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「説明してくれるんだよな?部長」

「説明も何も、見たままが全部だよ」


 役所の医務室。保険医に怪我の治療だけしてもらい、あとはオシアスが引き継いだ。

 ユエに眠る膨大な魔力はあれだけ大暴れしても使いすぎという事はない。ただ経験の少なさによって身体が限界を迎えただけ。身体中を未だに駆け巡って出口を探す魔力を、オシアスが外から静めていく。

 気絶したユエと治療するオシアスがいるベッドのカーテンの向こう。部署の全員が顔を揃えていた。

 保険医には席をはずしてもらっている。


「あんな事できるなんて聞いてねぇぞ」

「魔法使ったことなかったんスよね?この間、」

「いや、問題はそこじゃない。そうだろう?」

「外見を魔道具で誤魔化してたのはそういう事か」

「……真っ黒な髪と瞳」


 その特徴をもつ者は、この世界でただ一人。


「偶然か?」

「元いた世界ではスタンダードな色らしいよ」

「そうは言っても、こっちじゃそんなの関係ないだろ」

「その言い訳が果たしてどこまで通用するかな」

「結構な人が見ちゃったっスよね……」


 ここにいる者は皆、彼女の持つ色が黒であろうが関係なかった。ユエはユエだからだ。けれど、そうではない人がいる事も分かっている。特に、街での活躍を見た人たちの目に彼女はどう映ったか。


 オシアスがカーテンを揺らした。治療が終わったらしい。ユエはまだ目を覚まさないが、さっきよりは顔色も良くみえる。


「オシアスが言ってたのって、この事?」

「……半分な」


 また、オシアスが遠くを見る。その目は窓の外、街を見透かして。

 

「嵐って言ったろ?吹き返しが来るぞ」




***

 

「雲行きが怪しくなってきたぜ」


 あれから二日。やはり街は噂で持ちきりになってしまっていた。結慧はすでに目を覚ましたけれど、噂の勢いが凄すぎて役場から出れないでいる。泊まり込みは慣れてしまっているから問題はないけれど。


「どうも話が擦り替わっていってるみたいだ」


 今まで噂になっていたのは「街を救った英雄」だった。それが「強大な力を持った恐ろしい女」に替わっている。それも、急激に。


「は?死者ゼロの恩をもう忘れちまったってのかよ」


 あの日、怪我人は多数出たものの死者も行方不明者も出なかったのは奇跡と言っていい。たった一人で大量の魔獣たちに立ち向かっていった女性の話はわずか二日でたち消えたことになる。


「早すぎる」

「誰かが扇動してたりしてね」

「誰かって誰っスか」


 街には不安が広がっている。その女の正体は何だ。その力はいったい何だ。なにか、企んでいるのではないか。


「……ごめんなさい、私、」

「またそうやって謝るんだからユエちゃんは」

「そうそう、何も悪いことしてないだろ?」


 もちろん、そんな噂に惑わされずに結慧を信じてくれる人はいる。ここにいる皆や、あの時一緒に街を走り回った衛兵たち。


 けれど、悪い空気はどんどんと広がってすでに街全体を覆ってしまっている。役所にいても、チラチラとこちらを見て何事かを話す人だっている。

 良い話よりも、悪い話の方が広まるのは断然早い。

 




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