8話 謎の女性
「ほら、こいつあんたたちの仲間だろ? 一応生きてたし助けておいたぜ」
その赤髪の女性は乱暴な口調のまま無造作に何かをこちらへと投げてくる。口調は男勝りな面もあるが、その豊満な胸や体つきからして女性であることは二人にも理解できた。
「お、おっさん!?」
その女性から投げられたモノは先程二人を逃がしてくれたあの冒険者であった。体はボロボロなもののまだ息はあるらしいことがその上下する胸の動きから分かる。
「じゃあこいつら倒すからちょっと伏せときな」
ジャンとザックは言われたとおりにその場に伏せ、それを確認した女性は自身が持っている大きな金棒を大きく振り回す。その頭には先程までは無かった一対の角が生えていた。
「鬼神一閃!」
その名の通り、鬼神の如き破壊力を有した赤い波動が周りのオークたちを蹂躙していく。それはジャンやザックからすると圧巻の出来事であった。
「ふう、一丁あがり!」
華奢な見た目からは想像もつかない程の殲滅力に二人はポカンと口を開けて呆然とする。銀級の自分たちでは絶対に届かないであろう領域であることが嫌でもわからせられた気分であった。
「あ、あの!」
「ああ? 何だ?」
そのまま立ち去ろうとした赤髪の女性をザックが呼び止める。動けない自分たちを助けて欲しいとかそんなことを頼むためではない。単純に冒険者としての好奇心のためである。
「お名前は?」
「オレのか? オレの名はコランだ」
首だけ振り向いてそれだけ告げるとまたスタスタと歩き出す。
「ま、待ってくれ!」
「なんだ? まだ用事でもあんのかよ?」
うんざりと言いたげにコランはそう言い放つ。
「いや、助けてくれてありがとな! きっちり礼を言いたかっただけだ」
「なんだそれだけかよ。気にすんな。これはオレにとって義務みたいなモンだからよ。じゃあ本当にもう行くからな」
最後の念押しをしてコランは立ち去っていく。遠ざかっていくコランの後姿を見て二人は憧れの眼差しを向けていた。
「俺もいつかああなりてぇな」
「僕もさ」
そうやってキラキラと目を輝かせる二人の肩に突然ベトッとした感覚と共に何かが掴みかかる感覚がする。
「おい……助けてくれ」
「いっけね、忘れてたぜ!」
「ごめん、おじさん! すぐ町に連れてくから!」
こうしてコランへの羨望のあまり瀕死の重傷を負っている冒険者の事をすっかり忘れていた二人はベテラン冒険者を背負い慌てて町へと帰還するのであった。
♢
「いや~、死ぬかと思ったぜ! ガハハハッ!」
町へ帰還し、治療を終えたジャンとザックから事情を聴き、俺は一先ずホッと息を吐く。
「笑い事じゃない。僕たち本当に死にかけたんだよ?」
「本当だ。心配した俺の身にもなれ」
「すまんすまん、だがこうして生きて戻ってこられたんだ。笑いたくもなるだろうよ」
あの後結局、壮年の男性を背負った二人と運よく合流することができ、背負われていた冒険者は俺が背負って町へと帰還した。その冒険者の怪我と二人のボロボロになった装備を見た感じ、命の危険に晒されていたというのが容易に想像できた。
「それにしてもそのコランっていう女性は何なんだ?」
颯爽とオークの群れの中に現れ、その大半を一撃で消し飛ばした女性。その女性が今回、二人を救ってくれた恩人らしい。
「わかんないな。冒険者かと思ってたんだけど、それならあれだけの実力があって名前を聞いたことがないってのもおかしな話だし」
「そういや俺達を助けるのが義務みたいなモンとか訳の分からねえことを言ってたな。どっかの教会関係者だったりすんのか? ほら、龍神教とか」
「龍神教!?」
ジャンからの思わぬ不意打ちにギクリとする。龍神教というのは俺の父親である龍王を崇める教えだ。いきなり関係者の話題をされたから驚いてしまった。
「うん? どうかしたか?」
「い、いやなんでもない」
「ふーん。まあいいや」
難を逃れたようだ。冒険者って訳アリの人も多いからあまりそういうところを追及してこない節がある。今までもそれに何度か救われてきた。
「なんにせよ。また会いたいな。お礼もしたいし」
「そうだな」
「俺も会ってみたい」
二人の言葉に俺も同調する。二人を助けてくれたお礼をしたいというのもあるが俺には別の理由があった。二人から聞いた、力を出すときに黒い角が頭に現れるというのは天界のある種族の特徴だ。普通、天界から降りる者は居ない。いるとすれば俺と同じ追放された者だけだ。気になるな。
「あっ、そうだ。二人とも。収入が入ったから今までの金返すよ」
「いや良いよ。そんなの。だって僕たち友達だろ?」
「そうだぜ? そんなことより今日の晩飯奢れ♪」
「それって結局払ってることになってるじゃん。僕の言葉返せよ」
「良いさ。奢るよ。かなり入ったから高い奴でも良いぜ?」
そうして俺達は今日降りかかった災厄を振り払うように笑い合いながら飯屋へ向かうのであった。
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