表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/19

第8章「四次元の底」

第8章「四次元の底」



「四次元ポケットの中って、ほんとになんでもあるのね」


――しずか(映画『のび太の新魔界大冒険』より)



【1|開封】


出木杉は、しずかから託された四次元ポケットの封印を解いた。

黒い布地は、時の流れから隔絶された空気をまとう。

開口部から溢れるのは、無限の記憶と不在の感情。


内部にアクセスするため、彼は専用の同期端末を用いた。


・自己認証:正統継承者・源静香経由

・目的:封印記録の参照

・警告:アクセス先は“過去”そのもの


出木杉は、手を差し入れる。

触れた感触は“空”――にもかかわらず、重かった。



【2|時間の残響】


ポケットの中は、**完全に保存された“小宇宙”**だった。

かつて使われたすべての道具、道具に触れた指、声、意志。

すべてが、“止まったままの記憶”として、そこにあった。


出木杉が手に取ったのは、ひとつの小型カートリッジ型記録装置。

その外殻には、しずかの手書きでこう書かれていた。


「出来杉さんへ」


装置を起動する。


映像が浮かぶ。

そこには、まだ健康だったしずかが、静かに座っていた。


『出木杉さん。……あなたがこれを見ているなら、

私はもう、この世界にいないはずです』


『ポケットの底にあるもの。

それは、“道具”なんかじゃない。

それは、“願い”そのものなんです』



【3|願いの形】


映像は続く。


『のび太さんは、ドラえもんにもう一度会いたくて、

その想いだけで、未来を壊そうとしています』


『でもね、それが“誰かを犠牲にしてまで叶えたい夢”だったら、

それはもう夢じゃないと思うの』


彼女は、ポケットの中に何かを収める姿を見せる。


それは、小さな銀色の装置。

“イマジナリー・マップ”

――記憶をもとに、仮想未来を構築する道具。

使用者の“最も望んだ未来”を仮想的に現実に置換しようとする。


ただし代償は大きい。

使用者の記憶、人格、感情、すべてが“仮想と融合”し消える。



【4|選ばれた者の孤独】


出木杉は、その装置を見つめながら呟いた。


「のび太……君は、

この道具を使って“誰かになろう”としたのか」


仮面の奥で笑っていた男は、かつて自分よりもずっと劣っていて、

でも、誰よりも“誰かに選ばれていた”。


そして今、自分自身を消してでも、

“かつての未来”を取り戻そうとしている。


「君は、“自分の弱さ”を肯定してくれる誰かを、

もう一度見たかったんだな」



【5|再会の予兆】


その時、ポケットの内部で振動が起きた。


仮面の男の声が、四次元空間に直接届いた。


「出木杉。……君に、預けたいものがある」


振動の中から、転送されてきたのは、

かつての冒険の録音データだった。


のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫――

そして、ドラえもんの声。


「出木杉くんは……すごいやつだよ」

「ぼくじゃ、かなわないくらいさ」


その声に、出木杉は目を伏せた。


「今さら、そんな言葉……」


だが、心のどこかで、彼はようやく“呼ばれた”気がしていた。



《To Be Continued:第9章「出木杉、反撃に出る」へ》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ