第2章「呼ばれなかった少年」
第2章「呼ばれなかった少年」
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「のび太さん、あなたって……どうしてそんなにドジなの?」
――しずか(原作コミックス第4巻)
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【1|記憶の隙間】
出木杉は、再構成デバイスから出力されたログを確認していた。
ナナという名の少女。
再投影中、彼女が発したすべての音声は保存された。
しかし、統治AIのフィルターはそれを「非存在反応」と分類した。
「音も、姿も、動きも。
そこに確かに“いた”のに、AIは“いない”と判定する。
ならば、この世界の基準が誤っている」
部屋の隅にある古い机には、ひとつのノートが置かれていた。
出木杉自身の手によって綴られた、“記録にならなかった人々”の名簿。
ページの片隅に、こう書かれている。
「すべては、呼ばれなかった少年の記録から始まった」
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【2|学級という監獄】
時をさかのぼる。
21世紀初頭、AIがまだ都市全体を支配していなかった時代。
出木杉は小学生だった。
常に成績はトップ。
担任の先生に褒められ、誰よりも模範的な存在だった。
だが、それでも、彼は一度も“呼ばれなかった”。
・謎の病欠の多いのび太。
・突如数日消えるクラスメイトたち。
・帰ってきた彼らが共有する“知らない冒険”の記憶。
出木杉はいつも、教室にいた。
正解を答え、問題を解き、静かにノートを取っていた。
「どうして僕だけ、呼ばれなかったんだろう」
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【3|のび太という異物】
都市記録に残された“のび太”という少年の履歴は、途中で途絶えていた。
13歳を境に、彼の存在は“転居”として処理され、記録が断絶している。
だが出木杉は、彼の姿を覚えていた。
鈍くさくて、よく泣いて、遅刻魔で、テストはいつも最下位。
だけど、なぜか周りに人がいた。
「しずかちゃんも、ジャイアンも、スネ夫も。
みんな、のび太を真ん中にして回っていた」
出木杉はその構造を、長年理解できなかった。
彼には“必要とされる弱さ”がなかったからだ。
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【4|ドアが閉じた日】
ある日、放課後。
出木杉は偶然、のび太たちが秘密の空き地で集合しているのを見た。
彼らは、何か大きな青いロボットと話していた。
すぐに、青い光が溢れ、彼らの姿はかき消えた。
数日後、彼らは“何事もなかった顔”で学校に戻ってきた。
「異常事象と認識すべきだった」
「だが、あの頃の僕には、それが“選ばれた人間の世界”に見えた」
出木杉は、その日からずっと自分だけが“選ばれなかった”という思いを引きずって生きてきた。
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【5|戻ってこなかった冒険】
しずかが亡くなった時、
彼女は唯一、出木杉に“ポケット”を託した。
「出来杉さん。あなたなら……きっと、彼を止められるから」
その“彼”の名は言われなかった。
だが、出木杉はわかっていた。
――のび太。
選ばれ、失い、そして壊れた少年。
出木杉の胸の奥に、痛みとともに灯った一つの疑念。
「……なぜ僕は、あの冒険に呼ばれなかったのか」
答えは、まだ遠くにあった。
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《To Be Continued:第3章「ポケットの封印」へ》