エピローグ 2
「今度はユエちゃんの話が聞きたいな」
「私の?」
あの夜以降の結慧をウィルフリードは知らない。何があって太陽神を倒すに至ったのか。
地上にいた人間にとってまさに晴天の霹靂とも言えるあの朝までになにがあったのか。
「うーん……」
キスの雨を両手で防ぎながら思い返す。色々なことがありすぎて、まず何があったんだっけ?……ああ、そうだ。
「ウトゥが夜中に寝室のベランダに忍び込んで来て」
「は?」
ウィルフリードから聞いたことないような低い声が出た。腰をがっちり掴まれる。しまった、と思ったけれどもう遅い。
「まさかそれ、部屋に入れたりしてないよね?」
「………………しました……」
「ユエちゃん」
にっこり笑顔の圧がすごい。
「ちょっ、んむッ――――んん――――っ!!」
腰と後頭部をぐっと引き寄せられて逃げられない。噛みつくように重ねられた唇はなかなか離れてくれなくて、やっと解放された頃には結慧はもう息も絶え絶え。
「家だったらこんなものじゃ済まなかったからね」
「ヒェ……」
ここが外で本当に良かった。
生まれてこのかた恋人なんていた事がない恋愛偏差値の低すぎる女にこれ以上は耐えられない。
力の入らない身体でウィルフリードにもたれかかる。
こうなった原因は彼だけれど、ここしか縋る先がないのだから仕方ない。
「どうして君はそう危機管理能力が低いの?」
「すみません……」
「君が自分の事どう思おうと、少なくとも俺にとっては世界一綺麗で可愛い大切な女の子なんだから。心配するのは当然でしょ」
「う……はい……」
「以後気を付けなさい」
「はい」
そうやって上司の顔して言われると結慧が逆らえない事なんてきっと知っているのだろう。そのくせ言っていることは甘ったるいのだからむず痒い。
(私の弱点は決裁済書類と上司だった……?)
でも多分それは社会人だいたいそうじゃない?
それにしてもこの件で怒られるのは二回目なので、おとなしく頷いておく。
「他に誰から?」
「生き残って神殿を守ってくれていた人が二人いるの」
「じゃあ今もその人たちと?」
「ええ、三人で住んでるわ。心配性なのよ、特にスミティさんなんて」
今日だって結慧が暖炉の前で悩んでいる間ずっとソワソワしていたのを知っている。度々ドロリスに窘められていた。さっき神殿を出る時だってすごく心配そうな顔をして。
「そっか。良かったよ、君がひとりじゃなくて」
ウィルフリードはずっと心配していたらしい。結慧が神殿に一人ぼっちでいるのではないかと。
「なんだかお父さんとお母さんみたいだね」
「そう……なの?」
それは結慧にとって遠い遠い存在。本当はずっと憧れていたけれど、考えないようにしていたもの。だって、悲しくなるから。
「家族ができたんだね」
「かぞく、……そう、なのかしら。私、」
だとしたら。
ずっと欲しかったもの。けれど自分には無理だと諦めていたもの。それがいつの間にか自分の手の中にあった。
(……なんだ、そうだったの)
楽しい同僚、仲の良い友達、あたたかい家族、そして愛しい恋人。
欲しかったものは、いつの間にか全部持っていた。
それは、この人と出会ってから。
この人と出会ったから。
「ウィルさん……ありがとう」
「ん?何が?」
「色々、ぜんぶ。私、この世界に来てよかった」
それに気付かせてくれたのも、この人。
「俺の方こそ。この世界を選んでくれてありがとう」




