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真っ暗。
目を開けても閉じても変わらない真っ暗な闇。そこに身体が浮いている。どういう訳か自分の身体は見えるのが不思議。いや、自分だけじゃない。結慧の周りにはたくさんの人が浮いていた。
魔獣に食べられた人たち。
こんなに沢山、一体の魔獣が食べたというのだろうか。いや、違う。あそこにいるのは
「アーベルさん」
結慧とはまた違う魔獣に食べられたはずのアーベルがいる。繋がっている。魔獣の中が。
とにかく、空を蹴って彼の手を掴む。それからぐるりと見渡して、ネーターも探す。いた。
二人とも意識がないけれど、手は温かい。よかった。
ここから出なくては。
出口はどこ?そんなものあるの?
今も周りには人が増え続けている。とつぜんふっと身体が浮かび上がってくる。つまり、食われた。ということは出口や入り口という明確なものは存在しないということだろう。
諦める?
……それは、嫌。
帰りたい。あの人のところへ。みんなのところへ。
落ち着いて。
できるか、できないかじゃない。
やるの。
暗闇に光が浮かび上がる。
それはくるりと舞うように動いて線になる。
まるで花蕾が綻ぶように、小さな光が丸く円く開いていく。浮かび上がる曼陀羅のような美しい模様。
この模様を、確かに知っている。
(ああ、そうなのね)
出来上がった紋がいっそう光を放つ。白銀の光。それはまるで、月の光にも似て。
闇が引き裂かれた。
「ユエちゃん!!」
ガシャンと硝子の割れるような音がして身体が空中に放り出された。雪の積もる道路に投げ出された身体が痛かったけれど、すぐにウィルフリードに抱き締められた。
「アーベルさん!」
「ネーター!」
「んん……?うわっ、お前鼻水つけんなよ!」
「あれ、食われたと思ったのだけど違ったかい……?」
二人も無事。意識もある。ウィルフリードの腕の中から周りをぐるりと見渡せば、何人もの人が倒れていた。
食われていた人が一緒に出てきたのか。
魔獣はいなくなっていた。
「無事でよかった……っ」
ぎゅう、と苦しくなるほど抱き締められて。ああ、心配させてしまった。
「……ウィルさん」
私、分かったの。
私が誰か、いいえ、少なくとも私の中にある力の使い方は、分かった。
だから、
「いかなきゃ」
できることを、しなくちゃ。
でも、だけど。
身体が震える。怖い。魔獣が?自分の力が?
いいえ。
後戻りできなくなりそうで、怖い。
ウィルフリードの服を掴む手を離したくない。
「…………そっか」
身体が離される。静かな声。
先に覚悟を決めたのはウィルフリードのほう。
そうしていつだって、結慧の手をとって先導してくれる。
「分かった。行っておいで」
でもね、これだけは絶対に約束して。
「絶対に、俺のところに帰ってきて」
待っているから。ここにいるから。
だから、
「君ならできるよ、大丈夫」
信じてる。
「――――はい」
手を離す。もう大丈夫。
ウィルフリードが信じてくれるのなら、できる。
何だってやれる。そんな気がする。
「魔獣が!」
誰かが叫んだ。道の向こうからまたやってくる黒い獣。それを見据えて、一歩踏み出す。
彼の手が背中に触れた。




