六王睦月の負けられない戦い
ゲームのプレイ方法は単純明快。
カプセルの中に入り、プレイヤーと肉体をリンクさせるだけ、という没入スタイルとなっている。
基本的にモンスターは倒せば直接アイテムをドロップする。
ここが現実との違いだな。
直接使えるアイテムじゃないと、ゲームとして破綻するのだろうから、そこは別にいいんだけどさ。
武装の類は初期のナイフだけ。
あとはボスを倒すたびに落とす宝箱からからの入手だろう。
しかしこのゲーム、軽く触ってみたあたり落とし穴がある。
それがアイテム収納袋に上限があるという事だ。
叔父さんが討伐ポイントに焦点を当てたのは、武器の更新をし過ぎて、納品ポイントに回すアイテムを入れるスペースが足りなくなったとかだろう。
なら僕は……武器の更新を捨てて納品アイテムを稼ぐ!
まずは操作に慣れるためにスライムを狩りまくろうか!
「兄ちゃん、このゲーム本当に初めてプレイしてるの」
「んー? そうだね。っていうかゲームそのものが初めてだぞ」
「え?」
「おいおい……こりゃあ」
夏生ちゃんや叔父さんが少し引いた目で僕を見る。なんだよ、そんなに僕の動きが素人くさかったか?
へ、いいもんね。
僕は僕なりのスタイルで行くから。
僕はいつもの癖で独り言を語りながらスライムを的確に処理していく。
「スライムは基本的に【才能】を使って倒す必要のない雑魚だ。しかし熟練度をあげるために、好んで狩られる傾向にある。それは何故か? どんなに弱い【才能】でも、気持ちいいくらいに簡単に倒せるからだ。僕から言わせて貰えば、そんなので熟練度を稼ぐのは愚の骨頂。何せナイフ一本でも簡単に捌き切れるからだ」
スライムの弱点は中央に座するコアである事は有名な話だ。あれが空気に触れると肉体の維持が困難になり、息絶える。
これを倒すのに適した武器は、鉄串が最善なのだが、ここでは武器として適用されてないのでナイフで最適解を目指す。
袈裟斬りにすると、真正面から酸の体液を被る羽目になるので最適解は頭。
真上から突き刺して捻る。
絡め取りながら武器を振るえば、スライムの肉体だけ壁にぶつけることが可能だ。
スライムのドロップアイテムはコア。
アイテムはドロップすれば勝手にバッグに入り込む。ここでスライムを乱獲した理由は、安くても数を最大限に入手する事で納品ポイントを稼ごうと言うやつだ。
だいたいにして900ほど稼いだら、次に行く。
「さて、一般人の最初にして最大の壁、ゴブリンの登場だ。こいつらは文字通り非常に厄介で、数で群れるだけでなく、個体によっては扱う武器も異なってくる」
先ほど集めたコアを投擲しながら相手を釣り、一匹づつ仕留める。
ドロップアイテムはボロボロの武器。
どう考えても手持ちのナイフより攻撃力が劣る。
しかし消耗品と考えるなら、物は考えようだ。
「一般的には、子供くらいの知能があり、群れることで大変危険とされるが、こいつらは仲間意識が非常に強い。そこをつけば、一網打尽にできる」
獲得したボロナイフを投げたり、矢を弾いたりしながら前進。死体はすぐにアイテムに変換されるから、現実のダンジョンよりヌルゲーだ。
本当なら死体の山で射線を稼いだり、小賢しいったらありゃしないのだが、そこはゲーム。
プレイヤーに気持ちよくプレイさせるゲームバランスになっていた。
「ストライク!」
ボロいナイフがゴブリンの脳天に突き刺さった。
僕の投擲もなかなか悪くないんじゃないの?
ゴブリンは武器持ちを凌いだら、特殊個体のゴブリンジェネラルが現れる。
気持ち体高がある程度なので対処法はそう変わらない。
スライムコアで注意を惹きつけて、足元に転がしたコアで転ばせる。
あとは立ち上がる時間差でボロいナイフで目や柔らかい部位を滅多刺しにしてやれば討伐成功だ。
ちょっとみっともない戦い方だったからかな?
ゲームセンターの中は静まり返っている。
呆れてるのかな?
そりゃ、確かに叔父さんと比べちゃうとね。
ゴブリン戦を終えたら、三層に降りてアリ退治。
基本でかい昆虫なのだが、でかいと言うだけで十分脅威だ。
なのでここからデバフアイテムを使用していく。
ゴブリン戦で大量に手に入れた劣化ポーションだ。これをボロいナイフに塗ってから投げる。
本来敵に直接かけることによって弱体化を促すが、武器の損傷を気にしなければ、こう言う使い方も可能だ。
「ふはははは! アリがゴミの様だ!」
面白い様に倒せてしまうのもあり、テンションが上がってしまう。
僕の戦い方は基本的にヒットアンドアウェイ。
付かず離れず、相手の注意を引いては距離を取る。
自分の距離で戦い続けるのは、単純に被弾を避けるためだったりする。
僕の【才能】は、実力で討伐したモンスター以外を使役できないのもあり、こう言う戦い方が板についてしまったのだ。
ちょっとアリ退治に熱を入れ過ぎてしまったのか、ボス部屋にたどり着く前にタイムオーバー。
バックのアイテムを納品して、ポイントを稼いだ。
思いの外、デバフポーションがポイントになってるのに驚いた。
あれ、結構高いポイント取れたんだな。
何持って帰ってもエラー起きるから実感なかったよ。
それで僕の順位は、叔父さんに次いで四位となった。
自分でもびっくりしている。
僕が、プロに次いでその順位にいることに。
「なんか、このポイント換算値バグってない? 僕の知ってるポイントと違くて」
そんな言い訳じみた言葉をかき消す様に、僕は詰め寄った人だかりに巻き込まれた。
『「うぉおおおおお!!」』
「ちょ、どうしたのみんな」
「兄ちゃん、凄かった! やっぱり兄ちゃん凄いんじゃん!」
「いや、僕なんてクラスじゃ一番下っ端で」
僕の言い訳に食い気味で、一般人は興奮を露わにする。
「なに、学園生はこれでも序の口だって言うのか?」
「本当だったら凄いぞ!」
「おい、さっきあの子に絡んでるクラスメイトいたよな? 次そいつにやらせようぜ!」
「いいな! それ名案!」
さっき夏生ちゃんと僕に突っかかってた場面を見ていた人が居たのだろう。
その場に居合わせた竹下君がバツの悪そうな顔をしている。
「と、言うことらしいけど。手本を見せてもらえるかな?」
「てめ、ちょっとゲームが上手いからってちょーしくれてんじゃねーぞ?」
「そーだそーだ!」
「そうだよ、あれくらい竹下君だってできるし!」
僕に負けてられないと、取り巻き達が竹下君を煽り始める。
「やれるよな! こんな落第生に好き放題言わせたまんまでいいのかよ竹下君!」
「そうだよ!」
「竹下君!」
「今ここでお前を叩きのめしてやりたいところだったが、今日は体調がすぐれない。今度の日曜日、直々に俺様が相手してやる」
青い顔をしながら、本当に体調が悪そうだ。
「逃げるのか? 兄ちゃんを散々煽っといて!」
「俺様が、撤退だとぉ? 勘違いするなよ。今日は本当に気分が悪いだけだ。当日を楽しみにしておけよ。いくぞ!」
そう言って、竹下君は取り巻きを連れ添ってゲームセンターから姿を消した。
「逃げたね」
「逃げたな」
夏生ちゃんと叔父さんが、同様の言葉を口にする。
「そもそも僕、来週は普通にバイトのシフト入れてるんだけど」
「あいつ、今頃必死に練習してるぜ?」
「当日に兄ちゃんが来れないとも知らずにね、うぷぷ」
なんで当事者の僕より、保護者の叔父さん達が面白がってんだろうなぁ。
「なんにせよ、今日睦月の実力を知れて俺は安心したな! なんだよ、あんなに動けるんなら【スコア】なんてすぐ稼げるって。なんだったら学園やめてうちのパーティくるか? 即戦力でお迎えするぜ?」
「ありがたいお誘いですけど、それだとせっかく支払った入学金がですね」
半年しか通ってないのに全部パァになる。
それはそれでドブに捨てた気分になるから精神衛生的によくない。
「まぁそうだな。無理にとは言わんが、勿体無いな」
「ま、そう急かすなよ。兄ちゃんの場合はいつ帰って来れるかわからない長期探索だと、柚芽に気軽に会いに行けないから決断しづらいのかも知んないぜ?」
「あー、それはなー」
夏生ちゃんに促され、叔父さんは考え込む。
もし僕が探索者になれても、その時は妹には起きていて欲しいと言う願望があった。
そう言う意味でも、探索者になるには今ではない。
「とにかく、僕はまだ学園で成果を出してませんから、卒業まで待っててください」
「それもそうだな」
その前に退学にされるイベントフラグが立ってるけど、なんとかしてしがみつくぞ!