洗脳開始?
百年構想リーグは四節まで終了した。
その間、ホームの試合は三回。
しかし、私の隣の席は空いたままである。
ここまで頑なに姿を見せないとは、もはや見事と言っていい。
周囲の人々も、逆に気になり始めたようで、
ついには「チケットホルダーが来るまでは死ねない」とまで言い出す始末である。
今後はアウェイ戦や国立開催が続くため、
次にホームスタジアムで試合が行われるのは一か月後。
謎は、しばらく保留となった。
一方で、私の席まわりにはもう一つ、別の関心事がある。
それは、一つ挟んで隣の席に新しく来るようになった方の存在である。
ご高齢の、物静かな男性だ。
最初の出会いは、席を間違えて座っていたところを、夫が声をかけて助けたことがきっかけだった。
そのため、第一印象は悪くなかったと思われる。
以降、毎回きちんと挨拶を交わすようになり、顔見知りと呼べる関係にはなった。
ただし、かなりシャイな方でもある。
初日にハイタッチを仕掛けたところ、明らかに戸惑わせてしまった。
その話を前の席の人にすると、
「だったらみんなで楽しくハイタッチして洗脳しましょう。
一緒に楽しめるようにしないとね」
という、なかなか力強い返答が返ってきた。
……洗脳、なのであろうか。
とはいえ、周りの受け入れ態勢は万全である。
そして前節。
奇跡のような衝撃ゴールが決まった。
周囲六人で一斉にハイタッチをした。そしてそのハイタッチしたままの手の状態でその方と目が合った。
すると、その方も興奮した表情で手をおずおずと挙げくれた。
そして、ハイタッチ。
私の隣の席は、相変わらず空いている。
しかし、その一つ向こうには、確かに人の気配がある。
幽霊サポーターは、今日も姿を見せない。
だがこの席での観戦は、少しずつ温度を帯び始め楽しくなっていきそうだ。




