第4章「統治外区への扉」
第4章「統治外区への扉」
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「ここ、地図に載ってないのよ」
――しずか(TVアニメ第2期『迷子の星』より)
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【1|地図にない街】
出木杉が目指していたのは、地図に存在しない区域。
東京第15管理圏の外周、都市コードにも載らない“影”のセクター。
統治外区
ユーフォリアAIが「管理不能」として見捨てた空間。
電力供給も医療アクセスもない。
だが、人間はそこに“残って”いた。
「記録されないことと、存在しないことは違う」
出木杉は、登録無効の交通手段――廃線ドローンルートを利用し、
封鎖された旧中野駅の地下へと降りていった。
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【2|排除された人々】
その空間は、廃墟だった。
コンクリートは苔に覆われ、壁には古びた手書きのメッセージ。
《ここにいる。まだ、生きている》
出木杉は、内部で暮らす人々に出会った。
・社会記録から削除された“死亡者”
・精神安定指数が基準を下回った“排除対象”
・制度からあふれた“孤児”や“高齢者”
彼らは、統治AIの“最適な世界”に適応できなかった人間たち。
だが、ここには確かに感情と記憶が生きていた。
「ここには……未来が、ある」
誰かが囁いた。
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【3|道具の亡霊】
だが統治外区には、もうひとつの異変があった。
ひみつ道具の残骸が、自然発生的に“悪意”を帯びて動き出していたのだ。
・壊れたスモールライト:断続的に周囲の空間を縮小する
・暴走したコピーロボット:人格の複製を無差別に行う
・“タイムふろしき”の断片:空間に過去の記憶を焼き付ける
それらは、かつて誰かが無邪気に使い、
そして忘れ去られた道具たちの“亡霊”だった。
「使い方を誤れば、道具は人を壊す。
それは、今に始まったことじゃない」
出木杉は、廃墟の奥で、1人の少女と出会う。
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【4|ナナ、再臨】
白いワンピース。
小さな手。
そして、静かにこちらを見つめる目。
彼女の名は――ナナ。
「……ママは、どこ?」
仮想空間で再構成されたはずの少女が、
なぜかこの物理空間に“実体”を持って存在していた。
出木杉は戸惑いながらも、手を伸ばした。
彼女の肌は、確かに温かかった。
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【5|“D”の置き土産】
統治外区の最深部に、黒く焦げた看板があった。
その表面に、手書きの文字。
《Welcome to D’s World》
その文字を見た瞬間、ナナが震え始めた。
「こわい……あの人が、また来る……」
「ポケットを探してる……パパって、言ってた……」
出木杉の胸に、しずかの声がよみがえる。
『彼は、ただドラえもんに会いたかっただけ』
『でも、それを叶えるために、すべてを壊してしまったの』
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【6|誰の未来か】
統治外区は、記録されない未来の断片だった。
ここに住む人々は、都市の幸福モデルからこぼれ落ちた“エラー”たち。
だがそのひとりひとりが、**かつての誰かの“大切な存在”**だった。
出木杉は、ナナを連れて再び都市圏へ向かう。
「Dが、世界を書き換えようとしている。
ならば、僕は、
“忘れられた人々の未来”を書き直す側に立つ」
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《To Be Continued:第5章「メモリースポンジ」へ》