6話 緊急事態
「えっ、この魔力量ってもしかしてホブゴブリンの魔獣石じゃないですか!?」
討伐証明であるゴブリンの魔獣石を受付の女性職員に見せると開口一番にそう言われる。魔獣石というのはいわば魔物の心臓のようなものでここから魔物たちは魔力を供給されている。そのため、魔獣石には色々な用途が存在する。
ちなみにこの女性は俺が冒険者登録をした人と同じ人で名前はカナンというらしい。ギルドカードを渡された際に教えられた。
「うん? 依頼にゴブリンって書いてあったからこいつを倒してきたんだけど」
「依頼に書かれているのはホブゴブリンとはまた違う種類です! 普通のゴブリンの事ですよ!」
「なんだと」
依頼場所として指定されていたところではこのゴブリンしかいなかったはずだからこいつを狩ってきたというのにまさかこいつじゃなかったなんて。マジか。初依頼がまさかの失敗に終わるなんて夢にも思わなかった。
「じゃ、じゃあ依頼失敗ってことになるんじゃ……」
「そんなまさか! ホブゴブリンはゴブリンの上位種ですよ! 寧ろ依頼報酬が増えます!」
「えっ、そうなのか?」
よかった。早とちりして落ち込んでいたけど、依頼達成ってことになるんだな。確かゴブリン討伐依頼の値段が5体で5000ギルだったから増えて7000ギルとかか?
「報酬金を用意いたしますので少々お待ちくださいね」
そう言ってカナンさんが奥へと引っ込んでいき、少ししてから赤い台の上に硬貨が並べられている。
「それではご確認ください。金貨一枚で1万ギル、そして銀貨5枚で5千ギル、合計1万5千ギルになります」
「えっ、1万5千ギル? そんなに貰っていいのか?」
「当然ですよ。ホブゴブリン討伐依頼なんて本来銅級でもかなり上位の方でないと受けませんからね。このくらいが妥当です」
そうだったのか。なんか得をした気分だな。とにもかくにもこれで宿代と冒険者登録代をジャンやザックに返すことができるな。
「それと今回は特例となりますので冒険者実績が本来であれば2つの所を5つ上げることになりますね。エルドラさん、ギルドカードを渡していただけます?」
「どうぞ」
冒険者実績というのは次の等級に上がる際に必要な数値の事だ。ギルドカードの下の方に10個の点があり、それらすべてが光ると昇級試験というものが受けられるようになる。
銅級まではそこまで時間はかからないらしいが、等級が上がるにつれて討伐依頼を1つ達成しても難易度によっては1すら上がらないこともあるという。白金級に上がるには更に鬼畜で討伐依頼やそれに準ずる金級の依頼を10個達成することでようやく1つ点灯するらしい。
「お返ししますね~」
「ありがとう」
「それにしても災難でしたね。あそこでホブゴブリンと会うなんて。普段はゴブリンしかいないのに」
「でもそのおかげで報酬も増えましたから」
カナンさんから5つ点灯したギルドカードを受け取った俺はその達成感に身を包みながらいそいそとポケットの中へとしまう。二人が帰ってきたら見せてやろう。
1万5千ギルをポケットからつなげた空間魔法にしまうと意気揚々と受付から離れ、扉へと向かう。そういえば二人ともそろそろ帰ってくる頃だろうかなんて考えながら扉のノブを捻ろうとすると、その一歩手前でバタンッとギルドの扉が勢いよく開く。
「た、大変だ! 災害級の魔物が出たぞ!」
ギルドに飛び込んできた男は服の所々が破け、血を流している。誰が見ても重傷を負っているその男は自分の怪我を顧みずに俺の横を通り過ぎ、ギルド中に響き渡る声でそう怒鳴る。
「ゴーシュさん、すぐに医務室に連れていきますからね」
「いや、良い! ギルド長を呼んでくれ! 俺の仲間たちが大変なんだ! オボロ平原でまだ取り残されてるんだ!」
「話は医務室で聞きますから!」
駆け付けたギルド職員たちの手によってゴーシュと呼ばれたボロボロの男はそのまま奥の部屋へと連れていかれる。
「災害級だって」
「今年何回目だよ」
ギルド内ではゴーシュが発した災害級の魔物という言葉に口々に反応する。災害級の魔物というのは俺が倒した都市級の魔物であるトレントのさらに上の存在。人里に近い所では滅多に現れず、現れるたびにその周辺地域に多大な損害を与えるレベルの魔物らしい。存在自体が災害、まさに災害級である。
ただ俺が気になっていたのはそんな事ではない。少しだけ目に入った二人が持っていた依頼書の文字。確か依頼場所は先程の男が言っていたオボロ平原の筈。時間もかなり遅い。
「行かないと。二人が心配だ」
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