六王睦月と佐々木寧々①
最初こそ、僕と一緒に歩く佐々木さんに注目は集まった。
僕が彼女に寄生してると思われたから。
しかし、彼女からの弁明で、場は一転。
「私、この人に着いて行ってるだけよ? それとパーティは組んでないわ」
「それなら……」
「てっきり六王がみっともなく泣きついて寄生してるのかと」
「なんで僕がそんなことする必要あるのさ」
「だってお前【スコア】稼げてないじゃん」
「稼げないんじゃなくてエラーになるからどれが何ポイントかわかんないだけだってば」
座学の範囲で得られる情報からあまりに外れてるからね。おかしいね。
「なんでエラーになるんだよ。おかしいだろ」
「そんなの、僕の方が知りたいってば。彼女は、僕がどこに行って何を討伐してるかの証人なんだよね。ほら、僕ってば何を持って帰っても【スコア】稼げないから」
「はん、口ではなんとでも言えるからな」
「そういうこと。だからその証人」
「なんでクラストップの佐々木さんが!」
「私が気になったからよ。それと別に、一日くらいサボってもなんの問題もないと判断したからよ」
「それは……」
嫌味かな?
それを言われたらクラスメイトは推し黙る他ない。
なんせ、2位との差は歴然だ。
ダブルスコアなんて目じゃない。
それほどの余裕だからこそ、今日は捨てるなんて言えるんだ。
ほんと、暇人だよね。
そんなわけで三層、に行く前にボス戦へ。
「お手並み拝見と行こうかしら?」
「まぁ、一匹づつ支配下に置いて逆転させるだけだから見てて面白くもないよ?」
言葉の通りである。
僕がモンスターについての弱点を熟知してるのはここにある。
実際に操って、得意分野と苦手分野を洗い出してるからだ。
死体を盾にして車線確保も、僕の戦術だったりする。
死んだら支配は解けちゃうんだけどさ。
「その手腕を拝見するといってるのよ。先生に陳情を出すためにね」
「なんでまたそんな無駄なことを?」
「あなたを学園に残すため、かな」
「ふぅん」
僕、この人に何かしたっけ?
全く記憶にないんだけど。
「その様子だと覚えてもなさそうね。私は、それどころかうちのクラスメイトは、六王君に【才能】を覚醒させてもらった恩義があるのよ。みんなは薄情なもので、それを忘れてしまったけど、私はいまだに覚えてる。あの日、あの時からあなたは私のライバルなの。だから、こんなところで落ちぶれてほしくない。それだけよ」
あー、あったねぇそんなこと。
まだみんな足並み揃ってない時。スライム一匹相手にガタガタ震えて、怪我人も出てた頃だ。
僕が率先してスライムを相手取ってた。
その真似をして、みんなが【才能】を覚醒させた。
Fクラスは外部学生。
その多くは15歳まで一切【才能】を覚醒させずに今まで来た人をお高い入学金で誘致。英才教育を施すというものだ。
一般人家庭、または親が探索者でもうまいこと【才能】を引き継がなかった子供が多く、僕はそのうちの一人。
佐々木さんがどうかは知らないけど、彼女の感謝のしかたからすると、一般人の家系の出かもしれないね。
なるほど、そういう意図か。
「なんであれ、どうしてエラーが出るかの別視点での意見がもらえるのはありがたいかな」
「そうね、そこら辺の謎も解明していきたいわ」
「よろしく頼むよ」
二層のボスはゴブリンジェネラル。
将軍的ポジションだ。
なので部下がいて、指揮系統を持つ。
ゲームセンターのダンジョンエクスプローラーでもそこは変わらなかった。
僕はダンジョン構造を学園内ダンジョンでしか知らないんだけど、もしかしてどこも一緒なのかな?
僕の戦略が通じるのでそこは有り難かった。
部下を乗っ取って、同士討ちさせた。
見た目や思考はそのままで、肉体だけが僕の支配下という点が【ダンジョンテイム】の利点と言えるだろう。
僕が直接手を下すのは一度だけ。
あとはスライム任せで支配を繰り返す。
ゲームと違って僕には便利で使い捨てできる私兵がいるからね。
「本当に、瞬殺なのね。私でも小一時間はかかるわよ?」
「そりゃあ、ソロで行けばそうだろうね。やり方がなってない場合はそうさ。よかったら佐々木さんもダンジョンエクスオプローラーやったら? 学園生にとっては自分の持ち味は全部消えるけど、ソロでの立ち回りは勉強になるから」
「持ち味が消えるのに勉強になるのかしら?」
「そこは物は考えようってやつさ」
「そうね、少しでも攻略に役に立つのなら参考にしてみるのもいいわね。時間はいつが空いてる?」
「え?」
なんで僕の時間なんて聞いてくるのさ。
「やってみたら?」「うんそうだね」で終わる話である。
そこからさらに発展させる必要なんてない筈だ。
「僕、ここで【スコア】を稼げないから、学校終わったら毎日バイトしてるから空いてる日なんてないよ?」
「そうなの? でも昨日はご家族と一緒に外食をしてたって……」
あー、言ったね。
そういえば話題を振られて話したや。
興味なさそうだったのに覚えてたんだ。
「今朝、おじさんがプロだって話したでしょ? あの人探索者特約で人のシフト勝手に変更したんだよ。今日、どんな顔してバイト先に行けばいいのか……せっかく学園生でも大丈夫ってバイト先見繕ったのに、これからも休むような奴だって思われたらクビにされるよー」
考えるだけで恐ろしい。ただでさえ任される仕事のほとんどが体力関係なのに!
その分お給料がいいから、そこを外されると本当に困るのだ。
「なんか、大変そうね」
「それもこれも【スコア】が稼げないせいだからね。だから今日は頼むよ?」
「可能な限り頑張るわ」
本人はやる気いっぱいだけど、どうせダメなんだろうなぁ。
僕が四ヶ月かけてダメだったのを、彼女が一日加わっただけで解消できるわけがないからだ。
そんな意気込みと共に三層へ。
彼女の狩場兼、僕にとっては見慣れた風景。
すっかり四層への通り道になっている。
この学園のダンジョンは奇数層はモンスターハウス。
偶数層はモンスターハウス+ボス戦となっている。
しかし五の倍数には層を隔てるボスがいて、一年生が行けるのは五層までとされている。
上層、中層、下層。
学園ダンジョンはそれぞれの層へ通じるゲートが用意されている。二年生になったらいきなり五層から始められるらしい。
いきなりの階層ボス戦だが、二年に上がるのにボスを討伐済みであるのが条件の時点で余裕じゃないとお話にならないのだそうだ。
まぁ、僕たちは一年生なので、ゲートは一層から歯科始めるしかないんだけどね。
なぜか僕はそれを飛び越えてしまうのだけど、彼女が五層以上に行けるかどうかも検証が必要だ。
「って五層から先は二年生と合流必要があるのよね?」
「僕が見る限りでは、見かけないよ。通るルートが上空だからかな?四層でちょうどいい足が見つかるんだ。以降は空から指示飛ばししてるから見たことないってだけなんだけどね」
「足?」
「人一人乗せられるくらい大きめな飛行系モンスターがいるんだ。つぁま日常から魔法が降ってくるけど、気にならんまい胆力の持ち主ならイケルイケル」
「ねぇ、それって狙われてるわよね!? 二年生から狙われてるわよ! もし落下して顔バレしたらどんな顔して登校すればいいの!?」
「でもまだ一度も撃墜されたことないよ? 空気の薄い層を飛んでるからさ、息苦しいのを我慢すればすぐ振り切れるよ」
「そういう問題じゃないわよ!」
「でも、まだ五層に行けるかもわかってないのに今からそこ、心配するところ?」
「そうね、私の気が逸っていたようだわ。でも、うー……今から辺に噂されても困るし……でもそうよね、それでしかしたの層に行けないのなら、行くわ! 私にもあなたを見届ける権利があるから!」
え、ないでしょ?
でも、まぁ僕なんかに興味を抱く変わり者だし。
「そうだね、じゃあ見届けてもらおうかな。僕という存在を」
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