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「ねぇユエちゃん、内緒話していい?」

 唐突に発せられたウィルフリードの言葉に首を傾げる。内緒話、とは。


「月神様と連絡がつかないのは知ってるかな」


 ある日突然、いくら呼び掛けても答えが返ってこなくなった。もちろん、向こうからの声もない。中央の神官が総出で、魔力が尽きる程に何度も何度も儀式を行ったけれど応答はない。ついに国内の有力魔術師に極秘の協力依頼が出されたがそれも未だに成果は出ていない。

 試行錯誤は今も続いている。


「ええ、太陽の国で聞いたわ。三年前から姿を隠してるって」

「違うんだよ。三年前からじゃないんだ」

「え?」

「二十六年前からなんだよ」


 言葉につまった。

 そんなに前から、でも、


「この世界に来たときに、太陽の国で説明を受けたのは……」


 太陽神の宝珠を奪い、人々から太陽を奪った月神は姿を見せなくなった。太陽神がいくら呼び掛けても返事をしないのだと。

 それは、三年前からの事だと。


「全部が三年前のことだと思っていたのだけど」

「みんなそう思ってるだろうね。月神様の事はこの国の政治部と中央教会が隠していたから」

「三年前、太陽が昇らなくなってから太陽神が言い出したんだ。月神様が宝珠を奪って行方をくらませたってな」


 だから月の国としても月神様の声が聞こえないと発表せざるを得なくなった。ただし、いつから、というのは伏せたままにした。


「ところで、宝珠というのは?」


 聖書にも、解説書にもあった宝珠。これで物事を操る、と書かれていたけれど。


「神の力の結晶だな」


 神は宝珠を使って象徴物を管理する。月神ならば月の満ち欠けと夜の時間を。太陽の宝珠であれば太陽の活動と昼の時間を。

 太陽の宝珠を奪えば太陽を制御できる。たとえば、太陽を地平線よりも上に昇らせないようにするとか。


「けどそれを月神様がやるとして、いったい何のために?って話なんだよね」

「太陽の国では、太陽神の力を削ぐためだと言っていたわ。だけど、」

「やり方が悪すぎるだろ」


 神の力の源は、人々の信仰心にある。

 どれだけ人の心を集められたか、どれだけ篤く祀られたか。それにより、力の大小が決まっていく。

 太陽神から宝珠と太陽を奪えば、確かにそれだけ太陽神の力は弱まる。けれど、それが月神がやったのだと知られれば月神の求心力は弱まる。太陽とは、人にとっては絶対に必要なものなのだから。

 実際に、太陽が昇らなくなって以降月教会へ訪れる人は目に見えて減っている。

 逆に、太陽教会へ行く人は増えたのだという。


「それに、二十六年前からというならどうして今さらこんな事を」

「動機も、何故この時期なのかも、今どこにいるのかも。何もかも分からないんだ」

「ただ、月神様に奪われたって言ってるのは太陽神だけなんだよな」


 一人の証言だ。けれど、神の言葉だ。

 月の国は唇を噛むしかない。


「その……他の方と連絡はとれないのかしら。だってあれだけの神殿に一人だけで暮らしてるとは思えないし、後継者の方とかいらっしゃるのでしょう?」

「各国の教会には事情を話して奏上してもらったけど駄目だったね。月神様と友好的な国も」


 月神の属神である海、星、水、風。その神からの呼び掛けにも一切答えることはなかったという。


「それから、確かに神には付き人のような者がいると言われてるが……これだけ呼び掛け続けても答えないんだから諦めた方がいいな」


 緊急事態だ。あちらとしても、連絡がとれる者がいるのならばそうするだろう。それがないという事は、できないか、意図的にやらないか。

 どちらにせよ同じことだ。


「あとは、後継者だけど」


 これも、二十六年前の事。月神に後継者となる子が生まれた。それはきちんと発表され、国中、世界中で祝福された。

 けれど、それから一ヶ月もしない内に連絡がつかなくなってしまった。


「じゃあ、月神様本人と、子供、それからもしかしたらご家族も」

「……それは、分からない」


 考えられる可能性は三つ。

 一つ目。何らかの事情により連絡手段がなくなってしまった。

 二つ目。太陽神の言うように、宝珠を奪って姿を隠している。

 三つ目。神の家系が途絶えた。


「一つ目と二つ目ならまだいいんだ。なんとかなるし、なんとかできるかもしれない。でも、」


 三つ目だけは、駄目だ。

 神がいなくなる。世界の理が崩れる。

 取り返しは、どうしたってつかない。


「……そんな大切な話、私なんかが聞いてしまってよかったんですか?」


 ウィルフリードとオシアスは顔を見合わせた。

 それから、二人で頷く。


「君は……知っておいた方がいい。多分な」

「それに、うちの部署は皆知ってるから。仕事上で齟齬が出ても困るしね」


 カラリ、氷の溶ける音がした。

 随分長く話したような、そうでもないような。

 結慧の手元のカップからは、いつの間にか湯気が消えてしまっていた。 




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