9話 不審者
「う~、昨日はつい食いすぎちまったぜ」
翌朝、冒険者ギルドへ向かう途中、ジャンが気分悪そうに呟く。
「やめときなって言ってたのに調子乗って食べるからだよ」
「あ~、今はやめてくれ。説教聞いたら余計吐くかもしんねえ」
「もう、しょうがないなぁ」
昨日、俺の奢りで少し高めの晩飯へと連れて行ったところ、ザックは控えめで食べてくれていたのだが、ジャンが思い切り食いやがったせいで昨日の依頼達成分がすべて消し飛んだ。
別に金はもう一度稼げばいいだけだからあまり気にしていないが、それにしてもジャンは遠慮を知らなさすぎると思う。ホントに気にしてないよ? ホントだよ?
「ていうかよ~、鉄級の癖に俺達より報酬が高いってのは解せんよな~」
「何かよくわからんが、特例で多めに金が入った」
「まああの依頼はギルドからの依頼だし、特殊な場合だと報酬が跳ねあがるからね。とはいえ、5つも点灯するのなんて珍しいけどね。ランクが上がりやすい鉄級でもゴブリンを20体倒してきてやっと3つとかなんじゃないかな」
点灯する、というのはギルドカードに埋め込まれている冒険者実績として換算される10個の点が光るということだ。ここが10個点灯すれば次のランクへの昇級試験を受けられる。
そんなこんなでギルドへ到着し、その大きな扉を開く。
「おう、小僧。昨日ぶりだな」
そうやって気さくに話しかけてくれたのは昨日、ジャンとザックが運んできたベテラン冒険者。名をガインというらしい。冒険者ギルドに連れて行った際にガインと同じパーティで先に逃げ帰っていたゴーシュという男から感謝と共に聞いた。
「おう、おっさん。回復してたんだな」
「ガハハッ! あんまり舐めんなよ? 俺が何年冒険者やってると思ってんだ」
「ガイン、その何年もやってきて俺達は彼等と同じランクなんだ」
「おいゴーシュよ。痛いとこ突いてくんじゃねえよ。涙が出てくるじゃねえか」
ゴーシュから火の玉ストレートが飛んできて、ガインは涙目になる。因みにだが、他にもパーティメンバーは居たらしいのだが、ガイン以外は皆、オークにやられてしまったらしい。
「てかよ、昨日の事と言い、最近魔物たちの動きがちょいとおかしいらしいぜ? お前らも依頼に行くときは気を付けな」
「ありがとう。そうするよ」
昨日はオークに襲われている冒険者を助けようとしたがために二人は危機的な状況へと追い込まれた。助けたいという思いが大半だろうがその中にも少し若くして銀級冒険者になった自分たちへの過信もあったことだろう。
「今日も二手に分かれようか。ていうかそうせざるを得ないんだけどね」
冒険者は自分よりも下のランクの依頼を受けることが出来ない。上級冒険者が下級冒険者の仕事を奪ってしまうからである。例外としてパーティを組めば依頼を受けることはできるが、昨日それを断ったからな。
俺みたいなまだまだ戦闘経験の浅い奴を入れると二人の足並みが崩れてしまう。
「次はこれにするか」
そうして俺が取り出したのはオーク討伐の依頼。何故だか銅級以上の冒険者の依頼にオーク討伐が増えている。昨日の異変を報告したからだろう。
「う~ん、僕たちはオーク行くのやめとこうかな。やっぱりまだ忌避感はあるし」
「だな」
そうして二人はオークとは違う魔物の討伐依頼を受け取り、分かれる。
俺がオークの依頼を取った理由、それは単純なもので、コランという女性に会えるかもしれないという思いがあったからだ。二人から話を聞いて余計に気になる。俺が知っているあの種族なんじゃないかと。
「もしそうだとしたら俺と同じ境遇ってことだ。追放された後、どうやって過ごしたのか色々と話を聞けるかもしれない」
これぞ先人の知恵というものだ。そう考えながら通りを歩いていると突然ガシッと肩を掴まれるような感覚を覚える。何だ? ザックかジャンか? 伝え忘れていた事でもあったのだろうか。そう思い振り返るとそこには知らない男が10人ほど立っていた。
「よお、嬢ちゃん。今暇?」
なんだこいつら。
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