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季節は巡り、春。
神の世代交代は続き、あれから海神ネレウスと大地神ゲブの戴冠が行われた。次に予定されているのは花神フローラ。花の盛りに、もちろんすべて放映具で生中継される。
人に歩み寄ることを決めた神たちは度々人前に姿を見せる。戴冠式以外でも何か知らせがある場合は放映具を使用したり、人と関わることに積極的な者はインタビューを受けたり。たまに街に出ては人々を驚かせたり。なんだか芸能人みたいね。
結慧は皆に借りた本を読んだり、神々の今までの歴史を紐解いたりしていた。誰かの戴冠式以外では神殿の外に出ることもない引きこもり。という事は、あれから人の前に姿を見せたのは二回だけ。それだってちらりと映るだけで喋ることなど一切なかった。
今日もまた、遠く離れた執務室からジリリリンと音がする。月の教会からの奏上の音が。
月神の執務室、その立派な机の上に置かれた通信具。人の使う、ティコの街や役所で見たものとは形が違う。けれども結慧には見覚えが、どちらかといえばこっちの方が親しみがある形。本体から通信器を外せば相手の声が聞こえてこちらからも話ができるアレ。
啓示や奏上にはあれを、とスミティから説明を受けた時の結慧はひどくしょっぱい顔をした。
神の啓示って、電話なのね……。
これまで一度もとったことのない電話は、これからもとるつもりはない。今までやってこれたのだからと、あの時に話した通り。
そもそも結慧は国外追放されているので、こちらにもあちらにもコンタクトを取る権利はないはずだ。
実際は国外どころかすごく近くにいるのだけれど。
「ユエ、入るぞー」
返事をする前に開けたら意味がないのよ、何度そう言っても学習しないウトゥにはもう何も言わない事にした。入ってきて欲しくないときは鍵をかける。
「これ聖女からだ!」
「あら、何かしら」
陽菜は明日、元の世界に帰る。
あれから太陽の国に帰った陽菜にこれからどうしたいかを聞いたところ、即答だったようだ。
結慧とは違って、彼女には元の世界に家族も友達もいる。突然何の前触れもなく交差点の真ん中に落ちたあの日から、きっと彼女の大切な人たちは彼女の帰りを待っている。
あの召喚で呼ばれたのは陽菜だった。
けれど、本当に巻き込まれたのは彼女のほう。
「……ふ、」
「何の暗号だ?それ」
ウトゥの持ってきた手紙、封を開けたら小さなメモ用紙が一枚きり。そこに書かれていたものに思わず吹き出してしまった。
電話番号と、メッセンジャーアプリのアカウント。
あまりにも向こうの世界らしい、友達のかたち。
笑って、自分のものをメモに認めウトゥに渡す。たった数ヵ月で忘れるはずがない慣れ親しんだ自分の番号。
陽菜の携帯にひっそりと登録されるのを最後に役目を終えるその文字列を一度指でなぞって。
ウトゥを見送り、また視線を本に戻す。
人の前に姿を見せる神の筆頭はウトゥだ。こんな使い走りのような真似までするとは、随分と気さくな神だこと。おかげで太陽への信頼は早々に回復したのでそれはそれで良いのかもしれない。明るく朗らかで親しみやすいと国民に大人気のようだ。
神と神との間の風通しも随分と良くなった。
ルールは定期的に見直し再検討する場を設ける事で、常にその時代に合ったものへと変えていく事とした。手始めに行ったのが神殿間の行き来の制限撤廃だ。今では全員が自由にすべての神殿に行くことができ、交流が増えた。
繋がりを持つ事で生じる不都合もあるだろうが、それはその都度全員で考え意見を出し合う事で解決する。
世界は変わっていく。
きっと、良い方向に。
結慧の元へはよくフローラとミヅハノメが訪れてはお喋りをしていく。ネレウスとアストライオスが歴史や法を教えに来てくれる。ヴァルカンがあちらの世界の技術に興味を持ち再現しようと息巻いている。ノトスとククノチもあちらのエンタメや食べ物に興味があるようだ。そこにウトゥやゲブがふらりとやって来ては茶々を入れていく。
穏やかな毎日。
窓から入る日の光に目を細める。
座ったソファから見えるのは、パステルブルーの春の空だけ。




