3話 冒険者登録
「いろいろあったけどようやく着いたね。ここが僕たちの目指していた町、バームだよ」
人間の往来は緩やかながらも活気あふれた街並みが広がっている。天界にもこんなところがあったのだろうか? 災いの子と呼ばれて城から一切出してもらったことがなかったため、初めての町の様相に胸が躍る。
「エルドラさんって冒険者登録するんだよね?」
「ああ、そのつもりだ」
「ならあそこのおっきい建物が冒険者ギルドだからジャンと一緒に行っといてくれる? 僕は三人分の宿を取りに行くから」
「オッケー。後で合流な。じゃあ行くぞ、エルドラ」
「ああ」
町の大通りの途中でザックと別れる。
「そう言えばなんだが冒険者になるのって金がかかるのか?」
「まあな。つっても200ギルくらいだし……ってもしかして金を持ってないとか?」
ジャンの問いかけにすぐに首を縦に振ると、マジかよこいつみたいな顔をされる。仕方ないだろう、さっき天界から追放されたばっかりだったんだから。天界の金ならちょっとだけあるんだけどな。
「こいつって売れたりしないのか? ってそんな都合のいいことあるわけがないか」
空間魔法で取り出した天界の金貨を冗談交じりにジャンに見せると、また違った表情で暫くそれを見つめた後に、凄まじい速さでこちらに向き直る。
「ちょちょちょちょっと見せてもらっていいか? 一応、図鑑で見てみるから」
「え? まあいいけど」
予想以上の食いつき具合に若干驚きながら天界の金貨を一つだけ差し出すと、ジャンは勢いよくそれを取り、鞄から取り出した大きな本とその金貨を見比べはじめる。
一体何なんだろう? 天界では珍しくなくても下界では珍しかったりするのか?
「うわ、やっぱり神金石かもしれねえな。ありがとう、エルドラ。返すよ」
「うん? 結局珍しい奴だったのか?」
「正確には分からねえけど、多分な。一回、鑑定魔法が得意な奴に見せてみろ。とんでもねえ金額になるかもしれねえぜ?」
「わかった」
こいつがどんなものであったにせよ、取り敢えず金になることが分かってよかった。せっかく来たってのに金が足りなくて冒険者になれませんでしたって話になったらしょうもないからな。
「じゃあこいつで冒険者登録料を払うか」
「いやいやいやいやちょっと待て。こんなところでそんなダンジョンの遺物なんか出しても換金してもらえねえぞ? 冒険者料金は俺が払ってやるから大事に持っておけよ」
「そうなのか? すまないな。ならこいつはジャンに渡そう」
「いや200ギルぽっちでそんなもん貰えねえよ」
「別にそこまで貴重なものでも無いぞ? 後100枚はあるからな」
そう言って俺は天界の金貨を1枚、遠慮するジャンの掌へとねじ込む。
「服すら持ってなかった癖にダンジョンの遺物は大量に持ってるってどんなんだよ、たくっ。ありがとよ。将来食う飯に困るまで持っとくよ」
ジャンは諦めたかのようなため息を吐くと、大事そうにその金貨を鞄の中へとしまう。
「ところでそんなに大量の金貨なんてどこにあるんだ? 手ぶらにしか見えねえけど」
「それは空間魔法に決まってるだろ」
「空間魔法!? 上級魔法まで使えんのかよ!……なんかお前と一緒に居たら自信なくなってきちまうぜ。これでも俺達って新進気鋭のルーキーなんだぜ?」
新進気鋭って自分で言っちゃうあたりそこまで自信無くしてなさそうだけどな。普通、自信なかったら言わんし。
それから少し歩いて、ある建物の前でジャンの足が止まる。
「さてと、着いたな。ここが俺達の目的地である冒険者ギルドだ」
周辺の建物よりも一際大きい建物を指差しながらジャンが言う。これが冒険者ギルドか。ここから俺の下界での生活が始まるんだ。今まで虐げられていた分、自由に生きるぞ、そう心に誓いながらジャンの後に続いて建物の中へと入るのであった。
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