するようになった。

 鬼たちは、沙樹が庵を構えた森の周辺に住処を移し、沙樹を守護するような形で、彼女の存在を支えた。

 朔夜は、夜な夜な沙樹の庵を訪れ、互いの世界について語り合った。

 彼の瞳には、もはや千年もの間抱えてきた悲しみや怒りはなく、沙樹への深い愛情と、新たな世界への静かな希望が宿っていた。


 沙樹と朔夜の関係は、もはや「禁断の恋」という単純な枠には収まらなかった。

 それは、光と闇の狭間で、世界の均衡を共に見守る、魂の繋がりだった。

 二人は、孤独な存在でありながら、互いの存在があるからこそ、その孤独に耐えることができた。


 沙樹の「始まりの月華」としての生活は、決して華やかなものではなかった。


 彼女は、日中は古文書を読み解き、月の周期や世界の気の流れを敏感に感じ取った。

 夜になると、彼女の庵からは、どこまでも温かい月華の光が放たれた。

 その光は、光に偏りすぎた世界の歪みを少しずつ正し、闇に生きる者たちにも、安らぎと存在意義を与えるものだった。


 数年後、月と鬼の間の緊張は、劇的に緩和されていた。


 直接的な衝突は激減し、互いの存在を認め合う兆しが生まれ始めていた。

 もちろん、完全に争いが消え去ったわけではない。

 長年の憎しみは深く、完全に癒えるには、まだ長い時間が必要だろう。


 しかし、誰もが知っていた。

 その変化は、一人の「月華」が、光でも闇でもない、第三の道を選んだことによってもたらされたのだと。


 沙樹は、庵の縁側で、静かに夜空を見上げていた。

 空には満月が輝き、その光は、闇を切り裂くのではなく、優しく包み込んでいるようだった。


 遠くで、千尋が率いる月の一族の巡回隊の気配がする。

 彼らは、もはや鬼を排除するためだけに巡回しているわけではない。

 世界の均衡を見守り、必要とあらば手を差し伸べるために動いている。


 そして、闇の中には、璋が自由に駆け巡る気配がある。

 彼は、沙樹の選択した道を、最も近い場所から、自分自身の目で確かめ続けている。


 さらに深い闇の中には、朔夜の静かで確かな存在感があった。

 彼は、沙樹と共に、光と闇の狭間で、永遠にこの世界の均衡を見守り続けるだろう。


 沙樹は、自分の選択に後悔はなかった。


 それは、誰かを選び、誰かを捨てる選択ではなかった。

 全てを包み込み、新たな世界を紡ぎ出すための、唯一の道だった。


 月守沙樹の物語は、ここで終わりではない。


 彼女の「月華の螺旋」は、これからも続いていく。

 光と闇、そしてその狭間で、彼女は永遠に、この世界の「始まり」を、見守り続けるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ