川に流れていった金魚
「ごめん、待った?」
美香が振り向くと、浴衣姿の健人が、爽やかな笑顔で、立っていた。
「……ううん」
美香は、答える。
「そう、ごめんね」
健人は、さらっと言う。紺色の浴衣が、よく似合っている。
(ほらね、こういうところ……)
と、美香は、遠い目をしながら思う。
(別に、男の人は、夏祭りに来るのに、洋服で来てもいいのに。浴衣で来たほうが、女の子が、喜ぶ事をよく知ってる。モテる男の典型だ……)
美香と健人は、普通のカップルらしく、夏祭りを過ごした。屋台で、焼きそばを買って、一緒に食べたり。
夏祭りも終盤の頃、金魚すくいがやっている店に、健人が歩いて行く。
「金魚、取ってやろうか?」
「うん……」
健人は、店の人にお金を渡し、椀と金魚をすくう道具をもらうと、しゃがみこみ、紙を破る事なく、サッと1回で、金魚を1匹すくった。
(ほらね、こういうところ……)
店の人に、すくった金魚が入った透明な袋を受け取ると、健人は、
「ちょっと、ここ、出ない?」
と言った。
「うん……」
健人は近くの公園に歩いて行く。美香は、黙ってついていった。
健人は公園のベンチに腰掛けた。美香も隣に座る。健人は、話を切り出す。
「もしかしたら一緒にいるの見た事あるかもしれないけど……、俺、他に好きな子できたんだ。その子と付き合う事になったから、別れてほしい」
「うん……」
最近、一緒にいるのを見た事がある。百合という名前の、5組の美人だ。
「これ、最後のプレゼント」
健人は言いながら、金魚を渡した。
「うん……」
それ以外、答えようがなく、美香は、金魚を受け取った。
(ほらね、こういうところ……。別れ際にプレゼントをくれるようなところ)
「今まで、ありがとう」
「うん……」
(ほらね、こういうところ……。ありがとうと言って、綺麗に別れようとするところ)
健人は、振り向きもせず、去って行った。
1人での帰り道、美香は、近くの川に、金魚を放した。金魚は流れて、あっという間に見えなくなった。
金魚は、美香から離れていった健人に見えた。同時に、最近、辛かったけれど、はっきりとした決別を突きつけられて、少し心が解放されたような気になった、美香のようにも見えた。
美香の頬から、涙が流れて、川に落ちた。
(金魚……、自由に流れていくんだよ。私の涙と一緒に……)
眼精疲労の為、今企画に、どういう作品を投稿していいのか、(どんな作品が合っているのか?)勉強する事ができませんでした。(何でもいいのかな?わからない……)でも、せっかく思いついて書いたので、投稿させていただきますm(_ _)m
お読みくださり、ありがとうございました。