六王睦月の飽くなき挑戦
「六王睦月、昨日はよくも恥をかかせてくれたな!」
翌朝、クラスに入るなり竹下君からイチャモンをつけられる。
どうせ昨日のことだろう。
「あなた、何をしたのよ?」
隣の席の佐々木さんが呆れた様に聞いてくる。
「別に。家族と久しぶりの外食中、話題のゲームで遊びにゲームセンターに寄ったんだ。そこで彼と会った」
「それであんなに怒るものなの?」
「僕もよく分からなくてね。僕の叔父さんがプロで、そのゲームで上位ランクに乗ったのをきっかけに、僕にもやれって急かしてきてさ」
「それにあなたは応えたの?」
「叔父さんがプロってバレて、なし崩し的に僕が学園生って言いふらしたんだよ、当人が」
「そ」
特に興味もないという感じでそっけない返事だ。
「で、叔父さんに迫る【スコア】が出てしまってね。次は彼の番ということになって」
「あら、凄いじゃない。【スコア】エラーさえしなければそれだけの実力があったのね」
「まぁ、ゲームだからね。ゴブリンの死体が積み上がらないし、死んだら即座にアイテムになってバッグに入るから」
「そう、でもそれって言い換えればそれだけ素早く対処できるってことになるわね。十分誇れる成果じゃない?」
「それが【スコア】にならなければ意味ないんだよ」
「そうね。彼がなんであなたに食ってかかってるのか理解したわ」
僕の見解に、彼女は腑に落ちた様な顔で授業が始まるのを待った。
僕もそれに倣い、彼と取り巻きの言葉を無視する。
慣れたものさ。
こんな時のために机に耳栓が用意されているのだ。
授業が始まるまで教科書に集中しようか。
座学の時間が始まり、ダンジョン内で持ち帰れるドロップ品の【スコア】変動のおさらい。
ドロップ品は水物なので、価格は結構頻繁に変動する。
学園生達は授業で習ったドロップ品の価値に左右されて今日もダンジョン探索に赴くのだ。
午前中は知識の補填。
運動・実戦は午後からだ。
僕はクラスから浮いてるので誰も組みたがらず、今日も一人っきりの探索。
しかし今日は珍しい人物からのアプローチがあった。
「あれ、佐々木さん。今日は誰とも組まないの?」
「あなたの能力に興味があってね。よければ一緒に行動しない?」
「僕と組んだって【スコア】は伸びないよ? むしろ佐々木さんまで【スコア】エラーになったら目も当てられないよ」
「だからパーティは組まないわ」
「うん、それが賢明かな」
「あら? 私の稼ぎを当てにしないのね」
他の人は組む以上、ノルマを設けるのだけど。
僕は設けたって意味がないからね。
「どうせエラーで無かったことになるのに、期待してもしょうがないじゃない」
「諦観の念かしら?」
「どうかな」
「まずはお手並み拝見と行こうかしら」
「ゲームみたいに上手くいけばいいけどね」
やはりゲームの機能は実際にダンジョンを回ると喉から手が出るほどに羨ましい機能だなと実感する。
実際の作業の10倍は楽だもん。
逆にあれに慣れちゃうと、実際のダンジョンアタックが途端に面倒に感じるので、これからプロになろうって人にはお勧めしない。
あくまでもあれは一般人向けのものだ。
「手際がいいのね」
「そう?」
佐々木さんが、僕の作業を覗き込んで意見を述べる。
僕からしたら当たり前の作業だ。
特に珍しいことをしてるつもりもない。
「クラスのみんなは解体にそこまで時間をかけないもの。必要なものがあったらそれだけもらって放置よ」
「ふぅん。座学の授業で習ったままを即座に行動に反映してるんだ?」
「みんなそうじゃない? 私もそうしてるし」
「僕にとってはこれが必要なことなんだよね。さて、これでこの子は僕の傘下に入った」
「【才能】の能力ね。だからわざわざ複雑な解体をしていたの?」
「それもあるけど、解体したのは正確に弱点を把握するためかな? この子達ってコアのいつを微妙に変えるんだ。ゲームのスライムは固定で位置が変わらないけど、実物は結構様変わりするんだ」
「知らなかったわ」
「【才能】で一発だからね。普通はここまでこだわらないよ」
「でしょうね」
ダンジョンを歩く。
傘下を増やしながらゴブリンの居住区へ。
そこでは結構なクラスメイトが劣勢を強いられている。
内心邪魔だな、と思う。
「やってるわね」
「いつもみんなここで?」
普段は出払った後に行くから、クラスメイトがどこで稼いでるかも分かりやしない。
「ええ、そうよ。私なんかは三層に行くけど、多くのクラスメイトは二層で【スコア】稼ぎね。あなたは?」
「僕の狩場は七層だね。ブラックドラゴンがなかなか手強くて、なかなか八層に辿り着けないんだ」
「は?」
僕にとっての当たり前は、どうやら彼女には刺激が強すぎた様だ。
「それでなんで落第生なのよ! おかしくない?」
「そんなのは僕が聞きたいくらいだけど、一体どうやったら【スコア】が稼げるのか分からないからね」
「そもそも、どうやって四層を超えるのよ! あそこにはブルーオークの集落があるのよ!?」
「ああ、それは……」
僕は己の【才能】の手の内の一部を明かした。
「僕の【才能】は傘下を率いる上での上限はないんだ。制限はこれでもかってほどにあるけどね」
「モンスター軍団を自在に増やせるのね、強いわけだわ。そしてそれは、傘下に置いたモンスターで倒しても傘下条件を満たす?」
「いや、トドメは一度僕が倒さないとダメ。以降は簡略化として傘下モンスターが倒しても大丈夫になる。これを……僕は単独で四ヶ月以上続けている」
「!」
こんなに手間暇かけて育てた軍団も、ダンジョンを出ると露と消える。
その口惜しさたるや、彼女には想像もできないだろう。
「それで七層まで降りてもなんら誇らないというのは?」
「僕の生徒手帳に、そのデータがなんら記されないからね。実際にいくらになるかの想像もできない。座学の授業で一切素材情報が出てこないからね」
「当たり前じゃない! 七層といったら二学年で攻略する階層よ! 一年生は五階までしかいけないのに」
「なんでかいけちゃったんだよね。普通にジャイアントゴーレムも倒せちゃったし」
「それ、学園側から新たなモンスターとして認識されてるやつじゃないの?」
「もしそうだとしても、なんの証明もできないから僕の妄想にしか受け取られないのさ」
「だったら私が証明するわ。だから、あなたの本気を見せてくれる?」
「別にいいけど、【スコア】がエラーになっても怒らないでよ?」
「それはそれで口惜しいけど、そんなのは後からいくらでも稼ぐからいいわ!」
何やら凄い気迫。
なんだか変なことになっちゃったな。
夕方までに帰れればいいんだけど。
僕は諦めの悪い佐々木さんに付き纏われながら、三層に向かって歩き出した。