好きな色に染まってみたけれど
「ルカは髪伸ばしたりとかって考えてない感じ? 今のショートも似合ってるけど、髪の長いバージョンも見てみたいなぁと言いますか」
晴れ舞台の成人式でさえも髪を肩に揺らしたことのない私が、惚れた男の一言で腰まで伸ばそうと決意してみたり。
「いつもの格好良い服も似合ってるけど、ザ・女の子! って雰囲気の服もルカは似合うと思うんだけどな。ま、個人的な趣向も入ってるけどさ」
制服以外に脚を通すことのなかったフリルを、他意のない“似合う”で心躍らせて頻繁に身に着けてみたり。
「この子可愛いよな。背がちっちゃくてふわふわしてて。ヒール履いてやっと百五十四センチくらいになるんだってさ」
百七十センチを超えている私が、これ以上高くならないように地面に突き刺す意志強さを捨てたり。
カメレオンのようにヒロトが好きなものに擬態していく。
でも完璧にその色に染まれないのも事実だ。
どんなに頑張っても髪の長い私は落ち着かないし、スカートよりもズボンの方が好きだ。
デカいと言われても背筋が伸びるヒールの高い靴も好きだし、ヒロトの「ちっちゃくてふわふわしている女の子」にはどんなに頑張ってもなれない。
「あれ? ルカ、髪切ったの。それにズボンも久々じゃない?」
「うん。やっぱりあの格好は性に合わないというか」
保護色を脱ぎ捨てて、ありのままでヒロトの隣に立つ。声音が震えて自信がぶれそうになるが、逃げずに好きな人の顔を見つめる。
「ヒロトが好きだから、いろいろと好みに合わせてみたんだけど。やっぱり私は私らしさが一番似合うって気付いたから。がっかりさせちゃったらごめんね」
「がっかりって?」
「……え?」
予想していなかった反応に思わず声が漏れる。ヒロトは不思議そうな顔で首を傾げた。
「いろんなルカがみたいと言ったけど、ありのままのルカが好きじゃないなんて言ってないだろ?」
「何よそれ」
じゃあもっとはっきり言ってよ。理不尽な言葉は飲み込んで横から抱きついた。