2話 面倒事に巻き込まないで!
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「いやー、また目立っちまったなぁ。あんなクマ公を駆除しただけで、あんなに騒がしくなるなんてな」
俺は特に行き先も考えず、ただ気ままに放浪していた。
これがいいんだよなぁ。何も考えず、自由気ままにブラブラと旅をするのが。
「まぁ、さすがに日も暗くなりすぎたし、今日はここで野宿するか」
旅は好きだが、野宿はあまり好きじゃない。
寝るならやっぱり布団がいい。地面は硬いし、虫は出るし、ろくなことがない。
とはいえ、贅沢は言っていられない。
焚き火を焚き、手近な木の根元に腰を下ろした。
夜の森は静かだった。
ぱちぱちと薪のはぜる音と、虫たちのかすかな声だけが耳に届く。
腹も満たしたし、そろそろ寝るかとゴロリと地面に寝転がった、その時だった。
――ドォン!!
遠くで爆発音のようなものが響いた。
「……ん?」
耳を澄ませば、かすかに悲鳴混じりの声も聞こえる。
嫌な予感しかしない。
「……まさか、な」
ため息をつきながら、腰の剣を手に取り、音のした方向へと走り出した。
そして、すぐにその光景を目にすることになる。
村が――燃えていた。
エイ村。
日中、通りすがりに少し立ち寄っただけの、小さな村。
そこからいくつもの火の手が上がり、村人たちが悲鳴を上げて逃げ惑っている。
そして、その村を蹂躙するかのように、夜空を覆う巨大な影――黒竜が舞い降りていた。
(はぁ……なんで俺が通ると、こういう厄介ごとに巻き込まれんだよ……)
思わず頭を抱えたくなったが、今はそんな暇もない。
目の前で泣きながら立ちすくんでいる子供をひょいと抱え上げると、背負ったまま叫んだ。
「おい! みんな、森の中に逃げろ!! とにかく建物から離れろ!」
必死に声を張り上げながら、村人たちを森へと誘導する。
だが、竜は悠々と村を引き裂いていた。
巨大な爪で家をなぎ倒し、口から火を吐き、すべてを焼き尽くす。
このままでは、村ごと灰になる。
(……戦うしかねぇか)
正直、竜相手にまともにやり合うなんて、ごめんだ。
だが、今はそんなこと言っている場合じゃない。
腰の剣をぎゅっと握りしめた、そのとき。
「クロさん!!」
駆け寄ってきたのは、村長だった。
服はすすで真っ黒、息も絶え絶えだが、無事らしい。
「何があったんだよ!」
「わからん! 突然、山の向こうから飛んできたんだ! ここいらに、あんな魔獣はおらんはずなのに……!」
状況を確認する間も惜しい。
「とりあえず村人たちは森に逃がした! あとは、こいつをなんとかするだけだ!」
「む、無茶だクロさん! 竜が相手だなんて……!」
「まぁ、大丈夫だろう。自信はないけどな」
俺はにやりと笑って、竜のほうへと走り出した。
―――――
近づくほどに、竜のデカさが際立った。
全長十メートル、いや、それ以上かもしれない。
(いや、でかすぎだろマジで……!)
目が合った。
竜はギラリと目を光らせ、次の瞬間、口を大きく開けた。
「おわっ!!」
真っ赤な炎が吐き出される。
すんでのところで地面に転がり、なんとか避けた。
吹き抜ける熱風だけでも肌が焼けるかと思った。
だが、火を吐いた後は一瞬、隙ができる。
(今しかねぇ!)
地を蹴って、一気に間合いを詰める。
そして、剣を振り上げ――
「せいやあああああっ!!」
竜の脚へと、全力で叩きつけた。
硬い。
金属のような鱗に、刃が弾かれる。
だが、渾身の力で叩き込んだ一撃は、かろうじて一枚、鱗を剥がした。
(いける……!)
手応えを感じたその瞬間、竜の尾が唸りを上げて襲いかかってきた。
避ける暇もなく、俺の体は吹き飛ばされる。
「がはっ……!」
地面を何度も転がり、土煙を上げる。
全身が痛む。
骨がいくつかいっててもおかしくない衝撃だった。
それでも、俺は立ち上がる。
「っくそ、化け物め……!」
歯を食いしばり、再び剣を構えた、その時だった。
森の奥から、火を灯した松明を持った村人たちが現れた。
『クロさんを援護しろ!』
『俺たちの村を、あいつに好きにさせるな!』
恐怖に震えながらも、必死に声を張り上げている。
(……ったく、無茶しやがって。お前らが出てきたら、余計危ねぇだろうが)
それでも。
――悪くない。
村を、仲間を守ろうとするその気持ちは、嫌いじゃない。
「よし……」
腰に差してある、もう一本の剣に手を伸ばす。
普段は使わない、〝本気用〟の剣。
「奇遇だよな。お前も黒、俺も黒、この剣も黒だ」
抜き放つと、空気がピリッと張り詰めた。
「本気出してやんよ、トカゲ野郎めぇぇぇ!!」