村長は唐突に
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『それで、、どこで見つけたの??その、、だい、、いや、、聖剣??』気づいたら俺は敬語をやめていた。
敬う気持ちが無くなったわけじゃない、、多分。
そもそもお前呼ばわりされてるので許容だろう。
『あぁ、すごく分かりにくいんだが、村の門の横から人一人入れるかどうかの小道があってだな、、そこからしばらく行くと崖があってそこを降りたところに、沢山聖剣があったんだ。』
成程、おそらく簡単には見つからないようなとこに畑を作って栽培してたのか、、
いや、まずそもそも聖剣が沢山あることには疑問抱かないのか?とつっこみたい気持ちはあったがそもそもまだ親しくない。
危ない人は刺激せず、、だ。
『そうだったんだ...でもすごいね、3本抜けるのはもう勇者かもだね。うん、3本あればミルアだけで倒せちゃうよ魔王。聖剣って大体普通1本だしね、すごいよほんと頑張ってね、いやすごいなー。あ、じゃあ俺ちょっと今日用事あるから。』
いくら可愛くても君子危きには近寄らず、との言葉もある。まだ出会って間もない、今だからこそ多少強引でも距離を取ろう。
とりあえず、何をしたらよいかもわからない状況は改善していないが、この村の状況と目の前のサイコパスは事態を好転させてくれるとは思えない。とりあえず別の街なり村を探そう、そうしよう。
と、部屋を足早に出ようと試みた。
『、、大丈夫だ。ほら。』
何故か大根を渡してくる。しかも少し小さめのやつ。
『私も2本しか腕はないからな、一本はお前が使え、いや気にすることはない。村人には聖剣はお前が抜いたということで、伝えてある。勇者はあくまで、お前だ。』
キラキラした眼で、配慮深い私、みたいなドヤ顔で冤罪宣告をしてくる。
『、、、いや、それ俺犯人、、大根抜くな言われて速攻抜きにいったクソになるんですか、、自分』
思わずボソッと素の声が出る。
いかん、俺としたことが、、
『コホン、、えーっと、うん、わかった。
よし、聖剣ありがとう。少し小ぶりで逆に色々と使いやすそうだね。(煮物とか)うん、大事にするよ。じゃ、じゃあ俺はこれで、、ミルアも元気でね。色々ありがとう。』
とりあえずこの大根はそっとどこかに置いてこの村を立ち去ろう。
もう俺らはただの大根泥棒だ。
、、、すると、コンコン、部屋をノックする音。
『わしじゃあ、、お前さんらもう起きたんか??
ちょっと話しがあってな、、入るぞ、、』
俺の人生は一度でも自分の思い描いた通りになったことがあるのだろうか、、なぁ神様、、?
『あ、、、、』
『おはよう、じぃさん』
俺の手には聖剣ホワイトラディッシュ、、村長をじぃさん呼ばわりする無礼者の手にも聖剣2本。
それは村長が、村人たちが国の目を盗んで生き抜く為に命懸けで育てたこの村の宝、ある意味での聖剣だった。
『き、き、き、き、きさまらぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
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転生翌日に牢屋に入った主人公は俺がこれまで聞いた物語の中にあっただろうか、いやない。しかもヒロインとまとめて処刑されるとか誰が読むんだそんなクソ展開、、、現実は世知辛い。
そう、俺らは2人まとめて村の農作物を窃盗した罪人として、牢屋にぶち込まれ5日後の処刑が確定した。
鎖を後ろ手に繋がれて全く身動きが取れない俺らは向かい合わせの牢屋に入れられている。かろうじて会話はできるがそれ以外の行動は一切出来ない状況だ。
『おーい、、、聞こえるか??』
とりあえず呼びかけてみる。
『聞こえるぞ、、というかなぜ私たちは捕まっている、奴らは頭がおかしいのか??何故聖剣を抜いた勇者一向にこのような仕打ちを??理解が出来ないぞ。』
頭がおかしいのはお前だ、、あとお前は仲間ではない、、という言葉をグッとのみこんで当たり障りのない返事を考える。
『あれかな、、、村長抜くとこ見たかったんじゃない??見れなくてくそー!みたいな?多分聖剣抜く瞬間目撃マニアなんだよきっと。』
ミルアはこれみよがしに深くため息をつく。
『お前、、、、はぁ、、、そうか、少し馬鹿なんだな、その程度のことでここまでするわけないだろう、私たち処刑されるんだぞ?見たかったくらいで処刑になるわけないだろう??わかるか??少しは考えて発言するんだ。』
く、、、!!!!
この、、サイコパスがぁ!!!!!!!!!
お前が抜いたんだよ!!!聖剣ホワイトラディッシュをよ!!!!大根だよ!!!!!魔王もびっくりだよ!!
ふぅ、、ふぅ、、いかんぞ、ここまで心が乱されるのは記憶にない、、理不尽だが。
考えろ、、、
考えろ、、いますべきこと、、
とりあえず、、やはりおかしいことは村人にもある。
大根抜いた程度での処刑はあまりにも罪が重すぎる。
やはり、今村が置かれている状況が影響しているのだろう。
『なぁ、、ミルアはこの村の話、聞いたか?』
とりあえず漠然と投げかける。
『ん??あぁ、魔王軍の幹部が、聖剣を隠し持っていた罰として見せしめの処刑を行うってやつか??酷いことをするもんだな。村の魔術師が見せしめを選ぶんだよな、、選ぶ方も選ばれる方も、、かわいそうにな、、』
なんとなくかなり違うが大体合っている、不思議だ。
『多分そのさ、その、選ばれる方のかわいそうなやつが、俺らになると思うんだよね、、。』
多分間違いないだろう、いくら大切な大根だろうが、作物抜いただけのものに与えるのが処刑は異常だ、しかも5日後というのがタイミングから考えても間違いないだろう。
『ふむ、なるほどな、、処刑か、処刑なぁー、処刑処刑、、、、んばっ!!!!!しよおけいだとぉー!!!!!!!????』
んばっ、は新しいな、、。
『村長言ってただろ、俺らを捕まえた時、貴様らを5日後に処刑する、って間違いなく言ってたよ。』
『そうか、、村長の言ってた処刑は私たちのことか、、てっきりゴールデンワームかと、、で、
どうするんだお前??死ぬのか?』
ゴールデンワーム、、多分ミルアの頭の中だけの生物、何故、、処刑?
『あー、まぁ、動けないしな、、俺らに選べないだろ、死ぬんじゃない、殺されるんだ。』
そう、これは自死ではなく、他死だ。
俺のせいではない、元の世界でどうせ他殺されていた身、今更生が惜しくはないし、この世界での生き方も全く検討がつかない。
何一ついいところなく死んでいくのが俺らしいっちゃ俺らしいが、、受け入れる。
できたら火炙りとかはやだなぁ、、
『そうか、、私は嫌だ。死なない』
変なことを言う、死にたくない、ではなくて死なない、つまり自分で選択出来るかのようないいぐさだ。
『処刑ではなくて褒美だろ、普通!聖剣抜いたんだ!英雄だぞ、目撃させられずにこそっと抜いたのは悪かった、でも抜けるとは思わなかった!事故なんだ、処刑はよくない!』
赤髪をぶんぶんと振りながら叫ぶ。
『まぁ、処刑は、、よくないよな。そこだけは同意だ。』
『だけってなんだ、、まぁいいぞ。見てろよ、こんな玩具でブラックメイジの私を捕えられるという愚かさ、、人間とは誠愚かな生き物よ』
なに、、?
今俺らは向かい合わせの牢屋で鋼鉄製の手錠で壁に後ろ手を縛られている。
人間にはとてもここからどうにか、できる状況ではない。
『-----赦せ赦せ今一度我が身に宿す禁忌を--愚者に救いを与えるべく力を貸したまへ、、ロス、フレイム』
!?!?
詠唱だ、間違いない、、
まさか、、、ほんとに、、??
ブラックメイジ、、となると、黒魔術か?
ミルアがどこの世界から転生したかは不明だが
何らかの人ではない力を持っている??
助かる、のか?
初めてみる魔術?というものに畏敬と興奮の混ざったよくわからない感情でじっと見守る。
彼女の手錠を赤い炎が、彼女を中心とした空間を包み、鋼鉄製のソレは飴細工のように溶けていった、、俺の頭の中だけで。
つまり---何も起きなかった。
『くっ!抗魔の手枷か!小癪な!何故辺境の村にこのようなものが、、!ロス、フレイム!!!』
俺が詠唱を覚えてしまう程に彼女は3日3晩ロスフレイム?を繰り返したが何一つ状況は変わらなかった。
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