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【完結】月華の螺旋 ~月に咲くは、禁断の恋~  作者: ましろゆきな
第四章:均衡の選択と歩む道

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第十三話:調和の光

 沙樹と璋は、朔夜の元へと向かった。


 朔夜は、二人が近づいてくるのを静かに待っていた。

 彼らの周囲には、まだ鬼と月の一族の者たちが警戒するように距離を取っていたが、沙樹が放つ「始まりの月華」の光が、彼らの間に、微かな、しかし確かな「停戦」の空気を作り出していた。


「朔夜……あなたの望む『永遠の闇』とは、本当にこの世界に必要なものなの?」


 沙樹は、朔夜に真っ直ぐに問いかけた。

 朔夜は、瞳を閉じ、深く息を吐いた。


「我らの言う『永遠の闇』とは、お前たちが畏れるような、ただ全てを喰らい尽くす闇ではない。

 光が支配しすぎたこの世界に、闇がその存在を主張すること。それが、真の均衡を取り戻す道だ」


 朔夜の声は、感情を抑えたものだったが、その言葉には、鬼の一族の悲願が込められていた。


「でも、それでは、また争いが起こるだけよ!」


 沙樹は食い下がった。

 千尋の姿が脳裏に浮かぶ。光と闇が互いを主張し続ければ、争いは永遠に終わらない。


「争いを終わらせるには、光と闇が、互いの存在を認め、共存するしかない」


 沙樹の言葉に、朔夜の瞳が、僅かに揺れた。


 その時、璋が口を開いた。


「朔夜。あんたたちの言うことは、一理ある。一族が隠してきた真実も、俺は知りたい。

 だが、このままじゃ、誰も幸せにならねぇ」


 璋は、そう言うと、彼の掌から、淡い月の光が放たれた。

 それは、千尋のように眩しい光ではない。

 闇に溶け込むような、それでいて確かに存在する、璋自身の「月閃」の光だった。


「俺は、俺のやり方で、真実を見つける。そして、本当に正しい道を選ぶ。あんたは、どうだ?」


 璋の言葉は、朔夜に直接問いかけるものだった。

 璋は、一族のしきたりに反発しながらも、真実を求める過程で、彼なりの「月閃」としての役割を見出していたのだ。


 朔夜は、沙樹と璋の顔を交互に見た。

 彼の瞳に、沙樹が初めて出会った時に感じた、あの深い孤独と、そして何かを求めているような切なさが再び浮かび上がった。


「……我らは、あまりにも長く、闇に囚われすぎたのかもしれない」


 朔夜の声が、微かに震えた。


「我らの願いは、この世界の均衡。だが、それを憎しみで奪い返すことが、真の均衡であるのか……」


 朔夜は、ゆっくりと沙樹に手を伸ばした。


「月華よ。お前の光は、我らの心を動かす。憎しみを溶かし、新たな道を照らすことができる。

 その力を……示せ」


 朔夜の言葉は、沙樹に「始まりの月華」としての最終的な選択を促していた。


 沙樹は、目を閉じた。

 千尋の、自分を信じる優しい眼差しが浮かぶ。璋の、共に真実を探ろうとする、共犯者めいた笑顔が浮かぶ。そして、朔夜の、深く孤独な瞳が浮かぶ。


 月の一族と鬼の一族、それぞれの歴史と悲願。光と闇の螺旋。

 沙樹は、深呼吸をした。そして、ゆっくりと目を開いた。

 その瞳は、もはや迷いを持たず、純粋な決意の光を宿していた。


 沙樹は、その場で静かに立ち尽くし、掌に全ての月華の力を集中させた。

 彼女の身体から放たれる光は、これまで見たこともないほどに強く、しかしどこまでも柔らかく、そして温かかった。

 その光は、月の一族の者たちを包み込み、彼らの心に安堵と和解の念をもたらした。

 同時に、鬼たちをも包み込み、彼らの内に宿る憎しみと苦しみを、ゆっくりと溶かしていく。


 その光は、月の一族が信じてきた「光」でもなく、鬼が求めてきた「闇」でもなかった。

 それは、光と闇、その両方を内包し、互いを否定することなく、寄り添い合うことを促す、「調和の光」だった。


 沙樹は、その光の中で、鬼の一族と月の一族、双方に語りかけた。


「憎しみは、何も生み出しません。過去の過ちを繰り返すのではなく、共に未来を築きましょう。光と闇が互いを認め、共存できる世界を、この手で作りましょう!」


 沙樹の言葉に、千尋が、静かに頷いた。

 彼の表情からは、憎悪の念が消え、代わりに、沙樹への深い信頼と、新たな世界への希望が浮かんでいた。

 璋もまた、沙樹の隣で、満足げな笑みを浮かべていた。彼が探していた「真実」は、まさにこの「調和の光」の中にあったのだ。


 朔夜は、沙樹の放つ「調和の光」の中に立ち尽くしていた。

 彼の瞳から、一筋の光が零れ落ちる。

 それは、彼が何千年もの間、抱え続けてきた悲しみが、今、癒されようとしている証だった。


「……お前の光は……真の均衡をもたらす」


 朔夜はそう呟くと、沙樹に深く頭を下げた。

 鬼の一族もまた、その場に膝をつき、沙樹の「始まりの月華」の力を認めた。


 長きにわたる月と鬼の争いは、月守沙樹の究極の選択と、「始まりの月華」の真の力によって、終わりを告げた。


 彼女は、光と闇の螺旋を断ち切り、新たな世界の扉を開いたのだ。

 しかし、この戦いの終結は、沙樹にとって、新たな始まりであると同時に、ある「別れ」を意味することも、彼女は知っていた。

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