7話 強大な力
見渡す限りオークの群れ。オボロ平原のすぐ近くにはこの前までは無かったオークの村が存在していた。いや、数日間目を離しただけでそれは最早、都市と言っても良い程に発展していた。規則正しく立ち並ぶオークの列はまるで一兵団のごとく。
そんなオークの戦列が向かっているのはオボロ平原のある場所。そこでは調査に来ていたジャンとザックがオークたちと戦っていた。
「やべえやべえ」
二人は調査のみの依頼のため本来であればオークと戦っているはずがなかった。では何故戦っているのか、それは彼らの目の前の人を助けるという性質にあった。
「すまない。俺達がへまこいちまったばっかりによぉ」
「そんなのは良いから安静にしてて! これ以上喋ると怪我に響くよ!」
ザックが必死に大けがを負った一人の冒険者の止血をして、ジャンが持っている大剣でオークたちを一気に相手取っていた。しかしそれも長くは続かない。次第にオークの数が増えていき、三人は取り囲まれる状況となった。
「二人とも、これ以上俺に構うのは止めて逃げるんだ」
「それじゃあおっさんが死ぬだろうがよ」
「大丈夫さ。どのみちここで死ぬ運命だったんだから。それよりも俺の道連れで君たちまでオークに殺されたら俺ァ死ぬに死にきれねえよ」
そう言うと冒険者は自身の血で赤く染まったザックの手を取り力強く離して立ち上がる。
「俺ぁもう長い事やってきた。こんな老いぼれのために若くして銀級冒険者になったお前達みてえな有望な若手を死なせるわけにはいかねえんだよ!」
最後の力を振り絞り、その冒険者は剣を振る。
「斬空!」
冒険者が放ったその斬撃はまるで二人の逃げ道を確保するかのようにオークたちをなぎ倒していく。
「今の、俺の力じゃ、せいぜいこ、こんなもんだな」
全ての力を使い果たしたのかその冒険者は地面に倒れ伏す。最早自分で立ち上がる力すら残っていないのだ。
「逃げ道は作った! さあ行け!」
「行くぞザック! おっさんの好意を無碍にしちゃいけねえ」
ジャンに言われザックは後ろ髪を引かれる思いのまま冒険者が作ってくれた逃げ道に向かって走りだす。たとえオークが逃げ道を作ってくれたあの冒険者に襲い掛かっていたとしても振り返らずに二人は駆けだす。
しかし、それも限界に近かった。二人とも無傷なわけではない。本来であれば銀級冒険者の限界はオーク10体分程度である。この時、二人はこれまでにオークを20体は相手取ってきていた。
さらには二人に向かってオークの増援が送り込まれていた。それも先程のオークたちよりも洗練された戦力が。
かくして二人はオークたちによって再度取り囲まれてしまう。
「くそ! あのおっさんのお陰で生き延びれたってのによお!」
ジンは泣き叫びながら大剣を振り回し、オークたちを遠ざけようとする。しかし、目の前に居るのは通常のオークではない。上位種であるハイオークだ。ハイオークともなると銀級冒険者では一体が限度である。それが何十体も取り囲んでいる光景に、自分たちの命は最早無いものだということが分かっているからこその涙なのである。
「諦めないで! ジャン! まだ手はある!」
ザックは腰袋からポーションを取り出し、飲み干すと直剣を構える。ジャンとは違って軽めのその剣は神速の如き速さでハイオークの肩を貫く。
「――やっばい」
その一撃はハイオークに致命傷を与えることはなく、極太の腕を振るわれ、ザックの体はいとも容易く吹き飛んでいく。
「ザック!――うわっ!」
ザックを吹き飛ばされたことに気を取られたジャンもその隙を突かれて蹴り飛ばされる。
「……だ、ダメだ。もう動けない」
ハイオークたちが迫ってくる中でザックの視界は既に閉ざされはじめていた。ジャンだけが意志を保って周りのハイオークたちを睨みつけるも最早立ち上がるだけの体力すらも残っていなかった。
「おっさん、すまねえな。どうやら俺達もこれで終いみたいだ」
全てをあきらめたジャンの頭の中には最近出会ったエルドラの顔が浮かんでくる。変な奴だったけど悪い奴じゃなかったな、と思い返しているとジャンの目から涙が零れる。
「……エルドラ、冒険者の先輩だって言って威張ってた俺達が先に死んじまって情けねえぜ。せいぜい長生きしろよ」
ジャンは薄れゆく意識の中で傍で横たわっているザックの姿を視界に入れる。ジャンとザックの出会いは彼らの故郷である村からであった。その時に冒険者で白金級にまで上り詰めることを二人で約束した。そんな色々な思い出が走馬灯のようにジャンの脳裏に流れていく。
ハイオークの振り上げた豪腕がジャンの視界を覆った時、突如として前方から途轍もない衝撃音が聞こえてくる。その衝撃音はどんどんとジャン達の方へと向かってくる。
「あーあ、うざったいな~。天界の野郎どもが! 余計な真似しやがってよ!」
そうして二人の前に現れたのは身の丈程はあるだろう金棒を抱えた赤髪の女性であった。
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