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最弱無双のハイスコアラー  作者: |◎〻◎)双葉鳴
2/7

六王睦月は息抜きに誘われる

 誰からも期待されず、それでも僕がこの地位にしがみつくのは、今もあの日から眠り続ける妹のためでもあった。


「睦月君、なにも君が一人で苦労を背負い込む必要はないんだぞ? 叔父さんたちも力になるから」

「そうだぜ、兄ちゃん。ウチらだって頼ってくれて良いんだからな?」


 幼少の頃に俺たち兄妹は両親を亡くし、父方の叔父である六王武蔵の元へ預けられた。

 従兄弟の夏生(なつき)は妹の柚芽(ゆめ)とも仲が良く、妹が眠り込んでしまった時も「どうして自分だけ……」と己を責めていたんだよな。

 

 妹はある日から突然眠り続ける奇病。

 ナイトメアシンドロームに罹っている。

 一切起きることはないのに、肉体の衰えはなく、健康そのもの。しかし起き上がることもなく、介護が必要なので病院の世話になっている。

 僕はその妹の入院費を、なるべく世話になることなくバイト生活を経て支払っていた。

 

「ありがとうございます。でも、僕は自分のことくらい、自分でできるようになりたくて」

「だからって全部自分で抱え込まなくたっていいんだ。ご飯くらいは奢らせろよ。夏生だてそう思うよな?」

「そうそう」

「いや、でも今日シフト入れてて」

「俺が今日は休むって伝えとくわ」

「いや、それは先方に迷惑では?」

「探索者特約だよ。お前はまだひよっこだけど、準探索者だ。免許もらってんだろ?」


 叔父さんに言われ、僕は黙りこくった。

 

 『探索者特約』

 それはダンジョン社会において、最も力を発揮する権限。

 要するに多少の面倒ごとぐらい揉み消す力を有するのだ。

 

「よし、決まりな。久しぶりにがっつりしたステーキでも食うかぁ! 夏生はどうする?」

「あたしはお寿司の気分」

「贅沢な気分だな。まぁ今月は結構【スコア】も稼げたし多少のわがままも許してやるよ。つーわけで行くぞ。六王家出発進行だ!」


 【スコア】ときいて、ビクッとする。

 僕がいまだに獲得できてないサービスであるが故に、その言葉に対して若干の苦手意識があった。

 探索者に取って、切っても切り離せない存在なのに。


「どうしたどうした、【スコア】の稼ぎが低いのをそんなに気にしてるのか? 一般人はそもそも【スコア】すら稼げないんだ。【才能(ギフト)】が覚醒しただけでも儲けもんなんだぞ?」


 叔父さんの例えは最もだ。

 だが、俺の場合は【スコア】すら満足に稼げずに現状に至る。

 叔父さんの抱える悩みとは、また別ベクトルの悩みであることを伝えきれずにいた。


「ふぅ、食った食った」

「満腹満腹。食う前は寿司の気分だけど、たまにはお肉もいいなー」

「全く現金な奴め。睦月はどうだった?」

「神の味がしました」

「お前はお前でよくわからないやつだな」


 しょうがないだろ、こんな贅沢な飯。

 喉に流すのは本当に半年ぶりなんだ。

 学園生活の食事事情を語ったら、おじさん卒倒するんじゃないだろうか?


「あ、そうだ親父、ダンジョンエクスプローラーってゲーム知ってるか?」

「おう、聞いたことはあるな。実際のダンジョンを探検した気分になれるゲームだったっけ?」


 ふぅん、今そんなの流行ってたのか。

 全く知らなかったな。

 それどころじゃないってのもあるけど、【スコア】を稼げなくて連日バイト三昧だったしな。


「せっかくだからさ、親父の腕前を披露して見せてよ。いつも自慢ばっかしてるけどさ、実際どの程度の腕前か知りたいじゃん」


 そう言って、叔父さんを話題のゲームに導いた。


「言っとくが俺は、こういうの得意じゃないぞ?」

「せっかくだからトップ取ってよね!」


 結構な無茶振りをしてるが、一般人がプロ探索者に向ける期待は重い。

 このゲームは一般人向けに作られた探索者なりきりゲームらしく、本来は覚醒させた【才能(ギフト)】を武器に扱う探索者とは異なり、宝箱から入手した【装備】【スキルスクロール】【マジックスクロール】を駆使して進むのだが、もちろん叔父さんにそんなルールの理解はない。

 

「おい、プロがやるってよ」

「こんなところにプロが?」

「誰?」

「知らねー、メディアに出てるプロとかではないだろ」

「あの子可愛くない?」

「隣にいる男誰? あいつもプロ?」

「さぁ?」


 夏生ちゃんが騒ぐもんだから、叔父さんが注目を浴びる。そのついで焚き付けた夏生ちゃんと、何故か僕にまで……


 その中に偶然居合わせた顔見知り。

 今はあまり顔を合わせたくない、クラスメイトの姿も混ざっていた。

 当然、僕の顔を見てニヤニヤとした笑みを貼り付ける。


「あれ、六王君じゃん? なになに、DEやってんの? 奇遇〜!」


 竹下豊。Fクラス生でも成績上位で、佐々木さんを密かに狙ってる男子だ。

 何故か頻繁に世話を焼かれる僕に対して、高確率で絡んでくるのだ。


「こんなのでポイント稼いでもさ、現実ではなんの足しにもなん無いよ?」

「ギャハハハ、言ってやんなよ」


 ご丁寧に取り巻きまで一緒になって絡んでくる。

 どこまでも馬鹿にした様に、僕にマウントをとっては悦に入る嫌な奴らだ。


「ま、現実を見なよ」

「そんなことより君、かわいいねぇ。なになに、六王君一丁前に彼女連れてきてんの?」

「は? 生意気〜」


 そして当たり前の様にターゲットは夏生ちゃんへ。最初からそっちがお目当てだったのだろう。

 下卑た視線を浮かべ、その腕を掴んだ。


「こんなのと付き合ってないでさ、俺たちと遊ぼうぜ」

「ちょ、やめろよ。兄ちゃん、助けて」

「おい、お前ら良い加減に!」


 夏生ちゃんの手を取って、勇気を振り絞ろうとした時だ。僕がカースト最上位に声を荒げる矢先──


「『───ワッ!!』」


 ゲームセンター中を爆音が貫いた。

 騒ぎの中心は、とあるプレイヤーが映し出されたモニターだ。その番号は、今まさに叔父さんがプレイしている台からだった。


「どけ!」


 そのプレイを間近で見ようと、ナンパ実行中の竹下君が吹っ飛ばされる。同様にナンパな取り巻きまで壁際まで押し込まれていった。


「悪い、うちのクラスの奴らが」

「兄ちゃんはさ、あんなのに好き勝手言われて悔しくねーの? あたしは悔しい。兄ちゃん、毎日頑張ってんのに! 誰もその頑張りを見ようとしないで!」


 まるで自分のことの様に、僕の分まで悔しがってくれる。ずっと僕が耐え忍んでいたことだ。

 彼女を巻き込んだ僕も悔しくて仕方がない。

 せめて【スコア】さえ入手できたら、好き勝手させないのに。

 拳を強く握りしめる。


「すっげ、あの速さでゴブリン狩れるのか?」

「今どうやってゴブリンの射撃避けた?」

「後ろに目でもついてんのかよ!」

「これ、俺の知ってるDEじゃないです」

「あの人プロなんだって、まじ憧れるよね!」


 モニター内では叔父さんのプレイに一喜一憂する人達。突出したバトルセンスが、ゲーマーから高い評価を得ていた。


 しかしゲームのトップ層の壁は分厚く、夏生ちゃんの希望は通らずだった。

 結局ランキングは3位。

 それでも初めてにしては、高順位。

 プロのメンツは保てたんじゃないだろうか?


 現実と違い、時間制限付き。

 動作環境に手間取り、最初にそこで時間を浪費し過ぎた。次やればもっとランクは上げられると豪語するが、それとは別にこのゲームを荒らす気はないと言葉を残して席を立つ。


「悪い、トップの壁は厚かったわ」

「すごかったですよ、叔父さん」

「親父! 見直したぞ!」

「ワッハッハ、こんなので誇ったって仕方ないんだけどな」

「次、兄ちゃんね!」

「えっ?」


 この流れで僕?


「いいじゃねぇか、やって見せたら?」

「そーそー、腐っても学園生。一般人との違いは見せつけてやんないとさ」

「竹下君……」


 いつの間にやら壁側から戻ってきたらクラスメイトが、今度は準プロ代表として僕をステージへと上げた。

 彼の考えは、僕に恥をかかせてさっきの続きをしようというのだ。


「兄ちゃん! 大丈夫だよ」

「わかった、やるよ」


 ニヤつく同級生の前に出て、僕はゲームに精神を集中させた。

 さて、こっちではうまく反応してくれよ?

|◉〻◉)ノお読みいただきありがとうございます

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