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第12話:祭壇の上の争奪戦

「おーい、こっちだ、のろま石どもー! つかまえてみろー!」


広い円形の広間で、キリが縦横無尽に駆け回りながら、十体の動く石像たちの注意を引きつけていた。その身のこなしは驚異的で、巨像が振り下ろす石斧や石槍を、まるで戯れるかのようにひらりひらりとかわしていく。時折、懐の笛をピィーッと吹いて、石像たちの動きを一瞬鈍らせる。でも、それはあくまで時間稼ぎにしかならない。石像たちは数が多く、じりじりとキリを追い詰めている。


(早く! 早くしないと、キリが危ない!)


私は壁際に駆け寄り、床に落ちる月明かりのスポットと、壁に刻まれた星の模様を必死で見比べていた。さっきの通路と同じだ。きっと、この光が当たっている床の石を、正しい順番で踏めば、石像たちの動きを止められるはず! でも、その順番が分からない!


(落ち着いて…古文書にはなんて書いてあった? 古代の番人を停止させる仕掛け…星辰の逆行…そうよ、逆行!)


思い出した! 古文書には、起動の時とは逆の順番、つまり星が沈んでいく順番で仕掛けを操作すれば、停止させられると書かれていた! キリはさっき、星が昇る順番で石を踏んでいたはずだ。


「キリ! わかった! 起動した時と逆の順番で踏めばいいんだ!」

私は叫んだ。

「逆の順番!? よっしゃ、任せろ!」


キリは石像の一撃を危ういところですり抜けると、私の声に応え、再び床の光のスポットへと走り寄った。そして、今度はさっきとは逆の順番で、床の石を正確に踏んでいく! 一つ、二つ、三つ…!


キリが四つ目の石を踏んだ瞬間、ガクンッ!と音を立てて、石像たちの動きが明らかに鈍くなった! 赤く光っていた目も、力が弱まったように点滅し始めている!


「効いてるぞ! あと一つだ!」


キリが最後の、五つ目の石を踏みつけた、その時!


ゴゴゴゴ……。


地響きと共に、全ての石像の動きが完全に停止した。赤い目の光も消え、ただの巨大な石の塊へと戻ったのだ。広間には、再び静寂が訪れた。


「はぁ…はぁ…やった…! 止まった…!」

私はその場にへたり込み、安堵のため息をついた。キリも、汗だくになって肩で息をしながら、満足そうに笑っている。

「へへっ、俺たち、なかなかやるじゃん!」


二人で力を合わせて、最大のピンチを切り抜けた。ほんの少しだけ、絆のようなものが生まれた…気がした。ほんの少しだけ、ね。


石像が停止したのと同時に、広間の奥、今まで壁だと思っていた部分が、音もなく左右に開いた。隠し通路だ! きっと、この先に印章があるに違いない!


私たちは顔を見合わせ、頷き合うと、警戒しながらも通路の奥へと進んだ。通路は短く、すぐに開けた場所に出た。そこは、塔の最上階にあたる場所のようだった。天井はドーム状になっており、中央には大きな穴が開いていて、そこから満月が煌々と降り注いでいる。


そして、その月光が降り注ぐ中心、部屋の中央には、黒曜石でできた古びた祭壇が鎮座していた。祭壇の上には、ビロードのような布が敷かれ、その上に、何か小さなものが置かれている。


(あれだ…! 間違いない!)


それは、キリが持っている黒曜石の破片とよく似た、しかし違う形をした、もう一つの黒曜石の破片だった。表面にはやはり奇妙な渦巻き模様が刻まれ、淡い紫色の光を放っている。二つ目の「起動の印章」だ!


「あったー! 見つけたぞ、リシュナ!」

キリが歓声を上げ、祭壇へと駆け寄ろうとした。私も、ついに見つけた安堵感と興奮で、足が勝手に動き出そうとしていた。


その瞬間だった。

「――そこまでだ、小僧ども」


冷たく、そして聞き覚えのある声が、部屋の入り口、私たちが通ってきた通路の方から響いた。

はっとして振り返ると、そこには、黒いローブをまとった集団が立っていた。ウルマとその手下たちだ! いつの間に、ここまで!?


「フフフ…ご苦労だったな。我らのために、面倒な罠を解除してくれた礼を言おう」

ウルマが、フードの奥で歪んだ笑みを浮かべているのが分かった。彼らは、私たちが罠を解除するのを待って、後をつけてきていたのだ!


(しまった! 油断してた!)


だが、驚きはそれだけではなかった。ウルマたちの隣、少し離れた場所に、もう一人、意外な人物が立っていたのだ。白い豪奢な装束、トキの頭部、そして、氷のように冷たい目。


「イムトゥム様!?」

私は信じられない思いで叫んだ。なぜ、神官長がここに!? しかも、ウルマたちと一緒にいるなんて!


「ほう、これはこれは、イムトゥム神官長殿。貴殿もこの『お宝』にご執心でしたかな?」

ウルマが、嘲るような口調で神官長に話しかける。

イムトゥム神官長は、ウルマを一瞥すると、忌々しげに口を開いた。

「…ゲシュティのしもべよ。その禍々しい印章は、貴様らのような混沌の手先に渡すわけにはいかぬ。あれは、エ・クル・アン神殿が厳重に管理すべきものだ」


「管理、ですと? フフフ、ご冗談を。その実、貴殿もこのギルスの力を欲しているのではないですかな? 神殿の威光を取り戻すために」

ウルマが挑発するように言う。

神官長は表情を変えずに答える。「…戯言を。我が目的は、あくまで災厄の封印だ」


(な、何がどうなってるの…!?)


私は混乱した。ウルマと神官長は、敵対している…? でも、なぜ一緒にここに? そして、神官長の目的は、本当に封印なの? それとも、ウルマの言うように…?


頭が真っ白になっている私をよそに、状況は一気に緊迫した。

「問答無用! 印章は我々がいただく!」

ウルマの手下たちが、一斉に私たちと神官長に向かって襲いかかってきた!


「キリ、危ない!」

私はキリを庇おうとするが、キリはひらりとかわし、逆に手下の一人に飛びかかる。

「うっとうしい!」

イムトゥム神官長も杖を構え、襲い来る手下たちに神聖術らしき光を放って応戦する!


部屋の中は、たちまち三つ巴の乱戦状態となった! ウルマの禍々しい妖術が飛び交い、神官長の放つ聖なる光がそれを打ち消し、キリがその間をちょこまかと動き回り、手下たちを翻弄する!


私は、ただただ壁際にうずくまり、この悪夢のような光景を見ていることしかできなかった。


(もう訳が分からない! 誰が味方で、誰が敵なの!?)


混乱の中、ウルマの目が、祭壇の上の印章に向けられた。そして、次の瞬間、彼は素早い動きで祭壇へと駆け寄り、二つ目の印章をひったくった! さらに、乱戦の中でキリが落としてしまった最初の印章も、その手に収めたのだ!


「フハハハハ! ついに手に入れたぞ! 二つの印章を!」

ウルマは高らかに笑い声を上げる。その手の中で、二つの印章が共鳴するように、より強い紫色の光を放ち始めた!


「しまった!」

イムトゥム神官長が苦々しい声を上げる。


「感謝するぞ、小娘、そして風の小僧! 残るは一つ! エ・クル・アンに隠された最後の印章を手に入れ、我が主ゲシュティ様の御名において、古代の災厄ギルスを蘇らせてくれるわ!」

ウルマは勝利を確信したように叫ぶと、呪文のようなものを唱え始めた。すると、彼の足元から黒い砂煙が渦巻きのように立ち上り、あっという間にその姿を飲み込んでいく!


「待て!」

神官長が杖を突き出すが、もう遅い。黒い砂煙は、ウルマの甲高い笑い声と共に、跡形もなく消え去っていた。


後に残されたのは、呆然と立ち尽くす私たちと、空になった祭壇、そして、絶望的な現実だけだった。


とうとうウルマに二つの印章を奪われてしまった! しかも最後の印章は神殿にあるという! イムトゥム神官長の真意は? そして、ギルスの復活を阻止することはできるのか!?

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