貴方の為ならこの身が消えても…
「どうして…どうして君はそこまで自分を犠牲に出来るんだ…」
男は自分の腕の中の存在にそう声をかける。
そんな状況なのに、彼女はまるで誇らしげに微笑んでいるようだった。そして崩れ落ちていく自身の体を男に委ねる。
「いいの…貴方がこれでまだ戦い続けることが出来るなら、私の存在など些細なことよ…」シュゥゥゥゥ…
彼女はそう言うが、男は納得しない。
「でも、君だってこの世にうまれて来たからにはやりたいこともあったろうに!」
そう言葉にする男の瞳には涙が浮かぶ…
「泣かないで…これが私の使命なの。私は所詮作られた存在…貴方のような人と出会えたのは私にとって幸せだった…」シュゥゥゥゥ…
そう口にする彼女の身体は、その間にも益々崩壊していく…
「あぁ…君の姿がどんどん無くなって…」
男は自分の手にかかる重さが、段々と無くなっていくことに悲壮な声を出す。
彼女はそんな男に、優しく告げる。
「もうすぐお別れね…最期に一つ、貴方に頼みがあるの」シュゥゥゥゥ…
「それはなんだい、俺にできることなら何でもするよ?」
男の返事に、彼女は嬉しそうに微笑んだような気がした。
「明日も…そしてこれからも…強く生きてね。私が貴方の人生を応援できた証として…」シュゥゥゥゥ…
「…解った、俺は明日もこれからも強く生きていくよ。君がその身を挺してまで俺を応援してくれたんだから」
男の言葉に彼女は…
「ありがとう…どうかこれからも…強く…」シュゥゥゥゥ…
そう呟いて彼女は消えた…彼女がその身を犠牲にもたらした力で、男は自身のまわりを温かく…そして優しいものが包んでくれているような気持ちになった。
男は彼女が消えてしまった部屋を後にすると、自分の相棒がいる部屋に向かった。
そして、部屋にいた相棒の男に声をかける。
「おい、風呂先にもらったぞ」
「お、上がったか?じゃあ俺も入るとするかな」
「おう入ってこい、今日は俺が先に入ったし明日はお前が先でいいよ」
「おう、そうさせてもらうぜ。にしてもこう寒いと辛いよな、お前はもう寝るの?」
「そうだな明日も仕事だし、身体が暖かいうちに寝るよ」
「そうか、じゃあおやすみ」
「おやすみ…。あ、そうださっき俺が使ったから「固形入浴剤」もう無いぞ」
「そうか、なら明日の仕事帰りにでも買っておいてくれ」
「希望の香りとかはあるか?」
「その辺は任せとくわ」
「解った」
「ところで、さっき風呂場でなんか呟いてたみたいだけど…何してたんだ?」
「気にするな、独り言だ」
「そっか、じゃあ風呂行ってくる」
「おう」
男は仕事の相棒が風呂場に向かうのを見送ると「はぁ…」とため息を吐く。
「「固形入浴剤」を「自分の身を挺して俺を守ってくれた女性」に見立てて寸劇するのも虚しいなぁ…。彼女ほしい…」
そう呟きながら、男は明日の仕事に備えて就寝するのだった。