プロローグ
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ここは極東の国、《ユビヤ》。
俺は、ユビヤの領主タカオ・カイドウの次男、《クロク・カイドウ》だ。
まあ、次男ってことで跡継ぎでもないし、できることなら自由気ままに生きていきたかったんだが……。
「クロク、お前も十五になったな。戦場に行くぞ」
……無理だった。
ユビヤを含む東の国々は、跡目争いのゴタゴタで絶えず火花を散らしている。
もちろん「嫌です」なんて通用する世界じゃない。
「いやでござる」
「よし、行くぞ!」
強制連行である。
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俺にとって初めての戦。
隅っこでコソコソしていた俺だったが、たまたま逃げていた偉そうな鎧のオッサンを見つけ、反射的に追いかけた。
そしたらオッサンが自爆するみたいに岩に頭をぶつけて気絶。
なんとなく「捕まえたら褒められるかな」くらいの軽いノリで引きずって帰ったら――
「クロク様が敵の大将を捕えたぞ!!」
「すげえ! まだ若いのに!」
「これでこの戦、勝ったも同然だ!!」
兵士たちがワアアッと湧き上がり、俺を囲んで歓声を上げた。
肩を叩かれるわ、持ち上げられるわ、やたらと感謝されるわ。
……いやいや、待て待て待て。
俺、別に大したことしてないから!
むしろ逃げてただけだから!
そんな俺の心の叫びも届くことなく、どんどん話は盛られていき、気付けば「クロク様!クロク様!」と周りは騒ぎまくっている。
……これは、あれだな。
穏やかに生きる道が、完全に閉ざされつつあるな。
よし、家出しよう。