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第14話:頂上の決戦、乱れる呪文

聖獣セドゥの背に乗って夜空を駆けること、どれくらいだっただろうか。眼下に広がる砂漠はあっという間に過ぎ去り、アシュバルの街の灯りがみるみるうちに近づいてくる。目指すは、街の中心に聳え立つエ・クル・アン神殿の巨大なジッグラトだ。


「見ろ! 神殿の様子が!」


キリが叫び、指を差した。その方向を見ると、私たちは息を呑んだ。

エ・クル・アン神殿の頂上付近から、禍々しい紫色の光が漏れ出し、夜空を不気味に染めているのだ。そして、大地が微かに、しかし確実に振動しているのを感じる。ゴゴゴゴ…という低い唸りが、風に乗ってここまで聞こえてくるようだ。


「…間に合わなかったか!」


イムトゥム神官長が苦々しい声を上げる。ウルマは既に神殿の最深部、聖域に侵入し、最後の印章を手に入れ、ギルスを起動させるための儀式を始めてしまっているのだ!


「セドゥ! ジッグラトの頂上へ急げ!」

「はっ!」


セドゥは翼を力強く羽ばたかせ、速度を上げてジッグラトの頂上へと急降下する。近づくにつれて、紫色の光はより強く、地響きも激しくなっていく。頂上付近の広場には、既に数人の衛兵たちが倒れているのが見えた。ウルマの手下たちと交戦し、突破された後なのだろう。衛兵隊長のルガルさんは無事だろうか。姿は見当たらないけれど。無事だといいけれど…。


セドゥはジッグラトの頂上にある、儀式用の広場に着地した。そこは、異様な光景が広がっていた。

広場の中央には、祭壇が置かれ、その上で三つの「起動の印章」が禍々しい紫色の光を放ち、共鳴し合っている。その光は天へと伸び、暗雲を呼び寄せているかのようだ。そして、祭壇の前には、黒いローブ姿のウルマが立ち、両手を掲げて呪文のようなものを唱えている。その周囲には、数人のゲシュティ派の手下たちが、警戒するように立っていた。


「ウルマーッ!」

キリが叫び、セドゥの背中から飛び降りると同時に、ウルマに向かって駆け出した!

「待って、キリ! 無茶だよ!」

私も慌てて後を追う。


「フン、来たか。だが、もう遅い!」

ウルマは儀式を続けながら、私たちを一瞥し、嘲るように言った。「あと少しで、偉大なるギルス様が永き眠りから目覚められるのだ! このアシュバルを、混沌の楽園へと変える時が来たのだ!」


「させるかーっ!」

キリは懐から小石を取り出し、ウルマに向かって投げつけるが、ウルマの周囲に見えない壁のようなものがあり、小石は弾き返されてしまう。


「小僧ども、邪魔をするな!」

ウルマの手下たちが、私たちに向かって襲いかかってきた!


「リシュナ、キリ! 下がりなさい!」

イムトゥム神官長が私たちの前に立ち、杖を構えた。「ここは私が!」

神官長は杖から聖なる光を放ち、手下たちを薙ぎ払う! さすがは神殿の神官長、その力は本物のようだ。


「イムトゥム様! 儀式を止める方法は!?」

私は叫んだ。

「ギルスの起動を完全に止めるには、三つの印章を破壊するか、あるいは、起動の呪文を打ち消す、封印の呪文を唱えるしかない! だが、封印の呪文は古代語で非常に長く複雑だ!」


(封印の呪文…!? まさか!)


私の脳裏に、夜の書庫で読んだ、あの埃っぽい粘土板の記述が蘇った。ギルスの起動に関する記述の最後に、小さな文字で書き加えられていた一節があったのだ。それは、おそらく起動を阻止するための「カウンター呪文」のようなものだった。


(あれだ! あれを唱えれば、止められるかもしれない!)


私は必死で記憶を呼び覚まそうとした。あの複雑で、長くて、発音すら難しい古代語の呪文を!


「キリ!」私は叫んだ。「神官長を手伝って! ウルマの注意を引いて時間を稼いで! 私が呪文を唱える!」

「呪文!? お前、そんなことできたのか!?」

キリは驚いた顔をしたが、すぐにニッと笑った。

「よっしゃ、任せとけ! あのマヌケ妖術師、俺がちょっかい出して、集中できなくしてやるぜ!」


キリは再び、持ち前の身軽さでウルマの周りを駆け回り始めた。小石を投げたり、大声で挑発したり、時にはウルマのマントに飛びついてみたり。

「こらーっ! 邪魔をするな、鬱陶しい虫けらが!」

ウルマは儀式に集中しながらも、キリの妨害に明らかに苛立っている。時折、キリに向かって妖術を放つが、キリはそれをひらりとかわしていく。


一方、イムトゥム神官長は、次々と現れるウルマの手下たちを相手に奮戦していた。聖なる光が飛び交い、杖と剣がぶつかり合う激しい音が響く。しかし、敵の数が多い。神官長も徐々に押され始めているように見えた。


(早く! 早く思い出さないと!)


私は祭壇から少し離れた場所で、必死に記憶の糸をたぐり寄せていた。

「ええっと、たしか…『アヌンナ・キア・シャマシュ・ヌンキ…』」

震える声で、呪文を唱え始める。古代語の発音は難しく、舌を噛みそうだ。しかも、周囲の戦闘の音と、ウルマの唱える禍々しい呪文の声が、私の集中力を乱す。


地響きはますます激しくなり、空は紫色の稲妻が走るほど荒れ狂っている。ギルスの目覚めは、もう間近に迫っているのだ!


「…『ティア・マト・アプスー…』だっけ? いや、違う…『エレシュキガル・ネルガル…』?」

焦れば焦るほど、記憶は曖昧になっていく。呪文の一節を間違えれば、効果がないどころか、逆効果になる可能性だってある。


「くそっ、しぶとい!」

イムトゥム神官長が、手下の一人に体当たりされ、体勢を崩した!

「神官長!」


「よそ見してる暇があるのか、小娘!」

その瞬間、ウルマの鋭い声と共に、禍々しい紫色のエネルギー弾が、私に向かって一直線に飛んできた!


(しまった!)


避ける間もない! もうダメだ! 目を閉じた、その時だった。


ドンッ!


衝撃と共に、誰かが私の前に立ちはだかるのを感じた。恐る恐る目を開けると、そこには、小さな体で私を庇うように立つ、キリの姿があった! キリはエネルギー弾をまともに受け、苦痛に顔を歪ませながらも、倒れずに立っている!


「キリ!」


キリが私を庇って負傷しちゃった!? イムトゥム神官長も押されている絶体絶命の状況! 果たして正しい封印の呪文を思い出し、ギルスの復活を阻止することができるのか!?

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