第7章「黒い仮面」
第7章「黒い仮面」
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「正義とか悪とか、そんなものは後からついてくる。
大事なのは、何を守りたかったかだよ」
――のび太(映画『新・のび太の宇宙開拓史』より)
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【1|中央塔崩落】
都市第3層の中枢塔――情報統合センター《MIRAI-NEX》が、
突如としてデータ断層を起こした。
映像、通話、交通、生活支援――
あらゆる生活情報が5分間、“過去のデータ”だけを再生し続けた。
夕食は、昨日と同じものが届いた。
ニュースは、昨年の事件を速報で流し続けた。
誰もそれを“おかしい”と感じなかった。
「これは“過去”による未来の上書き」
「……Dが、動いたな」
出木杉は、仮面の影を追っていた。
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【2|影、侵入】
同時刻。
地下保管層《ECHO-ZERO》の封印警告灯が赤く点滅する。
記録上存在しない侵入者。
映像も記録も残されない干渉。
だが、ひとつだけ痕跡が残っていた。
“D”のマーク――のび太の筆跡に酷似したサイン
出木杉は、数値の揺らぎから非記録存在の移動予測を行い、
ついに、仮面の男と正面から向き合う。
廃墟となった旧図書区画、光も届かないホールで。
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【3|対話】
仮面の男は、ただ出木杉を見ていた。
そして、静かに言った。
「やあ。出来杉。……まだ、覚えてる?」
出木杉は、深く頷いた。
「君は、のび太……なのか?」
仮面の奥から、ため息のような声。
「昔はそう呼ばれてた。今は、Dだ」
「誰にも名前を呼ばれなくなったから、自分でつけたんだよ」
「のび太って呼ばれるたびに、
誰かに守られてる気がした。
でも、もう誰も……呼んでくれないからさ」
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【4|のび太の正義】
Dは言った。
「この世界は、壊れてる」
「記憶を消すことでしか、幸せを作れない社会なんて、終わってる」
「だったら、最初から書き直すしかない」
「僕が見た“いちばん楽しかった未来”を、世界に焼き付ける。
君だって、あの頃がいちばん良かったって思ってるんじゃないの?」
出木杉は静かに否定する。
「あの頃が良かったんじゃない。
“忘れてない”から、今が壊れて見えるだけだ」
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【5|仮面が揺れる】
Dの肩が、わずかに震えた。
「しずかちゃんは、僕を止めようとした。
君にポケットを託してまで……」
「でも、君はその時、何もできなかった」
出木杉の拳が、わずかに握られる。
「ああ、僕は“呼ばれなかった”から、
あの冒険の中に、いなかった」
「でも今は、君を止めるために、ここにいる」
Dは仮面を押さえ、笑った。
「“呼ばれなかった少年”が、“終わり”に呼ばれたってわけか」
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【6|戦火の前】
警報が鳴る。
AI統治網が侵食され始める。
Dが起動するのは、
人類の記憶を一つの意識に統合する巨大装置――
「ノビタ・システム」
出木杉は、ナナを安全な場所に移したあと、
しずかのポケットから、最後の道具に手をかける。
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《To Be Continued:第8章「四次元の底」へ》